★『応仁の乱』ブームのなぞ
ここ数年「活字離れ」「本が売れない」と叫ばれて久しいですが、そんななか、爆発的に売れているというある本について、3月27日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で取材報告しました。
★31万部突破!村上春樹とも接戦を繰り返す『応仁の乱』
まずは、どんな本なのか?本の編集担当、中央公論新社・編集部の並木光晴さんのお話です。
- 中央公論新社 編集部 並木光晴さん
- 「呉座勇一さんのお書きになった『応仁の乱~戦国時代を生んだ大乱~』です。時代の前後も含めて『応仁の乱』をこれ一冊で分かるものになっていると思います。マイナーな題材で地味な本なので、最初から売れるとは考えていなかったが、最新で31万部、増刷の回数は15回。村上春樹さんの『騎士団長殺し』とは、勝ったり負けたり接戦を繰り返していると言っていいのではないでしょうか。」
応仁の乱といえば、“ひとよむなしく(1467年)応仁の乱”で覚えた方もいると思います。もともとは、室町時代の8代将軍足利義政の弟・義視(よしみ)と、義政の息子・義尚(よしなお)の間で起こった家督争い。これに、幕府の実験を握ろうとしていた細川勝元と山名宗全(やまなそうぜん)が介入したために対立が激化し、戦国時代の幕開けとなった大乱です。
この本、一時期は、アマゾンの本の総合ランキングや紀伊國屋書店全店の和書ランキングで1位を獲得し、22秒に1冊のペース(中公新書調べ)で売れていたこともある位、人気なんです。
★登場人物300人!読めば読むほど分からない?
これほどの人気、よっぽど内容が面白いのでしょうか?再び並木さんに聞きました。
- 中央公論新社 編集部 並木光晴さん
- 「基本は時系列で、東の大将が細川勝元、西の大将が山名宗全。2人が東軍と西軍に分かれて戦いが起こった。
そのほかにも、有力者の家督争いや幕府の後継者争いなどもあり、いろんな要素が絡んでいる。応仁の乱、みなさん名前は知っていると思うが、地味なテーマなので業界的にもこの時代人気がない。ガチガチではないが、かなり本格的な学術書なのでエンターテインメント性はあまりない。」
応仁の乱について最新の研究成果も交えて書かれているこの本、登場人物が300人出てきたり、敵・見方がコロコロ入れ替わったり、人間関係が複雑で・・・。私も読んでみましたが、人物の名前が覚えきれなくて大変でした(汗)。
★街の声「応仁の乱、名前くらいなら知ってます・・・」
では、そもそも、街の人は応仁の乱に対してどんなイメージを持っているのか?本の街・神保町で聞きました。
- ●「昔、中学校で習ったくらいで、詳しい乱の内容は覚えてないです。好きなのは織田信長、徳川家康、足利義満。スケールの大きさがいい。」
- ●「一応、昔の歴史の授業で応仁の乱は聞いてるけど、「そういうのがあったなぁ」というぐらい。なんか覚え方とかありましたよね、年号の。具体的なのは全然。誰と誰が争ったとか知識はありません。でも、ちょっと面白そうだなとは感じた。」
- ●「出てくる人とか思い浮かばない。「応仁」とか「乱」とか今風じゃないし、ちょっとしょぼい。大きいことを成し遂げる人には惹かれる。西郷隆盛とか山岡撤収とか。」
皆さんスケールが大きくて、派手でわかりやすい時代が好きなよう。地味なテーマの応仁の乱とは、好みがかけ離れているという印象でした。
★書店「地味なところがウケているのでは」
そんな中、「応仁の乱フェア」なるものを開催している本屋さんがありました。本屋さんならなにか分かるかも知れないと思ったので、『応仁の乱』が売れている理由を聞きに行きました。書泉グランデの日本史担当・渋谷麻起子さんのお話です。
- 書泉グランデ 日本史担当 渋谷麻起子さん
- 「大体、江戸時代とか幕末時代とか、ドラマにでもなるような本が出版されるんですけど、この室町とか地味すぎる大乱なので、戦いが少なく平穏な、逆に地味すぎることがみなさん気になるのでは。他の本と比べて女性のお客様も多く、客層も幅広い。」
どちらかといえば「地味」なところがかえって新しいと感じ、結果的にこのブームに繋がっているのではないかという分析でした。この書店の「日本史コーナー」では、『応仁の乱』ブーム以降、あまり見かけない客層(女性など)も増えていて、フェアは予定より1ヶ月延長し、3月末まで開催されるということです。
★ユニークな宣伝が功を奏したか
最後に、地味なのに売れた理由を、中央公論新社の並木さんにも聞いてみました。
- 中央公論新社 編集部 並木光晴さん
- 「最初は内容を分かりやすく忠実に紹介していこうと思って新聞のコピーを考えていたが、宣伝部の人たちがかなりユニークな、うちの会社らしくないコピーを考えてくれた。例えば“地味すぎる大乱”とか“知名度はバツグンなだけにかえって残念”、“スター不在”、“勝者なし”、“ズルズル11年”など、意外にいじりやすいというのは、このテーマがもともと持っていた魅力なのかもしれない。」
編集担当の並木さんとしては、内容を忠実に紹介して売上げに繋がればいいなと考えていたようで、ちょっと複雑な心境でしたが、今後はキャッチコピーとともに内容もより話題になればと話していました。