今年はクルマの暴走事故がクローズアップされました。特に、ブレーキとアクセルのペダルの踏み間違いによる事故は、ほかの操作ミスに比べて死亡率が高いのでその防止が課題になっています。自動車メーカーでは最新技術を使った自動ブレーキの開発などを進めていますが、中小企業の中にも、メーカーとは違ったアプローチで取り組んでいるところがある、といいます。そこで・・・。
「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」!!今日12月20日(火)は、レポーター近堂かおりが『アクセル踏み間違い防止装置!』をテーマに取材しました!
★踏み間違いが起こらない仕組み!!
例えば、神奈川県横須賀市の「株式会社カイ」。こちらでは、ペダルの踏み間違いが起こらないための仕組みを考えたといいます。取締役兼開発担当の大野一郎さんお話。
- 大野一郎さん
- 「手動スロットル装置というものがあります。これは手でアクセルを操作する装置です。向かって左側の肘かけの場所にその手動スロットルを設置しました。だいたい手で握れるぐらいの大きさです。中にバネが入っていて、親指の腹で前に押すとスロットル がオンになるんです。(ではハンドルは片手で持つんですか? 危なくないですか?)そのため、片手で運転できるためにハンドルにノブを付けるんです。そのノブを持ってハンドルを操作すると、片手で楽に回せるようになります。(元々付いていたアクセルは?)それはもう手のほうにきているので、足にはアクセルはありません。足元にはブレーキペダルしかないので踏み間違いは絶対にありません。」
確かに、自動ブレーキは止めてくれるかもしれませんが、ブレーキとアクセルが並んでいる限り、踏み間違いのリスクは残っています。だったら、ブレーキとアクセルは足と手に分けてしまおうというのが大野さんの発想。
右ハンドルのクルマの場合、左手でアクセルを操作する。装置自体の大きさ葉左手を軽く広げて乗せられるくらいの大きさで、シフトレバーの少し後ろに設置する。親指があたる部分にはレバーが付いている。これを親指で前のほうに押し出すと、足でアクセルを踏み込むのと同じ状態になるのです。
★事故調査官の経験を活かして・・・
実は、大野さんは元々、国土交通省で航空機の事故調査官をやっていた方で、事故の原因究明や事故防止が専門だった。その時の経験を開発に活かしている。再び大野一郎さんのお話です。
- 大野一郎さん
- 「間違えてアクセルを踏んでクルマが急加速すると、人間は死の恐怖を感じるんです。そうしますと、難しい言葉でいうと、脳の「前頭前野皮質」というところが機能不全を起こしてしまうんです。要するに何も考えられない状態になってしまうんです。そうすると、機能不全を起こすちょっと前の行動しかできなくなってしまうんです。すなわち「(ペダルを)踏む」ということしかできなくなってしまうんです。人間である限り必ずミスしますから、そのミスをしても破滅的な結果にならないことが大事なんです、飛行機でも自動車でも。それを機械のほうで吸収するという考えです。」
踏み間違えた当人は、間違えていると思っていないから余計アクセルを踏み込んでしまう、つまり、足が離れないのです。
★踏み間違えたときに、止める仕組み!!
大野さんの装置は、ブレーキとアクセルの踏み間違えをなくそうというものですが、これとは別の発想で、ブレーキとアクセルを踏み間違えてしまっても、クルマが止まるようにできないか、と考えた方もいました。埼玉県川口市のナンキ工業の代表、南平次さん。
これが、実物のモデルです。
一見、普通のブレーキペダルとアクセルペダル。操作の仕方も普通のクルマと同じ。ただ違っているのは、ブレーキとアクセルがそれぞれ別々の独立したペダルではなく、途中でつながって一体化していること。では、これがどのように踏み間違い事故を防いでくれるのか、南平次さんにお話を伺いました。
- 南平次さん
- 「ブレーキと間違えてアクセルペダルを一定以上踏み込んだ時に、アクセルペダルがブレーキペダルとして作用するという構造のものです。(ピピピピ…という音が鳴っていますね?)これは、ブレーキに切り替わったというブザーです。(普通に踏み込むと車が進むわけですね?)そうです。普通のメーカー仕様のアクセルと同じ能力が出せますので、急加速とかキックダウン、高速道路の合流などは問題ないんです。通常のアクセルペダルの「ベタ踏み」状態、それ以上踏んだ時に初めてブレーキとして働くという装置です。」
このアクセルペダルを通常の運転と同じように踏んでいる分には、緊急ブレーキは作動しない。最後まで踏み込んだ、いわゆる「ベタ踏み」の状態まで踏んでも大丈夫。
だがブレーキとアクセルを踏み間違えるようなケースでは、ベタ踏み以上にアクセルを踏み込んでいる。そうすると、この南さんのペダルは、安全ロックが外れてアクセルペダルを踏み続けた状態でブレーキペダルも一緒に踏み込まれる仕組み。
ブレーキペダルも、触っていないのに踏み込まれているのが、分かりますか??これは、先ほどの大野さんが教えてくれた、ある種のパニックを起こした脳とその行動をよく理解した装置ですよね!ITを使った最新の自動ブレーキとは対極にあるような装置だがなかなか優れものです!!
★一般道で使っていいの??
しかし、この装置を取りつけて一般の道路を走っても問題はないのか?再び南さんに聞きました。
- 南平次さん
- 「国交省は、車検場でみて安全上問題ないということであればOKという考えです。(では車検が通れば公道を走れる?)はい。(今後はどうするんですか?)これは私が作って一人でやっていても限度があるので、大手の部品メーカーに作っていただいて、打合せにこれから入るんですけど。お客さんは今まで通りの修理屋さんやディーラー、お付き合いしているところに行けば手に入るようなかたちで、来年の夏ごろになんとしてもそういった体制まで持っていきたいと思って。まあ、実証しないと国が動かないものですから、来春早々からやろうかと思っています。」
大野さんも南さんも、ご自分たちの装置をクルマに取り付けて、車検に合格して、すでに一般道を走っています。来年以降、実証実験など普及に向けて取り組んでいく予定だそうです。
踏み間違いは高齢者に限らず、ドライバー全般に起こりうること。ドライバー自身の注意はもちろん、こうした対策が早く進むことを期待したいですね。