大学が中心となって「日本文化を考える学会」の新設が広がっています。どういうことなのか?4月9日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で取材報告しました。
大学生のみなさんはきのうで春休みも終わり、新学期です。そんな中、いま日本中で「日本文化を考える学会」の新設が相次いでいるようです。まずは京都で新設された「和食文化学会」。京都府立大学・和食文化研究センター特任教授 佐藤洋一郎さんのお話です。
★和食を研究する「和食文化学会」
- 京都府立大学・和食文化研究センター特任教授 佐藤洋一郎さん
- 「立ち上げたのは今年の2月の下旬。名前は『和食文化学会』です。和食文化が『ユネスコの無形文化遺産』に登録されたが、“和食って何?和食文化って何?”と誰に聞いても明快な答えを出せる人がいないんです。学問の立場から答えられないのはありえない事で、食文化を、文系・理系を超えていろんな立場から研究しようという学会なんです。」
和食を学問的に扱う初の学会だそうで、きっかけは2013年に、和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことで世界的な和食ブームが到来。そのタイミングで企画され今年新設された大きな学会です。学会だけではなく、京都府立大学では来年の4月に「和食文化学科(仮称)」を新設予定。さらに同じ京都の立命館大学ではこの4月から、「食マネジメント学部」が新設されていて、このように日本の伝統「和食」を、学問としてしっかり研究しようという動きが進んでいるんです。
★日本酒を学問的に扱う「日本酒学」
そして、日本文化を学問として研究する動きは和食だけではありません。続いては、新潟「日本酒」です。新潟大学農学部の鈴木 一史さんのお話です。
- 新潟大学・農学部 鈴木 一史さん
- 「新潟大学において『日本酒学』という新たな学問を立ち上げます。新潟大学は総合大学ですが、すべての学部の中から教員が参加して、新潟大学の中に『日本酒学センター』を作りました。こういうものはなかったですね。全国で初めてということは世界で初めて。そして講義も行うことになっていて、日本酒に関わる歴史・文化・マナー・醸造学の基礎的な面、日本酒に関わる幅広い内容を座学で勉強する講義になります。」
新潟県といえば日本酒が有名。県内の蔵の数は90あり、この数は日本一ということです。やはり、日本酒も和食と同じく個々で研究されることはありましたが、学問として大きな意味で研究されてこなかったということで、新潟県と新潟県酒造組合、そして新潟大学の3つの団体が連携協定を組んで、研究拠点「日本酒学センター」を開設しました。このセンターは、日本酒の醸造・発酵・文化・歴史・税金・健康・マナーなどを、経済学部、法学部、工学部、医学部、歯学部の先生方が研究する、こちらも大きな団体です。
そしてこの新潟大学では、今週水曜日4月11日から「日本酒学」の講義も始まります。日本酒学は、3つの科目が用意されていて2つは座学。1つは実習を含むもの(実習では「利き酒」を取り入れる授業もあるので受けられるのは20歳以上の学生のみ)。200人の定員で募集したところ600人が受講を希望するほど人気なんだそうです。
★極めて真面目な研究です「忍者学」
ここまで、和食・日本酒ときましたが、まだあります。次は三重大学が中心になって生まれた学会。三重大学の高尾善希准教授のお話です。
- 三重大学・准教授 高尾善希さん
- 「『国際忍者学会』という学会で、今年の2月17日に立ち上がりました。また、今年の4月からは三重大学の大学院 人文社会科学研究科で、忍者学のコースができました。忍者というと、今まで実証的に研究されることがなくて、アニメや映画で取り上げられるものであまり学問的に研究するべきものではないと考えられていた。外側から見た日本文化は大体、ゲイシャ・フジヤマ・武士・忍者。忍者学に対する眼差しが高まってきたので、その集まりができたということなんです。」
三重大学は伊賀市にあるため、忍者を研究する忍者学のコースができました。名前を聞いただけでワクワクする「忍者学」。具体的に何を学ぶのかというと、
- 実在していた忍者の研究(江戸時代、日本全国にいたスパイ活動専門の武士)
- フィクションとしての忍者の研究(小説・映画・アニメなどで描かれる忍者は、どう発生してどう広がったのか)
- 色々な忍術書に書いてある忍術を、実際に理系の先生が実験してみる。
忍者は国際的にも大人気ですが、外国の方の中には「まだ日本にはサムライがいる」、「忍者が街を歩いている」と考えている人もまだまだ多いそうで、正しい忍者の知識を広げていきたいとの事でした。
★海外への情報発信に繋げたい
ただ、「忍者」を研究することになるまでは迷いもあったそうなんです。再び三重大学の高尾准教授のお話です。
- 三重大学・准教授 高尾善希さん
- 「学問対象として、真面目に認識されてこなかった。今でもツイッターで三重大学が忍者学専攻を設けたことに対して『国立大学のくせになにやってんだ』というものをよく見るが、こちらは大真面目。なにを学問対象にするかは自由であるべきで、日本の文化として広く知れ渡っている中のひとつが忍者。日本文化の一環として実証的に研究していかなきゃいけない分野だと思います。」
京都府立大学の「和食」、新潟大学の「日本酒」、三重大学「忍者」。どの大学も、自分たちでもっと日本の文化を知って、海外に向けて情報を発信したいとおっしゃっていました。