2018年の総務省の調査では、全国で849万戸が空き家状態で、割合にして13.6%。過去最高の数を記録しています。この問題をどう解決したらいいのか?新たに生まれている「空き家の活用方法」について、6月10日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。
まずは、都内で最も空き家率が高い豊島区で、昨年始まったばかりの、空き家のシェアハウスについて。運営する、一般社団法人コミュニティネットワーク協会の、渥美京子さんのお話です。
★高齢者や障害者のための、空き家のシェアハウス
- 一般社団法人コミュニティネットワーク協会 渥美京子さん
- 「ここは単なるシェアハウスではなく、高齢者、障害者、生活困窮者のみが住むことができる住まい。もともと一戸建ての空き家になっていた住宅をフルリノベーションして、中身は新品。初めての試みで社会実験的な面も。例えば今は、賄いが得意な83歳の女性が、ご飯を若い人に作ってあげたり。彼女は、お風呂の沸かし方や、夜、鍵穴が暗くて見えなくて困ってる、そういうものを若い人が支える。高齢者と障害者が一緒に住んでどんな暮らしになるのか、とてもいい感じ。予期せぬ支え合いが、自然発生的に生まれているようです。」
この「共生ハウス西池袋」は、JR池袋駅から徒歩13分。7年間空き家になっていた、築35年の一軒家をシェアハウスに改修し、1年ほど前から運用されています。
そもそも一人暮らしの高齢者や障害者は、孤独死や、家賃の滞納などのリスクを理由に、不動産会社などから入居を拒否されることが少なくないそうです。そこで、こうした人の、入居を拒まない住宅として、全国で登録が進められているのが、「セーフティーネット住宅」と呼ばれる物件。今回は、その一つで、国や自治体から改修費や家賃に補助が出ます。
6畳ほどの部屋が、全部で4つ(台所・風呂は共有)。本来の家賃は、7万9千円ですが、区から4万円の補助が出るので、実質3万9千円。コロナの影響で仕事が減り、住んでいた家を追い出された高齢女性と、元引きこもりで発達障害があり、障害者年金を受けている40代の男性。この2人が、同居人として、支え合いながら暮らしているようです。
現在、2部屋空いており、入居希望者で自分が補助の対象かどうか気になる方は、コミュニティーネットワーク協会に、問い合わせてほしいということでした。
▼一般社団法人コミュニティネットワーク協会
https://conet.or.jp
★借り手の情報を発信、「さかさま不動産」
コロナ禍で始まった、空き家の新しい活かし方。続いては、同じく昨年立ち上がった、空き家のマッチングサービス「さかさま不動産」です。サイトを運営する、株式会社On-Coの、水谷岳史さんのお話。
- 「さかさま不動産」水谷 岳史さん
- 「従来は、「不動産情報」を見て、借りたい人が物件を選ぶ探し方だったが、僕らは「さかさま」なので、「借りたい人の情報」を先に掲載します。「畑付きの家が欲しい」「高尾山のふもとにアート村を作りたい」など、借りたい人の情報を発信して、共感してくれた大家さんが「うちの家を貸しても良い」とマッチングし、契約するサービス。」
テレワークが増えたことで、地方への移住を考える人が増えていますが、そんな中で、注目されているのが、「さかさま不動産」。通常、空き家を貸したい人と、借りたい人は、不動産業者や自治体の、「空き家バンク」を通じて取引することが一般的。ただ、価値の低い物件は掲載されず、そもそも登録数が少ないことが課題となっていたそうです。
その点、「さかさま不動産」のサイトには、物件情報ではなく、借りたい人の経歴や、引越し先でやりたいことが載っています。例えば、「地元・名古屋で本屋を開業したい」という女性が、名古屋の商店街の空き家とマッチングしたり、海洋プラスチックごみを使ったアーティストの男性が、「海の近くにアトリエが欲しい」と書き込んだところ、三重県の海辺の空き家と契約が成立したりと、現在までに4件の移住が実現したそうです。
★空き家が地域を変革する
そして、冒頭のシェアハウスの渥美さんと、「さかさま不動産」の水谷さんにお話を聞いていると、どちらも共通していたのは、社会問題そのものの「空き家」 が、その地域の別の問題を解決するための器にも、なり得るということでした。
- 一般社団法人コミュニティネットワーク協会 渥美京子さん
- 「事務所の本部がある豊島区は、23区の中で空き家率がトップ。賃貸住宅に住む単身の高齢者の割合もトップ。既に新しいものを作る時代じゃない。今あるものを上手に活用して、最も困ってる人たちに安心の住まいを提供することが大事だと考えた。」
- 「さかさま不動産」水谷 岳史さん
- 「僕は空き家を町の余白、「関わりしろ」だと思ってる。この地域は若者の挑戦を応援してくる町なんだと、プロモーションに使ってほしい。」
水谷さんは、希望を持つ若者に空き家を貸すと、彼らがローカルヒーローになって、また別の若者が集まってくることもあるということでした。
空き家をただ埋めて終わり、ではなく、高齢化などの地域の活性化に活用したり、孤立や貧困を解決する福祉に活かしたり、空き家を「負の遺産」として捉えるのではなく、社会問題を解決するツールとして機能していました。