この時期、花粉症に悩まされている方がかなり多いと思います。今まではスギ花粉のピークだったんですが、4月上旬からはヒノキ花粉がピークを迎えるようです。そんなヒノキですが、花粉とはまた別の困ったことについて、4月13日(木)のレポーター中矢邦子がTBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で取材報告しました。
★短期間に大量に作るのは厳しい「ヒノキ風呂」
まず、志水木材産業株式会社の志水弘樹さんのお話です。
- 志水木材産業株式会社志水弘樹さん
- 「志水木材産業ではヒノキ風呂・寿司桶など桶製品を作っています。今年は58台のヒノキ風呂を出雲大社近くの新築ホテルに納品しましたが、3~4ヶ月の短期的な納期だと今後材料を揃えるのは難しいと思います。30年ぐらい前は年間4000㎥という木が切り出されていましたが、現在は800㎥になっていて・・・つまり、5分の1まで減っているんです。ヒノキの丸太の絶対量が少ないので、材料を揃えられないということなんです。」
ヒノキ風呂といえばリーズナブルなものでも40万円ほどするため、なかなか私達には手が出せないイメージがありますが、実は観光客からの人気でホテルからの発注があったり、来月から運行が開始される豪華寝台列車「トランスイート四季島」にも納品されたりと、とても引き合いが多いそうなんです。志水木材産業では、木曽ヒノキという国内最高品質の木材を使ったヒノキ風呂を手がけている会社ですが、最近その材料となる天然ヒノキが非常に手に入りにくくなっていて、個人のお客さんからの需要には応えられますが、一度に大量発注されるとなかなか作ることが難しい状況になっています。
写真からヒノキの匂いが伝わってくる気がします・・・!
★減少の原因は台風と過去の人気過熱
では、何故こんな事態になってしまったのか?中部森林管理局の村松亮治さんにききました。
- 中部森林管理局 村松亮治さん
- 「木曽地方にある天然ヒノキの多くは江戸時代の初めごろにお城や寺社仏閣、都市建設などの建築用材として大量に伐採されて、その後に残された木から大量に種が落ちて自然に育ってきたものです。現在は樹齢としては250~300年のものとなっています。昭和34年に伊勢湾台風が発生して大量のヒノキが強風で倒れてしまったことと、高度経済成長などで色々な場所で天然林のヒノキが使われるようになって、天然林のヒノキの量が減少してきているんですね。木曽ヒノキについては、ヒノキとして人気があったので、需要の関係は元々ありましたが、今はその需要に追いつけないような状況になっています。」
この木曽ヒノキというのは、一般的には樹齢150年以上の天然のヒノキのことで、長野県と岐阜県にまたがる木曽地方の天然林から得られるものしか「木曽ヒノキ」とは名乗ってはいけないそうです。台風の影響や使いすぎた結果として、木曽ヒノキは戦前から現在までに半分以下に減っています。今まで積極的な保護施策をとっていなかったために、現在の需要に追いつかないような状態になってしまったようです。
★ヒノキが守り育てられている場所があった!
このまま、ヒノキは無くなってしまうのでしょうか・・・再び村松さんのお話です。
- 中部森林管理局 村松亮治さん
- 「保護については、木曽地方の国有林が10万ヘクタールくらいありますが、そこの中で1万7千ヘクタール・・・およそ6分の1を『木曽悠久の森』というものに設定しています。そのなかで木曽ヒノキをはじめとして針葉樹林の保存と復元を図る取り組みをしていて、平成26年ごろから始めて、後世に残そうとしています。人工林のヒノキについては年齢が100年を超えるようなものが、本数では数十万本という量で木曽地方に育っています。新しいヒノキを植える作業もしていますが、今ある人工林を200年くらいを目標として天然ヒノキの代わりになるように取り組んでいます。これから確実に本数的には増えます。」
やっと保護施策が本格的に始まったという感じで、中部森林管理局では、木曽地方の森林を保存・復原していく目的で、およそ2万ヘクタール、東京ドームで例えるとおよそ4300個分!!の驚きの広さの「木曽悠久の森」というものを設置して、木曽ヒノキをうまく後世に残していこうという取り組みを始めたそうです。また、これまでの方針を見直して、天然ヒノキの伐採量を制限し、植樹によって人工林を作り出すことで天然のヒノキの代わりとなるものも出来始めていて、ヒノキ全体の量も増えてきているんです。
★天然ヒノキの質は段違い!
植樹による人工のヒノキ林のおかげでヒノキ不足の問題も解消!・・・と思いきや、なかなか一筋縄ではいかない事情があるようです。最後に志水さんのお話です。
- 志水木材産業株式会社 志水弘樹さん
- 「過去に人工林のヒノキでお風呂を作ったことはありません。木のお風呂に使う材質は色々ありますが、我々はお風呂といったら天然木でしか作っていません。箱型の木のお風呂だと防水するために『ほぞ組み』をしますが、人工林だと『ほぞ』がゆるくなるんです。そのコーナー部分の木目が粗いから水の侵食が起きてどうしてもゆるくなってしまいます。特に箱型のお風呂だとそういった現象が起こるので、基本的に人工林は使いません。人工林と木曽の天然木を比較すれば、断然天然木の方が長持ちすると思います。」
せっかく、人工林があればヒノキ不足が解消できると思いきや、志水社長いわくやっぱりヒノキ風呂は天然のヒノキに限るとのことでした。お話に出てきた「ほぞ組み」というのは、木と木をパズルのように組み合わせる技法のことです。ここがどうしても人工林のヒノキだと上手くいかないんですね。天然のヒノキと比べると強度やキメの細かさ、耐久性などの面も全然違うそうです。というのも、木曽の天然のヒノキは寒さが厳しい環境で育つため、年輪と年輪の間がぎゅっと詰まっていているから最適なんです。
人工林はこれからどんどん育っていっていますが、単純計算で今日生えてきた人工林が天然ヒノキと遜色なく使えるようになるには、150年から300年くらいかかるので、もし300年と仮定すると2317年までかかってしかまいます。まだまだ時間がかかりそうですね・・・。