商店街をどう活性化するか・・・全国の自治体が抱える悩みですが、いま飲食店をきっかけとした「とある自治体の町おこし企画」が話題になっています。12月12日(火)は、レポーター中矢邦子がTBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で『絶メシ店の味を守りたい店主の思い』について取材報告しました。
★「絶メシ」=「絶品メニュー」を「絶やさない」
それが、群馬県高崎市の「絶メシ」というもの。一体何なのか、高崎市長の富岡賢治さんに直接お話を伺いました。
- 高崎市長 富岡賢治さん
- 「全国共通、地方都市は皆同じ地域の文化発信という悩みを持っています。人口減少に怯えて中心市街地が無い、人通りも少ないしシャッターが降りてる…こういうのを少しでも改善したい、個性を出していこうと。例えば、すごい景色の名勝地があればいいですが、そうでない都市は知恵を出さなきゃいけません。高崎の街は、商工業・農業とバランス取れてるが故に特色が欠けてるところがあります。良いアイディアないかなと探していた時に提案があったのが、絶品の料理を出してくれるお店でおじいちゃんおばあちゃんが経営してて、今にも絶えそうな、後継者がいないようなお店の特集。『絶える』と『絶品』の『絶』を兼ねた言葉なんですけどね。」
「絶メシ」の判断基準は…
- 家族、もしくは少人数で営業している、非チェーン店
- 昭和の空気を感じさせる歴史がある
- この店でしか味わえない絶品料理や雰囲気
- 地元市民に愛されている
というもの。こういったお店は、地方都市ではあまり珍しいものではありませんが、あえてそこにスポットを当てました。9月に特設サイトを立ち上げたところ、2か月で60万回閲覧があったほど、反響は大きいようです。
★「絶メシ」の宣伝効果はバツグン!
では、実際に「絶メシ」の店に訪れている人はいるのか。高崎市内で聞きました。
- ●「市のホームページや駅の構内にも結構、絶メシのリストのポスターが貼ってありますから、しばらくぶりに。学生の頃に行ってて『あ、そういえばあったな』ということでまた行ってみたり。『松島軒』や『からゐ屋』はよく行きましたね。」
- ●「『デルムンド』でオムライスを食べて、お土産にハンバーグを買いました。最近混んでたので久しぶりに。ここのお店は大盛りだから昔から学生さんが部活の後に、来てましたね。」
- ●「今日は埼玉から『コンパル』さん目当てに。私はインスタで純喫茶を調べてて、ちょっと素敵な雰囲気だったので来たんですけど、店主のおじいちゃんの人柄がすごい良くていっぱいお喋りしてくれて、サービスでプリンもくれたりして良かったです。」
2人目の女性は、絶メシ店の中でも高崎駅から一番近い、創業40年のパスタ屋さん「デルムンド」に足を運んだ方。実際に昨日、お昼時に行ったら行列もできていて扉の前でサラリーマンが「これじゃあ、絶える前にお店に入れないよ」と嘆いているほどでした。
最後にお話していたのは20代の方。実際にインスタグラムで純喫茶の「コンパル」について調べてみると確かに「絶メシ」というタグをつけてコンパルの名物・プリンアラモードを紹介している方がいました。
★「絶メシ」効果で手打ちラーメンに再び脚光
と、かなり「絶メシ」はお客さんに浸透している様子でしたが、お店側にも「絶メシ」リスト入りの反響を聞きました。
手打ちラーメン店「香珍」の店主、74歳の善養寺静雄さんのお話です。
- 香珍 善養寺静雄さん
- 「約3週間前、絶メシリストに入れてもらいました。それから新規客が半数以上、昨日は神奈川の相模原から来てくれました。『来た甲斐があった』という一言が嬉しかったですよ。長年こういう場所で商売してると、お客さんがマンネリ化しちゃうんです。皆さん、定食に重点を置いてくる…『手打ちラーメン』は逆に新鮮さが無いというか。それがここ2週間ぐらいは昔の店に戻ったって感じです。商売始めた時は『手打ちラーメンの香珍』で始めてるから、私にしてみればすごく新鮮がありますね。 」
香珍は高崎駅から車で20分弱。決してフラっと立ち寄るような場所では無いですが、3週間ほど前に「絶メシリスト」に掲載されました。掲載されたホームページの記事のタイトルは「シンプルなのになぜ美味い? “神秘の麺”を打つという職人の醤油ラーメンの秘密に迫った」というかなり惹かれるもの。この記事が出てから、既に2~3回来ている方もいるそうです!
私もラーメンを頂いたのですが、シンプルな醤油味のスープは勿論、こだわりのツルツルな手打ち麺はとても美味しかったです。
★絶品のラーメンを絶やしたくない!
このように、「絶メシ」をきっかけにたくさんのお店でお客さんが増えていることが分かりました。ですが、一代限りでお店がなくなってしまう問題もあります。
実は「絶メシ」のサイトには「後継者求む!」というページがありましてその中に、この香珍さんもリストアップされているんです。そこには「経験は不問。やる気のある方、お待ちしています」とメッセージがありました。後継者を募集する理由について、再び善養寺さんに聞きました。
- 香珍 善養寺静雄さん
- 「私はね、男の子2人、自分の子供がいるんですが、それぞれ180度違う仕事してますので。私の代でこのまま行けば、多分お店は消滅、終わると思います。今すぐじゃなくて動けるうちはね、今のままやっていくんですけど、先行きのこと考えるとどうしても…。このラーメンの味、できれば『香珍』という屋号を残したいんですよ。私は人様の店をとやかく言うんじゃないけど、いまは大量生産したものを同じ味で、各店舗に配ってるからどこの店に行っても同じ味。そのほうが楽ですよね。朝起きて竹の棒で麺作るのは半世紀前の話。『マスター、年なんだから。冷凍麺もあるよ』って言われるんだけど変えられないんですよ。私が最初に始めた時のやり方でやって欲しいんです。 」
他の「絶メシリスト」に入っているコーヒー店の81歳のマスターも同じようなお話をしていました。全国展開するコーヒーチェーン店ではやっていない自家焙煎の味を気に入って、買ってくれるお客さんがいるので、死ぬまでやるしかない、と強く仰ってました。
そういった状況を踏まえて高崎市のサイトでは、いきなり「後継者」となると荷が重いという方のためにまずは「インターン」という形でも募集も行うなど「絶メシ」の店が本当に絶えてしまわないようバックアップ体制を整えています。