福島原発の廃炉の問題が続いていますが、原発事故の被災者の保障の問題も、浮上しているようです。「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材しました。
今日の国会で、国の被災者支援の方針に反対する署名が提出される予定です。どういった署名なのか。「原発事故被害者の救済を求める全国運動」を行っている、FoE Japanの理事、満田夏花さんのお話です。
★避難指示区域以外の避難者は、住宅支援が打ち切りに
- FoE Japanの理事、満田夏花さん
- 「原発事故の、政府支持の避難区域外からの避難者に対する、今行われている住宅の支援が来年の3月で打ち切られようとしているんですね。かなりの数の人達がそれ以降の行先が決まっていないということで、今支援が打ち切られてしまうと、露頭に迷ってしまう、あるいは経済的な理由から困窮してしまうということで署名を呼びかけました。20万筆集まっています。」
原発事故による国の避難指示が少しずつ解除されてきていますが、まだ不安を感じ、福島県外の避難を続けている人が、去年の統計で全国におよそ1万3000世帯、2万5000人います。この方たちに対しては現在避難先の各都道府県が公営住宅などを提供し、国や福島県が家賃を全額負担する「みなし仮設」の支援が行われています。それが来年3月で打ち切られます。
理由を分かりやすく言うと「福島に帰ってもらうため」。ただ、避難指示解除後も避難している方のおよそ7割が、帰るかどうか決めていません。その理由について、千葉県松戸市の自主避難者の集い「東日本大震災復興支援松戸・東北交流サロン 黄色いハンカチ」で当事者に聞きました。
★福島に帰らない理由=避難指示解除でも本当に安全?
- 南相馬からの避難者(60代・女性)
- 「南相馬市原町区から松戸市に避難してきました。うちは被災して半年後に避難解除になった。たった6か月。その当時、年間7ミリシーベルト位は当たり前にありました。チエルノブイリ法だって1ミリシーベルトですよね。当たり前の健康状態が守れないので、まず除染ありきですよね。線量が下がらないと帰れないんです。」
日本では安全となっていますが、同じ状態でも海外では安全じゃないとなっているんですね。この方が住んでいた南相馬市の家は原発から26キロ。チエルノブイリの原発事故後定められたチエルノブイリ法であれば、年間1ミリシーベルト以上の被ばくが強いられたとして立ち入り禁止となるレベルで、実際チエルノブイリでは30キロ圏内は封鎖されています。ですが日本においては年間の被ばく線量が20ミリシ―ベルトを超えなければ「避難指示区域外」になる。つまり元の住所に帰りましょうということで、今後は支援が打ち切られます。
ただ、海外の安全基準が正しいのか?日本の安全基準が正しいのか?はっきりわからないので、やっぱり帰れない、という方が多いようです。
一方、別の理由で、帰れないという声もありました。
★福島に帰らない理由=新たな就職先が見つかるのか?
- 南相馬からの避難者(60代・男性)
- 「うちら夫婦と息子と孫と来てるから。こっちで仕事をしちゃってるでしょ、息子は。だから帰れないっていうの分かってるから、どうするかなと思って。向こうに行って仕事あるんですか?無いでしょ。」
この方は60代で、奥様と、40代の息子さん、19歳のお孫さんの4人暮らし。息子さんは松戸に来てすぐ電機関連の仕事に就き、お孫さんも今年から工事現場で働き始めたばかり。支援を打ち切られたら、松戸の高い家賃を払えるのかどうか。一方、福島に帰ったら家はあるけれど新しい仕事が見つかるのかどうか、難しい。こうして、帰りたいけど帰れない、ということでした。
福島県はこういう悩みを抱えて帰れない人のために、来年3月以降も避難先の家賃を半額、上限3万円を支給して福島に帰るまでの猶予を与える方針ですが、月収21万4000円以下の低所得者に限っています。全てを援助するのは確かに難しいと思いますが、避難している側からすると、これも辛い現実です。
結局、国や自治体としては「帰ればいいのに帰らない人」という認識ですが、避難している人たちからすれば「帰りたいのに帰れない」というのが実態。この認識の溝が埋まらないので、今回の家賃の支援の打ち切りも、議論は平行線となっています。
家賃の支援を打ち切るというのは「冷たい政策」という感じがしてしまいますが、そうした中、積極的に避難継続を支援する動きもありました。埼玉県・都市整備部・住宅課 山田貴志さんのお話です。
★埼玉に住み続けたい避難者が、公営住宅に入りやすく
- 埼玉県・都市整備部・住宅課 山田貴志さん
- 「来年1月から、特別県営住宅、中堅所得者向けの住宅で、家賃は間取りによって3万3千~7千円。そちらについて、収入要件を自主避難者については撤廃する方向で考えている。さらに入りやすくなるということはあります。」
埼玉県では、むしろ支援を広げようという動きになっているんです。なぜ、こういう取り組みを行うのか?伺ったところ、埼玉県では、避難している人達に戸別訪問するなどして耳を傾け、8割が、このまま埼玉に住み続けたいと言っていたことを重視。所得制限ありの県営住宅100戸に加え、所得制限なしの特別県営住宅50戸を設けた、ということでした。
こうした自治体の取り組みは、避難している人にとっては大きな救いですが、残念ながら、広がりはまだでていません。県によっては、避難者の住居について今後の対応は特に予定されていないなど、自治体によって対応はまちまちで、避難生活者の生活は、来年、支援が打ち切られると、苦しくなると、心配する声が高まっています。
(取材・レポート:田中ひとみ)
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