紫外線が気になる季節になりましたが、その紫外線や太陽光などの「光」を巡る対照的な2つの研究開発について、6月10日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。
紫外線は、5月ごろから強くなると言われています。日焼け止めを手放せない人も多いと思いますが、そんな中、身近な生き物の研究が、私たちの強い味方になるかもしれません。まずは、研究メンバーの一人で、浜松医科大学・特任教授の針山孝彦さんのお話です。
★「シオカラトンボ」が紫外線に有効!
- 浜松医科大学・特任教授 針山孝彦さん
- 「皆さんにも馴染みのある「シオカラトンボ」の白い部分は、分泌物で白くなっている。その部分を集めて分析してみたところ、紫外線をよく反射する事が分った。高い紫外線の反射率があるので、今後、化粧品として使っていける。生物が分泌しているものなので、人間にとっても環境に優しい物質であることが分りました。」

シオカラトンボ

シオカラトンボ雌雄の成熟に伴う体色と光の反射率の変化
「シオカラトンボ」は、日差しの強い水辺で飛び回っているお馴染みのトンボです。このトンボの体に何か秘密が隠されているのではないか、と考えた針山さんたちは、他の大学や研究機関など、様々な専門分野と共同研究を始め、シオカラトンボが紫外線を反射するワックスのような分泌物を出していることに着目。そしてその分泌液と同じ物質を、人工的に作ることに成功したそうなんです。
★トンボのワックスはモテるため?
さらにそのワックスは、特にオスの背中側から多く分泌されているとのことですが、なぜオスなのか?針山さんに聞いてみました。
- 浜松医科大学・特任教授 針山孝彦さん
- 「オスは体を白っぽくする事で、メスに「私は立派な体を持っている」と示している。紫外線から体を守るために白っぽく結晶化させる必要はない。例えば、人間がファンデーションを塗るのは目立たせるため。トンボはファンデーションを作れないので、元々あるものを集めて結晶化している。」
「日差しから背中を守る」という目的であれば、オスだけでなく、メスも背中から分泌物を出していてもおかしくありません。オスのみということはつまり、より魅力的なアピールの一種だったということです。今後はこれが、生物由来の日焼け止め等の開発に繋がる可能性もあり、今もなお、研究が続けられているそうです。
★漆黒の黒!「暗黒シート」とは
ここまでは、紫外線の「反射」に関する研究についての紹介。続いてこれとは対照的な研究開発についてです。国立研究開発法人・産業技術研究所の研究グループの、雨宮那招さんのお話。
- 産業技術研究所 雨宮那招さん
- 「名づけて「暗黒シート」。全ての光を吸収するだけでなく、耐久性も高い新素材。黒色をしたゴムで、ミクロの凸凹の針山のような微細構造を作ることで、目に見える光だけでなく、紫外線も赤外線も含めて99.5%以上の光を吸収します。」

暗黒シート

暗黒シートを手で持ったところ。柔軟性があります

針山状の凹凸が、光を吸収する
今回、産総研などが開発したのは、シリコンゴム製のシートです。「暗黒」という名の通り、真っ黒!このシートの開発は7年前から始まったそうですが、加工方法や材質選びに試行錯誤して完成したということで、シートの厚さを1ミリ弱まで薄くしています。
★「暗黒シート」はカメラに使える
では、気になる暗黒シートの利用方法は、どんなものなのでしょうか。
- 産業技術研究所 雨宮那招さん
- 「身近な例で言うと、カメラのレンズの内側や望遠鏡の中。中身は黒く処理されているのだが、余計な光の乱反射を防いで、写真や映像をより鮮明にしている。ここに暗黒シートを使うと、乱反射をより効果的に抑えられる。暗黒シートを使う事で、暗さや明るさなどが鮮明な写真や画像が撮れるかもしれない。」
他にも、映画館の天井や壁、暗闇で演出するお化け屋敷などでも活用の可能性が広がるのではないか、とお話していました。
★実用化は「数年後」
実用化に向けて、雨宮さんは、最後にこんな思いを聞かせてくれました。
- 産業技術研究所 雨宮那招さん
- 「今後は製品化してくれるパートナーを募って実用化していきたい。ただ、作り方自体は確立できている。比較的安い材料で暗黒シートは作ることが出来ると考えているので、コスト面も軽減できそうです。」
光の「反射」と「吸収」。今回取材した2つの研究開発が、今後実用化されるのが楽しみです。

田中ひとみが「現場にアタック」でリポートしました!