「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」。毎週月曜日は東京新聞との紙面連動企画。今日は例年なら海の日、ということで、先月、東京新聞の夕刊の掲載された「海洋プラスチック誤飲、生物救え!胃で分解されるナイロン開発」という記事に注目しました。
★海でも、胃でも分解されるナイロン!
プラスチックの一種であるナイロンが分解できる、ということですが、今でも、分解できるナイロンというのは、見かけますよね。では何が違うのか?詳しく教えてもらうために、今日は記事に登場していた開発者の北陸先端科学技術大学院大学の金子達雄教授にお話を聞きました。
- 金子達雄教授
- 「今までの分解できるナイロンというのは、表面から削れていくような分解のされ方なんですね。そうするとフォークなんかだったら尖ってくるんですよね。それに対して、我々のナイロンは、ゼリーのように柔らかくなりながら分解していく。普通のナイロンは一本の鎖のような分子構造なんですね。今回の我々のナイロンは、一本の鎖に仕掛けがございまして、鎖の表面をちょっと違う分子で繋いでるんですよ。アミノ酸を加えることによって、その繋いでる部分がですね、胃の酵素で、水を呼び込めるような形に変換されるように仕組んでいるんですね。今までは、水と光によって、同じようなことが起こるように仕組んできたんです。で、改良ですね。胃の中の酵素によってもさらに同じことができると。食べなくても分解していきます。食べられても、光が無くても、酵素で今度は分解できると。両方できるということになります。」
金子先生は動物好きということもあって、海洋プラスチックの誤飲で生き物たちが苦しんでいることに強い懸念を抱いていた。そこで、自分のプラスチックの分野で、この問題を解決できるアプローチはないか、と10年以上考えて、ここに至ったそうです。
開発成功の秘密は、ナイロンの分子構造に「アミノ酸」を組み込んだこと。今ある分解できるナイロンは、水と光で分解できたので、海に漂っているうちに分解されていた。しかし、飲み込まれて光がなくなると分解が止まってしまう。今回、ナイロンの分子構造にアミノ酸が加わったことで、胃の酵素でも、分解できるようになった、ということなのです。
しかも、分解のされ方が、最初にゼリーのようになるとこで、誤飲してしまっても体につまることも、刺さることもなく、バラバラに崩れて排出されるわけです。
★神の手を持つ研究員がいたから!
ただ、このアミノ酸を反応させるように組み込むのは、かなりの難題なのだ、と金子先生は話します。
- 金子達雄教授
- 「アミノ酸っていうのは、実はあんまり反応してくれない物質なんです。それを反応させるっていうのは、かなり技が必要なんですね。そういう技を編み出して、まあ編み出してくれたのは、私の研究室にいるインド人スタッフなんですけれども、ムハメド・アリ・アシフっていので、みなさんアシフって呼んでますけども。私は彼に対して神の手を持つ、という風に言っているんですね。例えば、ちょっとだけ違う操作をすると上手くいかないことってよくあるんですけども、その辺をうま~く扱えるというかですね、え~やっぱり神の手ですね。で、始めの内は、アミノ酸が反応性が悪いので、使えるようにするのは難しいんですが、上手く条件を整えることが可能になると、今度は誰でも扱えるようになります。で、その条件を見つけるところまでが、アシフでないとできなかったんじゃないのかな、と思っています。」
子供の頃から優秀で、10年前にデリー大学から金子先生の元に来た、アシフさん。今は博士研究員、という立場で勤務していますが、アシフさんが神の手を持つ研究員なのです!!アシフがいたからアミノ酸を加えて新しいナイロンを作ることができた、と。なにしろ世界初のアミノ酸を組み込んだナイロンですからね!東京新聞にも、金子先生とアシフさんは並んで写真に写っていて、まさに二人三脚の開発でした。
★「脱プラ」ではなく、「脱プラごみ」!
それにしても、プラごみを減らすために他の素材にする、という話が多い中で、金子先生は、プラスチックそのものを改良しました。プラスチックをなくさない、ここが金子先生のこだわりだ、と言います。
- 金子達也教授
- 「脱プラの動きですね。今、プラスチックはもう使わないとか作らないという動きが世界的になってきていますけれども、私からみたら短絡的な動きじゃないのかなと、そういう風に思ってしまうものなんです。プラスチックは非常に軽いものでして、しかも落としても割れない、そういう安全な部分もございますし、輸送時に排気ガスを出さないとか、その軽さっていうのが、この世の中のエネルギー消費を減らしているわけです。それをまたビンに戻すとか、そういうようなことになった時には、もうちょっと耐えられないと思うんですね。だから、軽量化社会をもっと促進させるためには、脱プラどころか、プラスチックはもっと作らなきゃいけない時代に入っていく。ただ、ゴミ問題ですね。プラスチックゴミ問題というのをなんとかしなければいけなくて、「脱プラゴミ」っていうのを私は訴えていまして、ゴミになっても大丈夫なプラスチックを作る必要があると、いう風に考えています。」
プラスチックのいいところを残すために、プラスチックの悪いところを改善する。脱プラではなく、脱プラごみ、ということでした。
東京新聞の記事では、この研究開発はドイツの科学誌のオンラインで公開され、フランスとアメリカの化学メーカーから実用化の申し入れがあったとしています。
課題は量産化とコストの引き下げですが、これも金子先生は「容易に解決できる」と。開発されたナイロンは、まずは洋服の繊維として活用してもらい、その後、さらに強度をあげて漁網や釣り糸に活用できるものを目指すということでした。
「脱プラ」ではなく、「脱プラごみ」。利点の多いプラスチックを上手に使いたいですね。