建築物には欠かせない「ボルト」。これが今、不足して大変なことになっています。7月1日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。
★緊急事態!建築現場で「ボルト不足」
不足しているボルトとは何か?建築エコノミストの森山高至さんに聞きました。
- 建築エコノミスト 森山高至さん
- 「建設で使われる非常に強度の高い鉄で作られている「高力ボルト」が足りない。昨年の夏過ぎ〜秋口くらいからボルトの注文で待たされたり、もともと10日〜2週間で届くものなのに1ヶ月かかると言われ、他のメーカーに頼んだり、遠隔地の商社に頼んだりするようになっている。ほぼあらゆる建物で使われている材料ですから、食べ物で言えば「お米がない」状態に近い。」
「高力ボルト」は、鉄骨と鉄骨をつなぎ合わせるためのボルトで、高層ビルや橋、保育園、商業施設などいたるところで使われています。建物に欠かせないこのボルトがなければ、当然工期はどんどん遅れてしまいます。
実際、全体の9割の現場でボルト不足によって工期に影響が出ているというデータもあるそうで、愛知県の給食センターでは耐震工事が延期してしまったり、福岡県の保育園では、開園に間に合わせるために職員のツテを使ってボルトをかき集めたところもあったそうなんです。
★原因はオリンピックの建設ラッシュを受けた“過剰発注”
では、どうしてこんなことになっているのか。なぜボルトが足りていないのか。月盛工業株式会社の代表取締役社長・塩川純一さんのお話です。
- 月盛工業株式会社・代表取締役社長 塩川純一さん
- 「一般のボルトメーカーは何万社もあるけど、高力ボルトは特殊な条件があるので7社くらいしかない。いまは6ヶ月〜7ヶ月の受注残がある。昨年からフル稼働で休日出勤もしているけど、機械も同時に従業員の疲労も溜まってきているのが現在の状況。やはり、2020年のオリンピックの関連工事が最終局面に入り、去年の6月くらいから需要が増えてきたのが一つ。ただ、お客様に“過剰な発注”をしないようにお願いしている。物がなくなるといらないものまで注文してしまう。それが無くなればスムーズに動けるようになると思う。」
そもそもの大前提として、オリンピックの競技場やホテルなどの建設で一気にボルトの需要が高まり、ボルト不足が引き起こされています。この月盛工業でもいままでは300t/月 製造していましたが、現在は工場をフル稼働して、350t/月に生産量を増やして対応に当たっているそうです。
高力ボルトは前もって大量に作り置きしてしまうと錆びてダメにる為、注文を受けてから製造し、作り置きすることができません。かといって工場の設備を増設しても、オリンピック関連の工事が落ち着いた頃にはボルトが余ってしまいます…。増産して対応するのも限界があるようです。
一方で、もう一つの原因とされているのが、高力ボルトの“過剰発注”。ボルト不足を知った建築会社がなんとか工期を遅らせないようにと、高力ボルトを過剰発注しているのではないかという見方も出て来ています。他に買われる前に、買っておかないと、という心理ですね。
★「発注書」で過剰発注は減らせるか?!
そして先月、この過剰発注を防ぐために、建設現場からボルト工場に提出する「発注書」を見直そうと、国が動き出しました。国土交通省 土地・建設産業局 建設市場整備課の松本直樹さんのお話です。
- 国土交通省 土地・建設産業局 建設市場整備課 松本直樹さん
- 「電話による発注だったり、数量や納期が明確になっていない注文が実際にあったので、改めて、基本的な「発注様式」を作成した。まず、見積もり依頼か正式な発注かどうか。どのような工事に使われるのか名称を書く。更に納期がいつなのか、予定なのか決定しているのかを記載する様式になっている。更に、どちらの販売先に高力ボルトを納品するのか記載してもらい、それぞれがわかるような仕組みにしている。そして最終的には、受領しましたという請け書としても機能するように、一連の商品の流れが補えるような発注様式となっている。」
これまで、電話で注文を受け付ける場合もあったそうですが、それだと工場は過剰発注を見抜くことはできません。そこで少しでも過剰発注を緩和させようと、注文する側も受ける側も、改めて明確に用途がわかる発注書を作ったんです。
ちなみにこの発注書は絶対に使わなければならないという拘束力はありませんが、この発注書を使うか、この様式に準じた発注書を使うように建設業界に呼びかけ、なんとか過剰発注を減らそうと取り組んでいます。
★輸入も4ヶ月待ち
いま使われている高力ボルトのほとんどが国内で作られているそうですが、そうなると輸入に頼れないのか?建築エコノミストの森山さんに聞きました。
- 建築エコノミスト 森山高至さん
- 「もともと足りないってことがいまでなかったから、全ての工場現場では混乱が起きている。高力ボルトというのは、国土交通大臣の認可を受けたものしか使えない。その許可を得ているメーカーが海外にもある。韓国から輸入が始まっていて、それも注文がかなり殺到していて、韓国の輸入でも4ヶ月待ちという話が出ている。」
輸入でも4ヶ月待ち!月盛工業の塩川社長によると、「ボルト不足が収束するのは来年の秋頃ではないか」とのこと。
過剰発注対策は出ましたが、結局、オリンピックが終わるまでは続いてしまうという見方のようです。今後もしばらく、ボルト不足は続きそうです。