先週「特別養護老人ホームの入所を待つ“待機老人”が減ったけれど、実は、背景に要介護1と2の人が特別養護老人ホームに原則入れなくなったためで喜べない」というニュースがありました。こうした「軽度の要介護者を切り捨てる動き」が加速しているようなんです。「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からの「現場にアタック」で田中ひとみが取材しました。
![現場にアタック(田中ひとみ)](http://static.tbsradio.jp/wp-content/uploads/2016/03/sump_tanakahitomi-150x150.jpg)
田中ひとみキャスター
★「要介護2以下」は福祉用具が全額負担に?
現在、2018年の介護報酬の見直しについて、厚生労働省の部会で議論が行われていますが、その中で「軽度の介護者の切り捨て」の案が出ているようなんです。どういうことなのか。日本福祉用具供給協会の専務理事、本村光節さんのお話です。
- 日本福祉用具供給協会 専務理事 本村光節さん
- 「福祉用具や生活援助について、要支援1から要介護2までは、今は一割負担なんですが、これを原則自己負担にする、そういう提案が出されています。例えばベッドで言うと、現在、月額1000円のものが、10割負担で、1万円になるという話です。そうなると払えなくなる方が出てきて、そして利用を手控えるということになる可能性があります。歩行器とか手すりとか使えなくなると転倒の危険が出ますし、出歩かなくなると引きこもりになったり、かえって重篤化するんじゃないかと問題になっています。」
ベッドの例が出ていましたが、他にも車いすはひと月500円、杖はひと月100円など、介護認定を受けている人であればかなり格安でレンタル出来ています。これが、要介護1~2、要支援1~2だと介護保険の対象外となり、今までの10倍払わないと福祉用具が使えなくなってしまうかもしれない、という話なんです。さらに、手すりやスロープの取り付け等住宅のリフォームについても、今は20万円までなら補助金が出るのに、要介護2以下だと原則自己負担となるので、非常に大きいんです。
★狙いは「要介護3以上」の支援強化というが・・
国の考えは、介護費用が増える中、より介護を必要としている要介護3以上の人が十分支援を受けられるように、ということなのですが・・。それなら下を切り捨てるのではなく、要介護3以上の支援を厚くすればいいのに、という声も出ています。
では、要介護2以下の方は今まで1割負担で済んでいたものが10割負担になったらどうなると思うのか。要介護1で手や足が不自由だという渡辺みよさん(79歳)に聞きました。
★「死ねっていうこと」?全額負担案の厳しい現実。
- 渡辺みよさん(79歳)
- 「払える人います?現実に払えないですよ本当の話、年金だけじゃ。どこかで削らなきゃならなくなる。何を削るかというと、病気になっても病院行かないとか。行けないですもんだって、例えば車いす使えなかったら。タクシーなんかとてもじゃないけど行けない、お金かかるし。まずそこを減らすでしょうね。そしたらもう、どんどん病気になって治療もできない人間を街中に放り出してるようなものですよ。死ねっていうことよ本当に。」
渡辺さんのご自宅も、2箇所のトイレに手すりがついていて、それぞれ月額300円で済んでいたのに、「これが、10割負担で合計6,000円になったら払えない」とお怒りでした。
![トイレの手すり。これが月額300円から3000円に。2つのトイレを合わせると月額6000円!](http://static.tbsradio.jp/wp-content/uploads/2016/07/image2-281x400.jpeg)
トイレの手すり。これが月額300円から3000円に。2つのトイレを合わせると月額6000円!
渡辺さんのように要介護1・2で福祉用具を使っている方はおよそ110万人。要介護者全体の6割にもなります。日本福祉用具供給協会が行ったアンケート調査では、車いすが使えなくなったら入浴を諦める人が4割、食事を諦める人は2割以上もいるという結果が出ています。
★切り捨ては用具だけではなくサービスも・・
一方、福祉用具だけでなく、ホームヘルパーも、要介護2以下だとトイレや着替え、食事など【身体介護】は従来通り頼めるけれど、【生活援助】と言われる買い物、調理、掃除、洗濯などは補助の対象外になるという内容も検討されています。国の狙いは、ヘルパーの負担が減り、介護の人材不足解消につながるのではないかということ。
では、現場は【身体介護】に特化するこの案についてどう思うのか。東京都北区でホームヘルパーを派遣している、住宅介護センターそれいゆのサービス提供責任者、今村真弓さんのお話です。
★人材不足の解消が目的なのに、人材不足が進む危険!
- 住宅介護センターそれいゆ サービス提供責任者 今村真弓さん
- 「現場にいるとヘルパーさんたち、生活援助を含めて健康援助をやりたいと思っているヘルパーさん達と、病気になったり障害になってる人たちの医療的なことをやりたいと思っているヘルパーさん達と二分されるんです。ヘルパーさん、今までやっちゃいけないってことどんどんやれるようになってる。吸引。胃ろう。そういうことやってくれるヘルパーさんもいる。怖いし、それはできないと思ってる人も半分いる。私はその半分のヘルパーさん辞めると思います。もっと人材不足になるんじゃないかと思いますよ。」
ヘルパーの仕事はまるで看護師の下請けのような内容にシフトしてきていて、今までの身体介護は体を拭いたりお風呂の介助をするような内容だったのに、今は研修を受けて吸引や胃ろうまで。それでいて、料理・掃除・洗濯等は逆にやらなくていいとなると、抵抗を感じるヘルパーが多いのではと今村さんは言っていました。
一方、日ごろヘルパーを利用している渡辺さんは、要介護2以下なら【生活援助】が介護保険適用外になる、というこの改正案について、やはりお怒りのようです。
★老老介護でただでさえ辛いのに、ヘルパーも切られるなんて・・・
- 渡辺みよさん(79歳)
- 「ヘルパーさんがたった2時間ですよ一日。その後の時間、なんとか体を労りながら、脳天に響くような、本当に痛いんだけどやらざるを得ない。お茶碗洗わなくちゃならない。誰か親族がいて見てくれる人がいればいいですよ?うちはいませんから。老老ですよ。主人も私より年上だし、私より体が不自由なので、自分の事で相手に迷惑かけないようにする。それしか無いんですよ。そうすると家事が出来るということになる。それで介護度を減らそうと思う。非常におかしいでしょ。」
![森本毅郎スタンバイ!](http://static.tbsradio.jp/wp-content/uploads/2016/07/IMG_9995-533x400.jpg)
渡辺みよさんのご自宅にて
渡辺さんは要介護1、旦那さんは要介護2。ヘルパーがいない時も痛みをこらえてなんとかやってきたのに、「できる」と見なされるのはおかしいと言っていました。
この介護保険制度改正案は、今年の年末に結論を出し、来年の通常国会に提出、2年後の2018年度からの実施を目指しているということです。