最近ニュースで取り上げられる「冷凍メンチの食中毒」。実は、冷凍メンチにはあまり知られていない大きな落とし穴がありました。「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)の「現場にアタック」で、レポーター阿部真澄が取材しました。
★冷凍メンチで食中毒。主婦はどう思った?
今月、冷凍メンチカツによる腸管出血性大腸菌「O157」の集団食中毒が発生し、被害は神奈川県を中心に全国で約60人に広がっています。食中毒が出ているのは、神奈川県にある食品加工会社「肉の石川」の販売していた冷凍の「和牛メンチ肉の石川」や、食肉加工会社「米久」の「ジューシーメンチカツ」などで、既に商品回収は始まっています。今回のこの食中毒について取材をすると、街の主婦からこんな声が出て来ました。
- ●「(冷凍食品よく買う?)お弁当に、コロッケとかメンチカツとか。(冷凍メンチでO157知っている?)知らないです。揚げているから大丈夫かと思っちゃう。しっかり火を通せば大丈夫だという感覚で、不十分だったらダメというのも、そこまで危険性を感じていなかった。」
- ●「冷凍コロッケとか買います。O157の話しも知っています。揚げていれば大丈夫、加熱してれば大丈夫と思うので、あんまり気にしたことないです。(食べたら半生だったことはある?)ちょっと半生だったことはあるかもしれない。」
- ●「揚げたのにダメだったの??冷凍食品って全部そうなんですかね??(冷凍メンチの調理をするとき、気をつけていることある?)あまりないです。冷凍食品は見た目が普通に揚がっていたら、火が通っている証拠だなって・・・」
今回冷凍販売されていた「メンチカツ」は、電子レンジでチンするタイプでなく、家で油で揚げるタイプのものです。揚げたてが食べられるので人気のものなのですが、主婦の皆さんは、「なんで油で揚げたのに食中毒になるの?」とう疑問が多かったです。
★気をつけて!冷凍メンチの落とし穴・その1
主婦の方達も疑問に思っていた今回の食中毒ですが、調べてみると、実は「冷凍メンチ」には落とし穴がいくつかありました。まず1つ目の落とし穴について、東京都福祉保険局 渋谷智晃さんのお話です。
- 渋谷智晃さん
- 「「O157」は家畜の腸管内とかに存在する菌。例えばステーキなんかの肉ですと、表面に「O157」が付着していても、しっかり加熱すれば、中は「無菌状態」と言われているので問題ない。ただ、「ひき肉」のように挽いてしまいますと、表面に付着していた「O157」が中まで入り込んでくるので危険が増してくると思います。」
本来、肉の中は菌がない「無菌状態」なので、ステーキなどのように何も加工していないブロック肉であれば、表面を加熱すれば、「O157」は熱に弱いので死滅します。ただ、メンチカツは肉を挽いて混ぜているため、菌がいれば全体に混ざってしまうので、その場合は中までしっかり加熱しないといけません。今回のケースでは、そこまで火が通らなかったと考えられるということでした。
★気をつけて!冷凍メンチの落とし穴・その2
- 東京都福祉保険局 渋谷智晃さん
- 「「冷凍食品」は「食品衛生法」によって、規格基準が定められています。つまり、製造後の製品の「細菌数」とか「大腸菌」を検出してはならない基準があります。ところが、この冷凍メンチはいわゆる「冷凍食品」ではなくて「惣菜半製品」にあたるものなので、基準がありません。どちらにしても、調理するときはしっかり加熱することが重要。」
実は、今回食中毒が出た冷凍メンチは、厳密には「冷凍食品」ではありません。スーパーの冷凍コーナーで販売されている商品は大きく2つに分かれていて、メンチで言えば、既に調理済み=揚げたものを冷凍したのが「冷凍食品」(後は温めたり、電子レンジでチンすればよいもの)。一方、こねてパン粉をつけただけで、揚げる前の段階で冷凍したのが「惣菜半製品」です。こちらは食べる前に油で揚げる必要があります。
そして、この2つのタイプは大きな違いがあります。「冷凍食品」は食品衛生法で、大腸菌が存在しない状態で販売することが義務付けられているのですが、「総菜半製品」については、規格基準が存在しません。衛生的な環境で調理することは義務づけられていますが、家庭で加熱調理することを前提とする商品なので、調理した冷凍食品ほど菌を完全におさえこめていない可能性があります。つまり、生肉と同じ扱いで、調理する時に、完全に火を通して、殺菌する必要があるのです。
★冷凍メンチの調理は、中までしっかり火を通すこと
では、「惣菜半製品」の冷凍メンチを調理するときに気をつけることはどんなことか?再び、東京都福祉保険局の渋谷さんに伺いました。
- 東京都福祉保険局 渋谷智晃さん
- 「冷凍メンチを調理する場合、例えば商品の表示ラベルに「170~175℃の油の温度で6分揚げてください」と書かれています。家庭で調理する場合、1個であれば、その時間で揚げることができるかもしれませんが、東京都が以前、冷凍コロッケで行った実験で、1個のときは、中心部まで熱が通ったのですが、一度に「3つ」ほど入れますと、最初の油の温度から「20℃」下がってなかなか中心部まで熱が通らなかったというデータがあります。冷凍メンチはコロッケよりも厚みがあるし、お肉を原料としていますから、より十分な加熱が必要です。安全をとれば「揚げ過ぎてちょっと焦げても中心部まで火を通す」ことが重要だと考えます。」
一応、厚生労働省も今回の問題を受けて、「惣菜半製品」について「衛生基準」を設ける検討に入りましたが、とにかくまず、加熱することがポイントです。揚げ終わったら、きちんと中を割るくらい丁寧にやるといいということでした。
(取材・レポート:阿部真澄)