今日はヴァーチャル・リアリティ(VR=仮想現実)の新しい話題です。ヴァーチャル・リアリティというとゲームなどエンターテインメントの話題が多かったと思いますが、最近は【VRが人間の感覚や行動にどんな影響を与えるか】という研究が注目されているというのです。そこで…
「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」!!7月2日(火)は、レポーターの近堂かおりが『ヴァーチャル・リアリティが人間の感覚や行動を変える!?』というテーマで取材をしました。
★VR上で筋肉ムキムキになってダンベルを持ち上げます!
まずは東京大学大学院学際情報学府・修士1年、角田賢太朗さんが、ユニークな実験装置を開発したというのでお話を伺いました。
- 角田賢太朗さん
- 「【アバター】と言われるんですけど、VR(ヴァーチャル・リアリティ)上で,本当にリアルのように感じる【自分の分身】みたいなものを作り出して、自分の体をムキムキにさせることでダンベルの重さが変化するかという体験をしていただきます。(これを持つんですよね?)そうです。(かなり大きいですね)重いと思います。5キロです。(結構重たいです)それで、その次にシーンを切り替えて、ムキムキになってる体のバージョンでダンベルを持っていただくという感じです。」
大きな眼鏡のようなヴァーチャル・リアリティの装置をつけると、自分の身体が筋肉ムキムキのような姿に見える。自分の手足を動かすとムキムキの身体がぴったり同じに動くので、自分がマッチョになったような気分になる。
もちろん疑似体験による錯覚なわけですが。でも、これで、5キロの重いダンベルを持った時の感覚に変化が現れるという。
★マッチョ近堂はダンベルを上げられるか!?
私は、何も身に着けない状態では5キロのダンベルは持ち上げられませんでした。
ではVRの装置をつけて、ヴァーチャルの世界で筋肉マッチョに変身してみます。
- 近堂
- ●「わぁ、すごい! すごく胸板が厚くて、競輪選手みたいな下半身になっているのがよく見えます。」
- 角田さん
- ●「では実際にダンベルを右手でお願いします。」
- 近堂
- ●「あっ! 確かに軽く感じるかも。ホント、ホント。どうしてだろう?!(先ほどは持ち上げられなかったダンベルを軽々と…)ほら見て。全然大丈夫。」
- 角田さん
- ●「すごいですね。」
★なぜマッチョ近堂はダンベルを上げられるのか!?
本当なんです!!不思議なのですが、本当に軽く感じて、持ち上がらなかったダンベルが簡単にスッと持ち上げられたのです!眠っていた力が目覚めたのか?これはどういうことなのか、角田さんのお話です。
- 角田賢太朗さん
- 「うちの研究室で見た目が変わると心が変わるという研究がされていて、VR空間になったことで、今まで現実空間では変えられなかった身長や性別やいろいろな部位が変えられるという研究があって、自分の筋力が、実際に生理学的に出せる出力と、心のリミッターによる心理的限界というか出力があって、(見た目を)マッチョにすることによって、心理的限界の部分が押し上げられて、実際に筋力が上がっているのではないかと感じます。」
見た目が変わると気持ちや態度も変わることはありますよね。スーツを着ると引き締まる、和服を着ると動作がたおやかになる、など、洋服やお化粧によって気分が変わるという体験はみなさんあると思います。
ヴァーチャル・リアリティを使うとそれをより大きく変えることができるし、効果的に変えることができるということです。身長や体形、性別も変えられるわけですからね!
★笑顔で会議。アイデア1.5倍!!
東京大学大学院情報理工学系研究科・講師の鳴海拓志さんは、こうしたVRの効果を、社会に活かす研究を進めています。
- 鳴海拓志さん
- 「例えばうちでやっている研究だと、デジタルの鏡みたいなもので表情を変えてあげるというのをコミュニケーションの場に入れるとどうなるか。例えば、最近テレビ会議みたいなものがありますけど、テレビ会議でお互いの顔を笑顔にして送ってアイディア出しをする。そうするとアイディアが出る数が普通にやったときの1.5倍になるという成果があるんですね。」
実際に実験結果がでているんですね。会議中の表情をお互いに笑顔にしておくと、『この人は自分の意見を好意的に聞いてくれている』『自分を受け入れてもらっている』という気持ちになることで、発想が豊かになる、という。
実際に自分に置き換えて考えると、笑顔の相手には確かに話しやすいし、思いついたことを気負わずに伝えられる、と分かります。
例えば、映画を観たあとに自分がヒーローになった気分になることがあります。VRは人間の感覚を変え、行動も変えることができるということです。
★VRの社会利用に大きな可能性!
それをより効果的に、そしてプラスの方向に利用することができれば、もっと大きな課題や問題にも使えるということなんです。再び鳴海さんのお話。
- 鳴海拓志さん
- 「もっと社会的な問題の話になると、海外の研究では、白人の人が黒人の身体でヴァーチャル・リアリティを体験すると差別の意識が減っていくとか、ドメスティックバイオレンス、家庭内暴力がひどい人が女性の身体で、大きな男性に罵られるヴァーチャル・リアリティの体験をすると、そのあと自分はなんてひどいことをしていたんだと思い直して、だんだんそういう行為がなくなっていくとか。なかなか自分の身体で他人の視点に立って考えるというのは難しいですけど、VRでその人の身体を使うことによって本当にその人の温かみな体験ができて、対話だったり自分の考えを変えるきっかけができる。そういうふうにまだまだVRが社会で使われていく。大きな可能性を持っているのではないかと思います。」
VRを利用すれば【別人】の体験ができ、そのことによって他人の気持ちや考えを理解することにも利用できる可能性がある。『相手の気持ちになって考えましょう』というが、VRによる【体験】が伴うと、より切実に感じられるようになるという研究結果が出ているそうです。
この研究は【自動運転】の開発にも関わっているなど、活用の場面は幅広い。最近はAIなどの機械の進化が話題になることが多いが、機械によって人間の能力が引き出されるかもしれません。
心理学で言われていたことが、VRによって実際に確認できるようになってきているわけですが、そのメカニズムやなぞは、まだ解明しきれてはいません。
また、今日は、VRが人間の感覚や行動にどんな影響を与えるか、そのメリットをご紹介しましたが、デメリット(良くない使い方)も考えられるわけですから、使い方のルールも含めて、今後ますますの研究が期待されます。