このところ歩行者が巻き込まれる交通事故のニュースが相次でいます。実は、日本は、交通事故で亡くなった人の中に占める歩行者の割合が、ほかの先進国と比べて多いそうです。仏独米は10数%、英は25%、日は35%なので、確かに多いですね。そこで、
「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」。5月21日(火)は、『相次ぐ悲惨な事故から歩行者をどう守るか? 』というテーマでレポーターの近堂かおりがお伝えしました。
★ガードレールの設置は広がらないものか?
まずすぐ思い浮かんだのは、ガードレールを設置すること。交通量が多い所や通学路以外でも、結構危ないところは多いのではないでしょうか。そういう道にガードレールの設置は広がらないものか、専門家にお聞きしました。自動車コラムニストの山本晋也さんのお話。
- 山本晋也さん
- 「ガードレールは基本車のスピードがそこそこ出る道に設置することが多いと感じています。すごく難しいのは、そんなにスピードが出ない道というのは、歩道があるかどうかという問題がひとつありまして、歩道がないところにつけるというのはあまり考えられないんですね。また、歩道があっても狭かったりするんです。そうするとガードレールを作るとその分歩く幅がかなり狭くなるので、簡単にどこでもガードレールというわけにはいかないかなと思います。」
狭い住宅街でも結構、飛ばして走る車はありますが、狭い道だとガードレールを設置するスペースがないということも、確かにあります。なかなか、すべてガードレールで守る、というわけにはいかないんですね。
★歩車分離が徹底しているヨーロッパ
またガードレールについては、設置できたとしても、それで、もう大丈夫かというと、そうとも言い切れません。ではどうするか。『JAF MATE』という自動車雑誌の元編集長で、交通事故を長年取材してきた岩越和紀さんにお聞きしてみました。
- 岩越和紀さん
- 「ガードレールを否定する気は全くないんですけども、基本的な考え方としてなんですが、やっぱりどっかに限界があるというふうに考えた方がいいと思うんですね。事故って本当に皮肉な状況で起きるので、それがないような所へ突っ込まれたりすることになるんじゃないかと。今、スクールゾーンとかキッズゾーンみたいな考え方が出ているようですけど、それをもっと徹底させる。ヨーロッパの場合は歩車分離という考え方が都市づくりの中にあって、街の中心に広場があってそこに入っていく道路が放射状にありますよね。そういう道路は時間区切ってポールを立てて車が入ってこないようにしてしまう。そのポールも基本的にはものすごく太いもので車がどうやっても入ってこられないようなものを作る。そういう仕組みになっています。」
物理的に、町なかに車が入ってこないようにするということです。街の作りが違うので、そのまま日本で採用とはいかないですが、スクールゾーンやキッズゾーンでは、もっと徹底して歩車分離を行ってもいいのでは?というこでした。ほかにも、ヨーロッパの町なかを通る道では、横断歩道の一帯がこんもり高くしていて(ハンプ)、車が低速で通るような仕掛けを作っているそうです。そうすることで、町なかは気を付けようという意識をドライバーに植え付けているようです。
★事故が起こりやすい道路ではないか?
また、歩行者が巻き込まれる交通事故では高齢ドライバーの運転ミスが取りざたされています。歩行者を守るために高齢の方は運転を控えて…という声も聞かれます。この点について岩越さんは、問題をそれだけに集中せるのはよくないと言います。
- 岩越和紀さん
- 「今のままですと高齢者が起こしたから高齢ゆえの事故だというふうに見られているような気がしておりまして高齢ドライバーとしては非常に肩身の狭い思いをしておりますが、それが高齢者全般の問題点なのかどうかということをしっかり検証して言ってほしいんですね。私も事故の取材を何回かしていますけども、その時に見落としがちなのは、加害側のドライバーの目線。この道路はどういう形で加害側のドライバーが勘違いをしてしまったのか、どうしてここでこんなにスピードを出してしまったのかということを検証する必要があると思うんです。」
事故の原因を高齢者の運転ミスだけに集約してしまうと、事故をなくせないことにもつながってしまうかもしれない。ドライバーが必要以上のスピードを出してしまうような原因が道路にもないか、これまでは無事故だけれど、よく検証してみて、大きな事故が起きてもおかしくない町のつくりになっていないか、そこを洗いなおすことで、事故を減らすことにつながるのではないか、ということ。つまり、事故の原因を多面的に考えて対策を立てることが大切、ということでした。
★事故が起きてから信号が付く
千葉県市原市で駐車場から車が急発進して公園に突っ込んだ事故も、公園にはポールが立てられていたが、車はそれをなぎ倒して突っ込みました。ドライバーの過失はもちろん大きいが、一方で、歩行者を守るのに十分だったか?という面からも検証してみる。こうした事故は、起きてからいろいろ指摘されるが、近所に住む人たちは気づいていることも少なくない。自動車コラムニストの山本さんは、そういう市民の声を、交通事故防止に活かしてほしいと言います。
- 山本晋也さん
- 「事故が起きてから信号がつくというのがよく言われています。事故が起きるまでは問題が明確になっていないのでなかなかそこに対してコストをかけるとかそういうのは難しいので、どうしても事故が起こってから対策というふうに後手後手に回ってしまうというのが傾向としてはあるかと思います。道路を管理している市町村の部署は意外に今オープンですからここは危ないなと思ったら市民が自ら危ないんで検討してくださいと言えば、意外と設置されることもあったりすると思います。実際僕もPTAの仕事をしてるんですけどもスクールゾーンに危ないところがあったのでつけて欲しいという要望を出したら通って、実際ついたというケースもありますので、いろいろ積極的に働きかけていくのがいいと思います。」
いま、自体の中には、「あそこのガードレールが壊れかけているよ」とか、「この道、危ないから柵やポールを付けてほしい」という市民の声を積極的にくみ取ろうとしているところも出てきているようです。実は、交通事故で亡くなった人の7割は、65歳以上の高齢者。歩行者の保護は、小さいお子さんを持つかただでなく、高齢者にとって身近な問題なのです。すべてを一朝一夕に、というのは難しいですが、身近な危険を自分たちで積極的に自治体に伝える、など、少しずつ歩行者の保護を進めていきたいですね。