インフルエンザの流行が気になる季節になりましたが、みなさんは会社やお店などに置いてあるアルコール消毒剤を使っているでしょうか。こう言っている私自身、あまり使わないのですが・・・。大阪の大阪大学医学部附属病院でも、入口にアルコール消毒剤を置いているのですが、こちらは大変利用率が悪かったのを、ある仕掛けによって、利用率が一気にアップしたというのです。そこで・・・。
「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」!!12月4日(火)は、レポーターの近堂かおりが『「真実の口」を置いて消毒利用者が激増 理屈で動かない人を動かす仕掛け』をテーマに取材をしてきました!
★真実の口、で利用率アップ!?
アルコール消毒剤の利用率が一気にアップしたその仕掛けとは、一体どんなものなのか?のお話です。大阪大学医学部附属病院・感染制御部の医師、森井大一さんにお話を伺いました。
- 森井大一さん
- 「アルコールのジェルがあるんですけど、それを、映画『ローマの休日』に出てくる「真実の口」の裏側に置いているだけなんです。外から見たら真実の口の彫刻が壁にあって、そこに手を入れるとセンサーが反応してアルコールのジェルが出てきます。アルコールのジェルは病院の玄関に置いてあったんですけど、ほとんど誰も使わなくて、800人ぐらいみたうち使うのは4~5人で、もうほとんど目にも入っていないという感じなんです。真実の口を置くとみなさん面白がって、使用率も0.5%ぐらいだったのが、20%ぐらいまでぼーんと上がって、だいぶ効果があったと思っています。」
病院の玄関には、手を当てるとセンサーで自動にジェルが出るアルコール消毒の機械を置いていたのですが、ほとんど使われていなかった。ポスターを貼って消毒を促したりもしたけれど効果はなかった。そこで発泡スチロールで作った「真実の口」の模型を病院の玄関に置いて、その口の裏側に消毒の機械を置いたのです。
するとみんな【真実の口】に手を入れるので、利用者が激増!(森井先生の調査によると、朝の一時間では、800人中4~5人ほどだったのが、160人に!)。
★アルコール消毒、したほうがいいのは分かってるけどしない、そのワケは?
それにしても、病院に来る人がそんなに消毒しないものなんですね!と意外に感じましたが、きのう私も東京・銀座でアンケートしてみると、”ほとんど利用しない”という方が半数。そこで、利用しない理由を聞いてみました。
- 30代女性
- 「使ってみるといいなと思うんですけど、ちょっと面倒くささがあって・・・。」
- 20代女性
- 「あんまり病院では使ってないかもしれない。特に理由はないんですけど。」
- 70代男性
- 「あまりたびたび使うと手が荒れる心配があるから、冬に入ってからは少し遠慮しています。」
- 50代男性
- 「あんまり使わないですよね。洗ったほうが早いような感覚があるから。」
- 50代女性
- 「私はトイレには除菌を使ってます。便座を拭いたり。でも、手の消毒はしないです。洗えばきれいかなと思ってるから。」
石鹸で洗ってるから消毒までは・・・という人は多いのでは?
さきほどの阪大付属病院の森井先生に伺うと、液体石鹸で洗うと手のウイルスや菌は10分の1に減りますが、アルコール消毒だと3000分の1まで減るそうです!(ちなみに、ノロウイルスなど、石鹸を使った流水での手洗いのほうが効果的なウィルスもありますので、ぜひ両方!!)でも、そのことを説明しても消毒をしないよ、と言ったみなさんの心にはあまり響きませんでした・・・。
つまり、みなさん、アルコール消毒もした方がいい、というのは頭では分かっているんです。でも、やらない。理屈では動かない。
★なぜ「真実の口」だと、人は動くのか?
そういう人たちを動かしたのが今回の「真実の口」。実はそのアイデアは大阪大学大学院で『仕掛け学』という研究をなさっている松村真宏教授のもの。アルコール消毒の利用率を上げるために真実の口を設置したねらいをお聞きしました。
- 松村真宏さん
- 「ああしなさい、こうしなさいと言ってもなかなか人の行動って変わらないので、一見ちがうことを言うんだけれども結果的に本来の目的が達成されるように言い換えてあげるというか、別の見方でものを伝えてあげるといいなと思っていまして、そのときに考えて行動する前に〝ついやってしまう〟というところを重視して考えています。例えばたばこのボイ捨てをやってはいけないというのはみんな知っているのに、やっている人がいるわけですね。そのときに『たばこのポイ捨て禁止』と書く代わりに、吸い殻入れを2つ置いて『阪神と巨人どちらが好きですか?』と書いておけば、応援するチームのほうに入れたくなるので、それで結果的にポイ捨ても減るということなんです。」
頼まれたわけじゃないけれど、ついやってしまうような仕掛けというのがミソ!! ほかにも松村先生は、いろいろなところから相談されていまして・・・
例えばあるパン屋さんは「試食のパンを置いてもなかなか手に取ってくれない」と困っていた。これを聞いた松村先生は、試食したら買わなきゃいけないというプレッシャーがあるからみんな尻込みしてしまう、と分析。そこで、試食のパンを2種類用意して「どちらのパンが好きか、食べ終わったあとの爪楊枝を好きなほうに投票してください」と書いた。すると試食のパンを手に取った人は倍増したそう。
投票するために試食をすることになるので、買わなければいけないかも・・・というプレッシャーから解放される。だから、パンを試食する人が増える、ということなのですね!
★真実の口の次をどうしようか・・・。
「真実の口」でアルコール消毒利用が激増した阪大附属病院では、当初「真実の口」は11月いっぱいで撤去する予定だったのですが、効果が大きくまた好評なため、年内いっぱいまで設置の延長が決まったそうです。
これだけ好評なら、年内と言わず常設でいいのでは? と思ったのですが、森井先生には新たな悩みが。実は最近、利用率が10%ほどに下がってきたのです・・・。しかも、森井先生は、周りの方々から『新しいネタを考えて!』とリクエストされている・・・なかなかのプレッシャー。そこで、代わりに私が、松村先生にアイデアを伺ってみました。
- 松村真宏さん
- 「仕掛けには、面白い系の仕掛けと、そうでない仕掛けがありまして、面白い系の仕掛けは飽きられるんです。面白いのは最初がピークなのでだんだん飽きてくるのは仕方がないところです。そういうときには、飽きられないタイプの仕掛けにしていったりします。例えば、サンダルの足を踏むところに絵を描いて、2つを揃えたらちゃんとした一枚の絵になるようにすると、人はついサンダルをちゃんと揃えるようになるというものもあります。面白くはないですが、ついやってしまうんです。」
「真実の口」と同じ仕掛けも遊園地や動物園なら、それほど頻繁に来園するわけではないので長持ちします。でも病院の場合は、多い方はひと月に何度も通ってくるので飽きられてしまいます。ですから面白系の仕掛けは「新ネタ」を更新していかなければいけない大変さがあるのです。そこへいくとと、面白さはないけれどやはり「つい動いてしまう」仕掛けならば、効果は長持ち! 「真実の口」は最初のインパクトは抜群で成功しましたから、第二弾をどうするか・・・。阪大附属病院の森井先生は、またいろいろ考えているそうです。
押しつけがましくなく、つい人を動かす「仕掛け」は、ほかにも社会のいろいろな問題に応用できそうですね。