新型コロナウイルスのワクチン接種がなかなか進みませんが、その裏で、別の病気のワクチン不足が起きていました。4月29日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。
コロナとは別のワクチンが打てない・・・幼い子のいる親の間で、焦りや戸惑いの声が広がっているということ。何が起きているのか?詳しいお話を、佐久医療センター・小児科の坂本昌彦さんに聞きました。
★「日本脳炎」と「おたふく風邪」のワクチンが足りない!
- 佐久医療センター・小児科医 坂本昌彦さん
- 「今年の1月から、「日本脳炎」のワクチンの製造が、製造工場の不具合で滞っています。通常、年間400万本製造されるものが320万本。80万不足している状況です。もう一つが「おたふく風邪」のワクチンで、これも年間160万人ほど接種しますが、80万本しか接種されておらず、およそ半分、供給が滞っている状態です。電話や窓口で、すでに接種の予約をした保護者に対して、予約の取り直しや、スケジュールの立て直しをお願いすることが、実際に起こっています。」
ツイッターでは、「お医者さん3軒回って何とか受けられた」、「来年以降にまた電話してと言われてしまった」、「スケジュールがずれるのは親としても困る」など、たくさんの心配の投稿がありました。
では、なぜ、ワクチン不足が起きているのか。まず、日本脳炎のワクチンは、国内シェア8割を占める阪大微生物病研究会で設備トラブルが発生。「製造するワクチンの原液の中に微生物が発生」したため、工場が一時停止となりました。
一方、おたふく向けワクチンは、国内のおよそ半分のシェアを占める武田製薬工業の工場で、「フィルターの不具合」が見つかり、一時的に稼働がストップ。いずれも、大きなシェアを占める工場が出荷を停止したことで、今年度の供給が不安定な状況になっています。
一般的なスケジュールを見ると、日本脳炎は、3歳で2回、4歳で1回、9歳で1回と、計4回の接種が推奨されていて、原則無料で受けられる「定期接種」。一方、おたふく風邪は、1歳と、小学生になる前の2回の接種が推奨されていて、費用は原則自己負担の「任意接種」。
しばらくは、こうしたスケジュール通りには接種できない状況が続きそうです。
★おたふく風邪は「難聴」が怖い
では、ワクチンを打たないと、どのような恐れがあるのか?坂本さんに聞きました。
- 佐久医療センター・小児科医 坂本昌彦さん
- 「「日本脳炎」は、日本脳炎ウイルスを持った蚊に刺されるとかかります。脳炎の原因として非常に怖い病気で、子供がかかると重症になります。「おたふく」は任意接種ですが、実際には定期接種と同じ位大事なワクチンです。一回、罹って免疫をつければいいという方もいますが、おたふくで困るのが難聴です。合併症で「おたふく難聴」になることがあります。よくあるのは、片耳だけの難聴で気づかれにくいんです。学校の検診で「片耳がほとんど聞こえてないですよ」となって気付きます。これは治療で治すことができないので、それを防ぐという意味でもワクチンはすごく大切です。」
「おたふく風邪」は、発熱や、頬の下に腫れや痛みが出ますが、100人に1人の割合で髄膜炎、1000人に1人の割合で難聴となるなど、症状そのものよりも、合併症が怖い病気とされています。
また、「日本脳炎」は、高熱や痙攣、意識障害などを引き起こします。国内では毎年10人前後の発症ということで数は少ないですが、発病した時の死亡率は2~4割前後、回復しても4~7割に後遺症が残るとされています。特効薬もないため、やはり、ワクチンで予防することが大切になってきます。
でも、その大事なワクチンが足りていない…。
そこで、厚生労働省は、供給が安定するまでの当面の間、「接種の優先順位を設けましょう」として、医療機関に、対応を求めています。日本脳炎については、4回のうち、始めの2回を優先。おたふく風邪については、2回接種のうち、1回目の接種を優先させるというものです。
新型コロナで、1回目を優先、2回目を先送りというニュースがありましたが、似たような状況になっています。
★「蚊」と「飛沫」に注意
この接種の先送り心配ですが、坂本さんによると、接種を全て終えていなくてもある程度の抗体はできるので、焦らなくて大丈夫ということでしたが、待っている間、どのように対処すれば良いのか?坂本さんに聞きました。
- 佐久医療センター・小児科医 坂本昌彦さん
- 「日本脳炎のウイルスは、元々豚の体の中で増殖して、豚の血を吸った蚊が人を刺すことで起きます。都会で近くに豚小屋がないエリアでは、そこまでリスクはありません。ただ、田んぼの近くに行く時は、肌の隠れるような服装を着たり、蚊除け対策が効果的です。おたふくに関しては、基本的に接触感染なので、新型コロナと同じ感染対策をやっていただくのが大事かと思います。」
おたふく風邪は、コロナと同じ咳やくしゃみなどの飛沫・接触感染ですが、病原体自体の感染力の強さは新型コロナを大きく上回るので、より慎重になる必要はありそうです。
そして今後はワクチンの供給状況をかかりつけ医に確認し、流通が落ち着いてきたら、必ず接種してほしい、と坂本さんは話していました。
「受けたい時に、ワクチンが手に入らない」ということを起こさないためにも、入手ルートの柔軟な確保が大事と言えそうです。