最近「薬じゃない薬」というのが介護の現場で話題になっている、というのですが、いったいどういうことなのでしょうか。
「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」
11月28日(水)は、レポーターの近堂かおりが『薬じゃない薬が介護の現場で評判!』をテーマに取材をしてきました!
★「薬じゃない薬」プラセプラスって何?
まず「薬じゃない薬」とはどんなものなのか?製造販売するプラセボ製薬の代表、水口直樹さんにお話を伺いました。
- 水口直樹さん
- 「商品名はプラセプラスというものでして、一般にはプラセボと呼ばれるものです。プラセボというのは、日本語で偽薬、薬の偽物になります。高齢の方で介護されているご家族などが、本物の薬を飲みたがるという方がおりまして、本物の薬ばかりを飲んでいると副作用が心配なので、偽物を飲んで頂くという場合が、介護などではあるという事で作ってます。ネット上で偽薬を欲しがっている方がおられ、市場になかったので、出せば売れるかなと、考えました。」
「薬じゃない薬」の正体は、薬のニセモノ=偽薬なのです。不思議な商品ですよね。商品名は『プラセプラス』。実物はこちら。

薬じゃない薬!?プラセプラス。本当に薬っぽいですよね!
見た目は、箱も錠剤も、本物の薬の錠剤のようなのに、薬の成分は何も入っていません。還元麦芽糖という、お菓子にも使われる食品の成分などでできていて、商品分類も「加工食品」となっています。
水口さんは、元々は本物の薬を作る製薬会社で商品開発をしていたのですが、高齢化で医療費がかさむことを問題視、偽薬で医療費削減が出来ないかと考え、会社を辞めて、独りで会社を立ち上げたそうです。
★「薬じゃない薬」は介護の現場で活躍?
この偽薬、実際に介護の現場では活躍できているのか?「プラセプラス」を入居者に使ったことがあるという、神戸市の認知症専門のグループホーム「希の丘」の管理人、増坪安紀子さんにお話を伺いました。
- 増坪安紀子さん
- 「その方の訴えは、便秘なので、なんども下剤をくださいという訴えが続きまして、最初は、職員は下剤をお渡していたんですけど、そうすると飲んだことを忘れて、またくださいと、1日のうちに何回も言われることが続いて、下痢になって、苦しむ状態が続いたので、何かいい方法がないか相談したところ、薬剤師さんから、こういうのあるよということで、主治医の先生と相談して使うようになりました。で、効果はありまして、「薬ください」って言われて、プラセプラスを渡すと、「ありがとう」と。で、また忘れて、「ください」って言われて、また渡すと、「ありがとう」と言われて、飲まれていくうちに、「あの薬効くわ、自分の症状が軽くなった」と言われました。」
実は、施設でも家庭でも、認知症の介護の現場では、薬の問題は悩ましく思うことは多いのだそうです。薬を飲んだのに「飲んでない」と言うことは多々あり、薬を渡せば薬の飲みすぎになるし、渡さなければ「なんでくれないんだ」と怒り出したり、職員を信用してくれなくなってしまうことも。
そうした時に、偽薬を渡せれば、もらった側は喜んで飲み、同時に「この施設は私のことを大切にしてくれる」と信頼して、安心するそうです。もちろん薬を渡した施設の人も、要望に応えられますから、ありがたい。また、これは本物の薬ではないので医療費も下がります。
★薬じゃない、からこその注意も必要!
こうなると、どんどん使いたいところですが、注意してほしい点もある、とお医者さんがおっしゃいます。「希の丘」の医療も担当する医師、清水メディカルクリニックの清水政克さんに伺いました。
- 清水政克さん
- 「その本人が認知症の症状の中で、お薬が過剰に効きすぎない、という使い方なら、いい使い方だったのでは、と今は思いますけど、例えば、痛い痛いと言って、痛み止めをくれ、と言ってきた時に、何回も痛み止めを出す事はできないので、偽薬でごまかす、となってしまうのはよくなくて、それは痛い原因を調べるとか、医療的措置を取らないで、偽薬でお茶を濁すのはよろしくないかなと。」
偽薬とはいえ、やはり本物の薬のように、医師・薬剤師・ご家族と話し合ってほしい、と言います。認知症で飲んだことを忘れて欲しがっているのか、それとも本当はどこか悪いのか間違えてしまい、病気を悪化させてしまう心配もあるので、注意が必要だということでした。薬ではないので手軽に手に入れられますが、手軽に使うのはだめ、ということですね。
★「困ったときに何回でも飲める薬」が理想ですね!
プラセプラスを作っているプラセボ製薬は、実は売上が目標の3割どまりで、水口さんは「非常に苦しい」とおっしゃっていました。だから、せひプラセボ製薬としては売れてほしい。
しかし、介護の現場としては、「いいものだけど、売れすぎると困る」のだそうです。というのも、「有名になりすぎると、ニセの薬だとバレてしまう」「そうなると、ニセの薬を渡したのか!となって、信頼関係が崩壊してしまう」・・・「希の丘」の増坪さんは、そういう心配もあると話していました。
ではどうしたらいいのか?増坪さんからはこんな提案がありました。
- 増坪安紀子さん
- 「有名になるのが「これ偽物の薬やで」で有名になるのではなく、「困ったときに、何回も飲める薬だよ」ぐらいの認知度になってもらえたら、もしかしたら、助かる人もいると思う。それか、お医者さんが処方してくれたら。その方が、「身体的には問題ないけど、症状があるってことは、プラセプラスでいいんじゃない」っていう風に言われたら、お医者さんが出してくれた薬になるので、患者さんが求めているものでもあるし、私たちが求めているものでもあるので、それが一番いいのかなと思っているんですけど。」
なるほど!「これ偽物の薬やで」ではなくて、「困ったときに、何回も飲める薬だよ」という認知!!これはいい案ですよね!賛成です!
また、介護の現場は、信頼関係が大切な現場なので、こうした偽薬を出す場合「騙しているようで後ろめたい」と感じてしまう職員もいるそうです。そういう意味でも、お医者さんから出てくるような形が取れれば、ますます本物の薬っぽくなるので、良いのでは、ということでした。
ただ、清水先生に聞いたところ、さすがに、薬ではないので処方はできないです、と。でも、診察の結果「プラセプラスでいいのでは」とアドバイスをすることはできるということでしたので、やはり、医師や薬剤師との連携がポイントのようです。

近堂かおりが「現場にアタック」で取材リポートしました。