先月、文芸春秋の社長が「図書館は文庫本を貸さないで」と発言し話題となりました。本が売れないことに対する出版社の危機感が見えたニュースでしたが、その一方でここ数年、新しいタイプの出版社が増えています。その名も“ひとり出版社”。11月14日(火)は、レポーター中矢邦子がTBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で『ひとり出版社』について取材報告しました。
★未来のベストセラー作家と二人三脚で書籍製作!
では、いったいどんなところなのか。大手出版社から独立し、現在はタバブックス代表の宮川真紀さんにお話を伺いました。
- タバブックス 宮川真紀さん
- 「出版社にいた時は、年間予算や刊行点数とか、売り上げ目標値を決めてやっていました。とにかく売れる物を、当たる物をという考え方でしたが、一人しかいないので、そんなに著名な人の本は出せませんし、本は出したことないけど注目したい人の本を出していて。『新しい無職』という本は、現在41歳独身東京一人暮らし、ずっと非正規雇用の女性の3年間の日記です。結局会社って何だろうと読みながら考えることが多い本になったのかなと思います。」
宮川さんがタバブックスを立ち上げた大きなきっかけは、せっかく手掛けた本が売れないからすぐ絶版になってしまった、それでひとりで復刊させたというのが始まりです。他にも、リメイクの洋服ブランドを手掛ける男性の講義録や、盆踊りを特集した本。決して有名ではない著者や、マイナーなテーマを本にしています。
★北千住に特化!地元密着型のひとり出版
実はいま、全国に100以上あるといわれる“ひとり出版社“。他にも特色ある所があります。北千住に事務所を構えるセンジュ出版の代表、吉満明子さんのお話です。
- センジュ出版 吉満明子さん
- 「まさにこの千住の地を取り上げたドラマが放送されて、その脚本を元にしたノベライズ。うちの方からドラマと同じタイトルで小説として出したんですね。実は、北千住地域で働く女性に原稿を書いていただいて、地元の方の熱意と、この町が持つ歴史も全て取り入れた形の一冊になったので、住民としてもうれしい一冊になりました。」
千住クレイジーボーイズというドラマのノベライズ。執筆にあたっては地元のお祭りなどで実際におみこしをかつぐなどしてとことん取材し描かれています。他にも吉満さんは地元企業のパンフレットも手掛けたり、千住の神社で印刷工場などと協力して”紙ものフェス“というお祭りを開くなど地域に根ざした出版社です。
★出版社のオフィスなのに、まるで古民家カフェ?!
そんなセンジュ出版は、さらにこんなユニークな側面もあります。再び、吉満さんのお話です。
- センジュ出版 吉満明子さん
- 「この事務所は、畳のスペースにちゃぶ台を2つ置いて、ブックカフェとして営業しています。著者が打合せや顔を見に来た時、偶然居合わせたお客さんが“読みました”とダイレクトに会話してもらえる、横で聞いてとても編集者冥利に尽きるというか、本の役割を気付かされることが多いですね。」
大きい出版社では、一般の読者が会社に行って著者と話すということはなかなかないと思いますが、地域密着型のセンジュ出版社ならではの取り組みです。実は、カフェ営業はセンジュ出版の売り上げにも大きく貢献し、全体の3割も占めています。
★出版取次大手に頼らず、自力で販路拡大
他にも全国にさまざまあるひとり出版社ですが、小さい出版社だからこそ、大変な点ももちろんあります。再び、タバブックスの宮川さんのお話です。
- タバブックス 宮川真紀さん
- 「大手の取次さんである日販・トーハンを通していなくて、書店が『うちの本ほしい』と思わないと置かれないことがデメリット。FAX注文書を新刊毎に作って、注文をもらって…最初はタバブックスって何?と知られてないですから、部数が少ない。どこの本屋さんにあるの?とお客さんによく言われます。」
出版業界では、日販・トーハンという取次大手と契約すれば、全国の書店に本が並ぶ仕組みがありますが新しく出てきたひとり出版社はその中に加わることが難しいんです。ひとりで本の営業・搬入・経理・もろもろの作業をしなければならない大変さもあります。
★在庫が無くても、書籍が売れる!「プリント・オン・デマンド」
そんな中、ひとり出版社が手掛けるような、なかなか書店に並びづらい本について、アマゾンでの販売を支援する新たなサービスも始まっています。それが“著者向けプリントオンデマンド出版サービス”です。このサービスを提供している、株式会社インプレスR&D取締役の福浦一広さんのお話です。
- 株式会社インプレスR&D 福浦一広さん
- 「読者が買うと言ってから印刷・製本・出荷するサービスです。中には、1000冊以上アマゾンで売ってる方もいます。『アスリートのための最新栄養学』というすごく専門的な本で、通常だと本屋さんに並ばないか、一冊だけ並んで売れたら補充されずに終わり。でも、かなり専門的なものこそ売れてます。一人出版社を支援するというのは、裾野を広げるサービスになるのではないかと思います。」
この1000冊以上の売り上げがあった方は、一般的には知名度が低いので大手出版社での刊行にはなりませんでしたが、実際にこのサービスで刊行されると多くのファンがいらっしゃったので記録的な売り上げとなりました。
このサービスですと本の注文があったらその都度印刷されるので、在庫を抱えずに済みます。
これからは“売れる”本だけではなく、多様な本が手に取りやすくなりそうです。