先週、厚生労働省が働き方改革の一環として、副業や兼業を推進するためのガイドライン案を公表しましたが、企業側からは「現場が混乱するのではないか」という懸念の声も出ているようです。一方で、ここ1~2年で企業側が率先して、社員に別会社と兼業をさせる動きも出てきています。11月28日(火)は、レポーター中矢邦子がTBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で『出向の新しい形』について取材報告しました。
★週3は自社・週2は他社で働く「社外留学」
それがⅠTベンチャーの株式会社Speeeの「社外留学」です。この制度を実際に利用した、エンジニア・畑中悠作さんのお話です。
- 株式会社Speee 畑中悠作さん
- 「社内のエンジニアの育成という一貫の中で、どうしたらエンジニアが成長できるかと考えた時に、より技術力の高い人たちの中に留学…それで僕が選ばれました。週3日がSpeeeで今まで通り業務をして、週2日はビットジャーニーで留学。自分の今いる会社だけじゃなくて、同時に他の会社でも働けるので、その両方を比較しながら良いところをより取り入れることができると思います。」
月・火・水は自社のSpeeeの仕事、木・金は留学先の仕事で去年9月から今年2月にかけて、半年間行いました。Speeeはビットジャーニーから技術顧問を招聘しているという関係性があり、社外留学が実現しました。
そして、今回の社外留学の特徴は、相手先にほとんど顔を出さず、パソコン上のみでプログラミングなどの仕事のやりとりをしていること!デスクはいつも同じで畑中さん曰く週の後半、意識だけが留学しているような状態だと仰ってました。
★社外留学の費用は自社負担
さらに、この「社外留学」は従来の出向などとは大きな違いがあるようです。株式会社ビットジャーニー代表取締役・井原正博さんのお話です。
- ビットジャーニー 井原正博さん
- 「畑中さんの給与は引き続きSpeee社が出しています。ビットジャーニー社としてはお金を払っていません。受け入れて、教育する、そのリソースはビットジャーニー社のサービスを作るために注がれていますのでビットジャーニー社としては畑中さんが相当できない子でない限りデメリットは無いです。つまり、Speee社が畑中さんの成長に対して週2日間というコストをかけたということです。」
仕事内容はビットジャーニー社のものでも、畑中さんの技術力を高めるためにスピー側が派遣しているので、給料はスピーから出ています。
ただ、ビットジャーニーとしては育てるだけじゃなく、しっかり仕事もしてもらわないと困るので、もし畑中さんに技術力が足りなかった場合は留学から途中で「強制帰国」させるという考えもあったそうです。
ちなみに、留学を終えた畑中さんはしっかり技術を習得し、給料が上がるといった評価にもつながりました。
★大企業では出来ないチャレンジを「レンタル移籍」で
そして、今度はまた違った目的で他社に社員を派遣している会社もありました。ウイルスバスターで知られるトレンドマイクロ株式会社からITベンチャー株式会社マツリカというAIが搭載された営業支援ツールを提供している会社に「レンタル移籍」した伊藤史亮さんのお話です。
- トレンドマイクロ株式会社 伊藤史亮さん
- 「トレンドマイクロには3年間在籍していて、技術系のエンジニアでした。元々マーケティングに興味があって、本当は社内で部署移動を検討したけれど、社内に空いているポジションが無かったので、人事の方に相談して、社外で経験できる制度があると聞いたので、挑戦したいと思って手を挙げました。」
伊藤さんはエンジニアから一転!学生時代に学んでいたマーケティングの分野に取り組みたいという思いがありましたがトレンドマイクロのような大企業だとポジションがかなり固まっていてなかなかチャレンジできるきっかけがなかったそうです。そこで、今年7月から1年間レンタル移籍制度を利用し、いまマツリカで働いています。
ちなみに、トレンドマイクロとマツリカは業務上の接点は皆無なんですが、いまレンタル移籍を仲介するサービスが増えている中で今回は「ローンディール」という会社を介してマッチングしました。
★大企業とベンチャー間の「レンタル移籍」それぞれのメリット
では、レンタル移籍で社外の人材を受け入れたいと名乗り出たマツリカ側にはどんなメリットがあるのか。代表取締役・黒佐英司さんのお話です。
- 株式会社マツリカ 黒佐英司さん
- 「マツリカのような、まだまだ立ち上げたばかりの会社にとっては、どうしても若い社員ばかりが多い中で、経験があって落ち着きがあるので「とにかく決めて走ろう」みたいな、手あたり次第どんどん前に向かっていくのではなくて、会議の場でも整理して違う視点で発言してくれてるので、視点が一つ増えたというか、そういうメリットを感じています。」
逆に、マツリカへ「レンタル移籍」をした伊藤さんも、ベンチャーならではでの意思決定の速さや、一人何役もこなす必要があるという所で学びを得ているそうです。
★今や、社員を一社で囲う次代ではない?
一方、トレンドマイクロは伊藤さん含め4人をレンタル移籍で他社に送り出していますが、その4人が帰ってこないという懸念は無いのか。そのことに関してトレンドマイクロの人事総務本部長・成田均さんに伺いました。
- トレンドマイクロ 成田均さん
- 「隣の芝生はやっぱり青かったみたいな、その懸念あると思います。ところが我々は少し割り切って考えてます。中で囲うというのは段々難しくなってきているので兼業・副業をもっとやったらいいじゃないか!という世の中の声もあります。そういった人達をレンタル移籍に出さずトレンドマイクロで働き続けてもらったとしてもやっぱり最後は出てしまうと思います。我々IT 業界にいるとしょっちゅうあるので、社外に出ることが悪かというとそんなことはない。トレンドマイクロの卒業生としてリスペクトしながら活動していく、これが非常に重要だと思ってます。」
トレンドマイクロでは、会社をやめた人を「卒業生」と呼んで、一緒に仕事をするような場面もあるそうです
また、成田さん自身も1回他社で働いて戻ってきた人だそうで、外に出ることが悪いという時代ではないのだと取材をして感じました。
一つの企業にとどまらない働き方がこれから増えているようです。