昨年末から民間企業による「PCR検査場」が続々と増えているという話を、以前このコーナーでも取り上げましたが、今回は「動くPCR検査場」について。1月21日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。
まずは、株式会社MeRecom(メレコム)・代表取締役の中川 隆太郎さんのお話。
★その場で結果が分かる「PCR検査トラック」
- 株式会社メレコム・代表取締役 中川 隆太郎さん
- 「車で「PCRの検査車両」として、患者様の元に伺います。トラック型のもので、レントゲン車などの健康診断で使うような車両です。目の前で唾液の採取をして、検査車両の中でPCRをかけて、だいたい2〜3時間程度で検査結果の提出まで行います。スポーツイベントなどの大規模イベントでご利用いただいたり、企業が一律で「今日受けたい!」という時に使っていただいています。」
この会社のグループ会社が、もともと健康診断用のバスを運用しており、そのノウハウを生かしてトラックを改造しました。外から見ると、真っ白な四角いコンテナを積んだトラックですが、車両の中には、遠心分離機や、作業用のキャビネットなど、PCRの全工程がこの中で完結できるようになっています(1日500件程度の検査能力!)。
去年10月から運用開始し、これまでに5箇所を訪問。例えば先月行われた「フィギアスケート全日本選手権」では、会場近くのホテルにトラックを止め、コーチや運営スタッフにPCR検査を行ったそうです。
また、静岡の民宿に赴き、従業員向けの一斉検査を実施したり、九州のある建設現場で働く人たちを対象に大規模な検査を行ったりと、全国各地から依頼がきているようです。
民間検査となると、医師を介さず、正式な陰性・陽性が出ない検査もありますが、こちらはクリニックと提携しているので、陰性証明も出せるのと、陽性の場合は保健所にしっかりつなぎます。
料金は、派遣先や検査人数によって異なりますが、目安として一人8,800円〜(別途、出張費がかかります)。「指定の場所まで来てくれて」、「たくさんの人の結果が、短時間でわかる」という点で、ニーズがあるようです。
★軽ワゴンでお宅訪問!
その場で結果がわかるPCR検査車は、メレコムのものが日本唯一ということですが・・・
調べてみると、独自に車を改造し、地域住民のために、PCR検査に奔走している医師が、鎌倉にいました。こちらは大型トラックではなく、軽ワゴン。普段は「訪問診療」をしているという湘南おおふなクリニックの院長、長谷川 太郎さんのお話。
- 湘南おおふなクリニック・院長 長谷川 太郎さん
- 「もともと訪問診療をしていたので、当然、家から外に行けない方達が多くいることは知っていました。動ける方はPCR検査場や発熱外来のクリニックに受診すればいいのですが、簡単に行けない人達が必ずいます。その方たちが検査が受けられない事態は避けなければいけない。対象者は熱が出てる方ですから、半日でも早く検査をしてあげないと、周りの介護する人や訪問看護師、ヘルパーが休まなきゃいけない。なので、一戸一戸赴いて行う「車」がいいんじゃないかなと思って始めました」
ほとんどの利用者は、自宅や高齢者施設から「外に出られない」高齢者。発熱したら、本人のリスクも高いし、周りの介護の方との隔離が長引くと生活できない。だから、少しでも早く検査が必要です。
こちらの仕組みは、先程のその場で結果が出るトラックと違って、住民のお宅を訪問して、検体をとって、検査場に運ぶ、という形。医師の長谷川さんが看護師さんと一緒に、検体を採取して回っています。もちろん医師の診断ですので、正式な陰性・陽性の診断が出ます。
乗り込む軽ワゴンは、PCR検査用に、140万円かけて改造したそうです。まず後ろのドアを開けると、パネルがあって、そこに腕が通るくらいの穴が空いています。車の中にいる看護師さんは、その穴から腕を出して、外にいる患者の鼻に綿棒を差して検体を採取。検査をする人と受ける人の接触を、極力減らす作りになっています。
家から出るのが大変な人の場合は、医師や看護師が防護服を着て、自宅の中にお邪魔して、そこで検体をとるという対応も行っているようです。
★入院先がない今、検査の意味が無くなってきている
去年から始めたこの取り組み、これまでに訪問したのは82件ということで、とても有意義な活動だと思ったのですが、長谷川さんは「その意義が薄れてきている」と、現状を憂いていました。
- 湘南おおふなクリニック・院長 長谷川 太郎さん
- 「今は、この検査をやっている意味がだんだん無くなってきていると思っています。感染者が増えすぎてしまったのです。20~30人が入居している老人ホームで陽性者が見つかれば、早い隔離や対応が可能なので意義はあると思うのですが、個々のお宅に行って、比較的元気な方で陽性者をどんどん見つけても、今は入院する場所がなくなってきています。お家で静かにしててくださいねという世の中、残念ですけど。神奈川県でも100人近くが、入院しなければいけないのに自宅で待っている状況です。検査の意味合いが、だいぶ去年に比べると変わってきてしまってます。」
この軽ワゴンによるPCR検査をスタートさせたのは、去年の4月と、かなり早い段階でした。ここまで「先手先手」でやってきた長谷川さんに、検査の「意味が無くなってきている」と感じさせる程、現状は深刻になっていました。感染拡大を招いた対策の遅れが悔やまれます。