先週金曜日に厚生労働省が公表したデータによると、認可保育園に入れない子供たち「待機児童」が、今年4月1日時点で3年連続で増加、2万6000人いることが分りました。今日は、こうした待機児童問題の解消に向けた動きについて、9月4日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で取材報告しました。
厚生労働省によると、待機児童が全国で最も多かったのは世田谷区。今回で5年連続ワースト1位となった世田谷区ですが、今月、待機児童解消に向けた新たな施設を開設したそうです。どんな施設なのか?世田谷区高齢福祉課長の柳澤純さんに伺いました。
★保育園+特養の併設施設が相次ぎオープン
- 世田谷区 高齢福祉課長 柳澤純さん
- 「世田谷区が持っている土地を民間の社会福祉法人に貸して、『認可保育園』と地域密着型の『特別養護老人ホーム』を併設した施設を整備した(成城3丁目)。4階建ての建物の1階部分に認可保育所、2階~4階までが特別養護老人ホームになります。」
これは、世田谷区が所有する土地を利用して用地取得のコストを削減しつつ、狭い土地を有効利用するために、保育園と特別養護老人ホームを併設するというものです。背景にあるのは、待機児童の問題と、特養に入りたくても入れない待機者の問題、2つの待機問題の解決があります。
★待機児童と特養待機。世田谷区の2つの「待機問題」
世田谷区の待機児童は、861人と全国最多。深刻な問題となる一方で、特養の待機問題も深刻なようです。再び柳澤さんのお話です。
- 世田谷区 高齢福祉課長 柳澤純さん
- 「世田谷区では人口も増えているが、高齢者人口も伸びている状況。特養に申し込んで入所待ちの人が、7月現在で1900人いる。区では高齢化が進展する中で、介護保険施設の整備を進めることと保育待機児を解消していくのは喫緊の課題だった。なので、区の計画に基づいて施設の整備拡大に取り組んできたところです。」
世田谷区に元々住んでいる方の高齢化に加え、高齢になってから世田谷区に移り住んでくる方も多いようなので、少しでも2つの待機問題の解決に向けて、併設施設で受け皿を増やそうというものです。同じような動きは目黒区でも計画され、他の自治体でも導入が進んでいるようです。
★保育・介護の担い手として戻ってくる卒園者も
一方、民間では、併設型施設は早くから注目されており、江戸川区で1987年から併設施設を運営する社会福祉法人の方は、待機問題に伴う「もう1つの課題」の解決にも繋がるのでは、と、その可能性を指摘しています。早くから保育園と養護老人ホーム、そして特養を併設している、「江東園」法人本部・サービス管理室長の井上知和さんのお話です。
- 「江東園」法人本部・サービス管理室長 井上知和さん
- 「うちの保育園で保育を受けた子供達が卒園をして、保育士や介護職を目指す道を選び、ここの保育園や老人ホームに就職する・戻ってくる例がある。今現在働いている職員で、保育士が2人、介護職が2人。長く続けてきたからこそ、実績としては大きなものだと思う。」
江東園では園児と入所者の方が、朝のラジオ体操や運動会、年中行事などで交流して、そんな経験をきっかけに介護や保育の道に進んだ卒園者が就職する、という流れが出てきたそうです。
★「帰りたい」。幼少期の体験が生んだ好循環
実際に保育士として働いている木島美穂さんに、江東園を選んだ理由を伺ってみました。
- 「江東園」保育士 木島美穂さん
- 「1歳~5歳児まで園児だった。おじいちゃん・おばあちゃんも、先生たちもいて、家族に近いような環境で過ごしてきたので、『帰りたいな』と思った。もう一度あそこに戻って先生になりたい思いが強かったので、他の保育園は考えなかった。他には他の良さがあると思うが、私は小さいながらに感じたここの良さを、そのまま今度は子供たちに伝えたいというのも、大きな理由の1つでもあります。」
木島さんは保育士になって今年で4年目。こういった併設施設が30年前から運営されてきたことで、卒園者が担い手となる年齢へと成長し、今では働き手となって戻ってくる…。長く続けてきたからこそ、実現した流れと言えそうです。
★行政も、併設型施設に期待
世田谷区の柳澤さんは、最後に、併設施設に期待する思いを聞かせてくれました。
- 世田谷区 高齢福祉課長 柳澤純さん
- 「保育園のお子さんが直ぐに保育士や介護の仕事に就く事にはならないが、身近な環境でお年寄りに接したり、高齢者と幼児の触れ合いを保育士さんが見る、そう言った事が介護や福祉の仕事に繋がっていけば良いなと考えています。
基盤整備については、これからも充実を図っていかなければいけないと考えています。」
「受け皿」+「担い手の確保」と、一石二鳥とも三鳥とも言えそうな併設型施設。2つの待機問題の解決に向け、行政も本格的に乗り出しています。