先月21日に発生した足利市の山火事に関するお話。106ヘクタールが燃え、9日後の3月1日の午後4時に鎮圧の発表がありました。結局一週間以上燃え続けていたわけですが、ニュースを見ていて、「山火事はなぜなかなか消せないの?なにが難しいの?」という素朴な疑問が。そこで・・・。
「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」!!今日3月8日(月)は、『改めて知る山火事の怖さ。なぜ、なにが、怖いのか。』というテーマで取材しました。
★山火事の消火活動はなぜ時間がかかる?
そこで、専門家に伺いました。元麻布消防署長で、市民防災研究所理事の坂口隆夫さんのお話です。
- 坂口隆夫さん
- 「消防関係のヘリコプターだと、一回の散水が900リットル、自衛隊のヘリになると5トンくらいの水を一回で散水するということなんですね。じゃあ、消えそうじゃないか、と思うんですけども、燃えている範囲が非常に広いと、それから、燃えているのは地表面の下草だとか枯れ葉だとか、なかなか上から散水しても樹木が生えてますので、ストレートにはいかないわけですよね。ヘリコプターもですね、あまり低い位置で散水をすると、風圧で火を煽ってしまったりそういう危険もあるんですね。ですからある程度の一定の高さから放水する、ということになるんですよね。」
そもそも山火事は、そこに人がいる市街地の火災と比べて、発見が遅れることが多く、通報の段階ですでに大きな火災になっていることが多い。また、乾燥して、風の強い日に起こりやすいものなので、強い風で延焼の速度が早い。
上空からの消火は、ヘリのタンクに水を入れて散水するため、何度も給水に戻る必要もある。(今回も一日40回以上も散水をしています。)今回のような市街地の中の山火事の場合、夜間は、安全のためヘリは飛ばせず、夜のあいだに延焼が進んでしまうことも。
そして、水が強風に流されて目標通りにいかないこともあるけれど、炎を煽ってしまう危険があるため、一定の高さからしか散水できないんです。木々に遮られて実際に燃えている地面に直接放水できない・・・。
さまざまな要因で、山火事の消火活動には時間がかかってしまうんですね。
★鎮火の作業は、まだ続いています
ところが、まだ作業は終わっていないんですよ、と坂口さんはおっしゃいます。
- 坂口隆夫さん
- 「鎮圧ということで、炎は消えているわけですけれども、まだ鎮火してないんです。10センチ20センチ、谷の部分では1mも枯れ葉等がたい積しているわけですから、一見消えたようで、炎は上げてなくても、火種は残ってるんです。ということは、また燃え出すということです。いま作業しているのはですね、火種が残っていないかどうか、地上から消防隊・消防団の人たちが、中に入って、背中に18リットルほど水の入った「水のう」を背負って、水鉄砲みたいな形で、火種を見つけると消しながら確認をしていくということなんです。ですから大変な作業なんです。まだやってるわけなんですね。完全に火種が消えて鎮火するまでは、やはり安心はできない、ということですね。」
まだ作業は続いていたんですね。確かに、まだ、鎮火した、とは報道されていないのです。鎮圧の後まとまった雨も降ったので鎮火が早まりそうとのことでしたが、山を歩いて火種を探し、一つ一つ消し続けているのです。106ヘクタールは東京ドームおよそ23個分です!山火事を鎮火させる、というのは、本当に気が遠くなりそうな大変な作業です。
★地表火なのに106ヘクタールも燃えた!
一方で、鎮圧後に現場に入った森林防災の専門家は、今回の山火事について、少しめずらしい現場だった、と話しています。森林総合研究所・森林防災研究領域の玉井幸治領域長のお話です。
- 玉井幸治さん
- 「落ちている枯れ葉や枯れた枝だけが燃える火事を地表火というんですけれども、見た感じ地表火としての火の勢いはそんなに強くなかったのかな、という印象を持ってます。なぜかというと、地面から50センチから60センチ位のところにあって、生えていた常緑樹の葉も燃えていないんですよ。大きな木の幹もほとんど焦げていなかったので、地表火としての勢いは強くなかったと思っています。で、その割には非常に燃えた面積が多くて、ということは、燃えた落ち葉が風に吹き飛ばされて燃え移っていった、という風に思いますね。50センチのところにあった生きた葉っぱも燃えて、どんどんどんどん炎が高い所にある生きた葉に燃え移っていって、で、生きた木の葉っぱが枝ごと飛び火することもあって、その場合はもう1キロメートル先まで飛び火した報告も聞いたことがあるので、もっと被害が拡大した可能性はあると思います。」
地面の落ち葉や枯れ枝だけが燃える火事を「地表火」といいますが、地表火は1ヘクタールも燃えると、ずいぶん燃えたな、となるそうですが、今回地表火が中心だった焼け跡なのに、106ヘクタールもの広さが燃えた。これは燃えている落ち葉が飛び火となり、それが繰り返され広がった、ということなわけです。
今回はたまたま地表火の炎の勢いがあまり強くなく、生きた葉や枝が燃えなかったが、もう少し炎の勢いがあったら、木の幹も燃える樹幹火となり、そうなると、葉ではなく、枝ごとの大きな火が、もっと遠くまで飛び火し延焼してしまうこともある。そうなれば、もっと大きな山火事になり、さらに甚大な被害がでた可能性もあった、ということなのです。
たまたま、地表火の炎の勢いがそこまで強くなかったことで、今回の規模の山火事で済んだ、ともいえるようです。それでもあれだけ燃えた・・・何かの条件が違っていたら・・・と考えると本当に恐ろしいですね。
市民防災研究所の坂口さんによれば、日本の林野火災(山火事)の原因の約7割が人為的なものだそうです。タバコや焚き火、バーベキューなど本当に小さな火種でも、この規模の大きな山火事になってしまうんだ、という認識を改めてしてほしい、とおっしゃっていました。肝に銘じます!日本は、山と住宅街の距離が近いところも多いですから、改めて注意が必要です。