「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」毎週月曜日は東京新聞との紙面連動企画です。
今日は6月28日の朝刊一面と編集日誌、さらに、6月30日の「筆洗」にも取り上げられた話題。三味線メーカーの最大手「東京和楽器」が、8月15日で廃業を決めた、という記事です。『三味線最大手 途切れた糸 邦楽界に衝撃』という見出しで、なんだか、大変なことになっているんだ!ということが伝わります。
★三味線界のトヨタ!東京和楽器
でも、正直、私にはほとんど馴染みのない会社の名前・・・。まずは、どんな会社なのか?取材をした、東京新聞・放送芸能部の山岸利行記者に教えていただきました。
- 山岸利行記者
- 「ほんとに一般の方には東京和楽器って言ってもそんな会社あったの?っていう風な、感じで、普通例えばギターですとヤマハですとかギブソンですとか、そういう名前を聞けば、あ~あそこか、という風な思い当たる節があると思うんですけども、三味線で東京和楽器っていうと、え?そんなとこあったの?っていう風に思う方がたくさんいらっしゃると思うんです。結構もう創業135年で最大手でシェアも6割くらいという風に言われていますので、自動車のメーカーに例えるとトヨタ自動車が廃業するという風な、そんな言い方もできると思います。やはりここが無くなると色々なところへの影響はでてくるんじゃないか、と思っています。こういう和楽器関係は長年需要の低迷が続いておりまして、コロナがすべての原因というわけではないんですけども、厳しい状況だったところへコロナが追い打ちをかけて、決定打になったという風な状況のようです。」

三味線を前に語る東京和楽器の大瀧勝弘代表(東京新聞 山岸記者の記事から)
三味線の国内製造数は、1970年代には、一万4500丁だったのに、2017年には1/10以下の1200丁に減少。専門店も減り、不便になり、愛好者も減り、そして需要も減る・・・という負のスパイラルになってしまっているのだそう。
そんな中での、「三味線界のトヨタ」!の廃業。こう言われて私にも事の重大さが伝わってきました。
★一社の廃業ではなく日本文化の危機です
続いて、東京和楽器の廃業の衝撃と影響について、山岸さんに聞きました。
- 山岸利行記者
- 「東京和楽器さんは、木を削る大きな機械から細かいところを微調整する機械まで、135台オリジナルの機械を造ってまして、この道何十年というレジェンドのような方もいらっしゃって、日本の伝統文化を支えてきた、という風な面もあると思いますので、これから歌舞伎座も再開、あと、いろんな舞台も再開するようになったときにですね、じわじわとやっぱりあそこが無くなったからこんな風になったんだっていう影響が目に見えるところ、見えないところで、出てくるのではないかとそんな風な感じもしています。専門誌の方も、ものすごく大きな事件で、日本文化の危機だということをおっしゃっていました。和楽器の職人さんも国の宝と考えるべきだという風なことをおっしゃっていましたけども、あの1つの会社が潰れるというそういう問題ではないと思うんですね。」
1つの会社が消えるのではなく、文化が消えかねない・・・。重い言葉です。また、最大手の廃業は、三味線の新調や修理が大変になり、様々影響があると言います。

専門誌編集長は「職人は日本の宝」と指摘(東京新聞 山岸記者の記事から)
しかし、東京和楽器の大瀧代表は今年80歳。断腸の思いで決断したと。廃業は来月8月15日。残す日々は少ないですが、「引き継いでくれる人が名乗り出てくれれば大歓迎」「芸能に理解のある方がいらっしゃれば。」と、大瀧さんはあきらめずに存続を願っています。
現在は、まだ後継が決まってはいないそうですが、東京新聞の記事が出たことから、文化の危機を感じた会社経営者や個人、団体などから、「伝統の灯を消してはならない」「三味線を守りたい」と援助の申し出や協力の相談が寄せられているということでした。東京新聞では、7月3日の朝刊でも、この様子を報じています。
少し光が見え始めた、という感じでしょうか。
★文化を守るために必要なことは
市民たちが動き出した中、山岸さんはこんなことをおっしゃいました。
- 山岸利行記者
- 「今年オリンピックの年でしたけれども、そういう国際的な場でも、日本を代表する伝統芸能として、歌舞伎・文楽で三味線も発信するという、そういう機会でもあったと思いますし、なんかそういう都合のいいイベントの時だけ、こう駆り出してきて、それが終わったら、はい、お疲れさまでした・・・だとちょっと地についてないのかなという気もしますし、予算の関係でいっても、まだまだ(先進国の中で)最低限の文化予算ということは、やはりちょっと文化芸術を軽く見ているのかな、というような気もします。もうちょっと国としてこういう文化行政に予算を支援するとか、そういう政策があってもいいと思います。」
文化に対する予算は先進国では最低。という話はかなりショッキング。
山岸さんは、業界側も、愛好家の裾野を広げる工夫は必要と指摘しますが、国も、オリンピックみたいな時だけ利用するのではなく、日本の伝統文化として発信するのなら、それを絶やさないために、支援があってもいい、という話は納得でした。
このコロナ禍では、ドイツなどヨーロッパでは文化の保護に熱心だったが、日本では、トップから熱のこもった言葉が聞かれなかった。そうしたことが、やはり大きな問題なのではないか、と感じますね。

近堂かおりが「現場にアタック」で取材リポートしました。