6月5日は「世界環境の日」。環境意識を高める日として、世界的に定められています。そこで世界の「水環境」の改善に活躍している日本の様々な技術について、6月3日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。
まず、環境というと温暖化に目が行きがちですが、一方で、水環境の改善も大きな課題となっていて、SDGsの6番目の目標として掲げられています。
その世界の水環境の改善に、日本の様々な技術が貢献しています。
1つめは、途上国の飲料水の改善について。汚れた水を微生物を使ってきれいにする、「生物浄化法」という技術の考案者で、現地で工事にも立ち会った信州大学・名誉教授の、中本 信忠さんのお話。
★汚れた水を綺麗にする「浄水装置」が、開発途上国で人気
- 信州大学・名誉教授 中本 信忠さん
- 「安全な水を人工的に作るには、どうすれば良いか。実は、「生物群集」の活躍だということに気づいた。砂の上に水があって、その水が上から下へ落ちる。その時に、砂の百分の一、千分の一ぐらいの、小さな生物が反応して、入ってきた餌を全部食べちゃう。餌は「汚れ」。そして、分解し終わった水が、安全な水になる。川の水は茶色だが、透明な水となって出てくる。その水を工事の最中から、彼らはすぐに飲む。おいしいとゴボゴボ飲みます。」
ユニセフによると、2017年時点、世界では22億人が安全に管理された飲み水を使用できず、このうち1億4400万人は、湖や河川、用水路などの未処理の水を、使用しているそうです。
そこで、中本さんが考案したのが、汚れた水を綺麗な水に変える、「生物浄化法」という方法。
大掛かりな浄水場は必要なく、タンクに入れた「砂の層」に、濁った水を、ゆっくりと流し込むことで、水の中の不純物が取り除かれます。この中で、中本さんは、物理的な「ろ過」だけでなく、砂の層の表面にすんでいる多様な微生物が、「水の汚れ」や「雑菌」を除去していることを突き止めました。
- 薬品も、機械も、電気も使わないので、低コスト。
- 現地の砂や、雨水タンクなど、ローカルの材料で建設できて、メンテナンスも簡単。
そのため、途上国でも無理なく持続的に使える点で評価されていて、中本さんは、バングラディッシュやインドネシアなど、多くの集落で、普及活動を行ってきたそうです。
★トイレの汚水を「脱水処理」して、水質汚染を改善
ここまでは、「上水」のお話でしたが、水環境では「下水」の浄化も課題になっています。この下水でも日本の技術が注目されていました。フィリピン・セブ市の汚水環境を改善した日本企業、アムコン株式会社の代表取締役、佐々木 昌一さんに聞きました。
- アムコン株式会社の代表取締役、佐々木 昌一さん
- 「セブには、下水道が整備されていない。日本では、トイレ・台所・お風呂などで水を使ったら、流した水は、下水処理場に送られる。ただ、セブの現状は排水流しっぱなし、溜めっぱなしで環境汚染を引き起こしている。我々がJICAと一緒にやった事業は、各家庭の排水を溜めるタンクから、バキュームカーで引き抜いて、それを集約する処理施設を作った。「汚泥」は、見た目としては泥水みたいな状態。我々は「汚泥脱水機」という、排水処理設備で使う機械装置を作っているメーカー。この、水分率99%の「汚泥」を、「固形物」と「水分」に分離して、廃棄物を処理しやすくしようというのが、汚泥脱水機の役割です。」
「汚泥」=汚れた泥水をきれいにする技術です。
セブ島と聞くと、リゾート地のイメージですが、観光地を少し離れて街中に入ると、ポイ捨ては当たり前。下水道が整備されていないエリアもあり、汚泥がそのまま廃棄され、病気が蔓延したり、深刻な水質汚染を引き起こすことが、問題視されていました。
そこで、アムコンは、家庭から排出された「汚泥」を脱水する、「汚泥脱水機」という機械を、現地に持ち込みました。
機械自体は自動車ほどの大きさで、ドロドロの泥水がこの機械を通ると脱水されて、個体と液体に分離されます。そして、個体は土のようになって発酵されて畑の肥料に使われたり、液体は綺麗な状態になって河川に放流されたりと、環境を汚染しない形に生まれ変わるそうです。
また、他社の機械より効率的で、1時間に60トンもの汚泥を処理できるということ。現地の写真を見せてもらいましたが、浄水場の貯水池が、以前はドロドロだったのが透明に。かなり綺麗に環境改善されていました。
ちなみにこの事業は、アムコンが拠点を置く横浜市と連携して行ったということで、「新興国の課題を官民連携で解決していこう」と言う横浜の「ワイポート事業」というものだそうです。
★「身の丈に合った技術」の普及が第一
でも、せっかくなら、汚泥を貯めて浄化するのではなく、日本など先進国のように、汚泥を貯めない、下水処理システムを作った方が衛生的なのではと思ったので、最後に事業を推進する横浜市に疑問をぶつけてみました。横浜市・国際局・国際協力部長の、折居 良一郎さんに聞きました。
- 横浜市・国際局・国際協力部長 折居 良一郎さん
- 「下水道の仕組みは、かなり先進的。技術も必要だし、お金もかかる。では、フィリピンのセブではどうかと言うと、「汚泥」をまず、しっかり処理しようじゃないかと。アムコンの脱水機という、シンプルで効率の良い機械を何個か入れるだけで、早期に効果も発見できるし、費用面でも良いだろうと見立てた。私も実はエンジニアなんですが、やはり現地に適合する技術。フィリピン国のセブであれば、セブの現状、財政規模とか色んなことを鑑みながら、現地に合った技術を使っていく。これが、継続的・安定的に使われていく為の鉄則。一歩ずつ進めていく。」
最新の技術を導入すれば全て解決、ではなく、その国の実情に合った、身の丈にあった支援でないと、現地で持続的に運用することができない、こうした視点が現地に求められているということでした。
そこでこのアムコンの技術が活躍できるとして、今後、数年後を目処に、セブ市を含めた22万世帯の汚泥処理に活用し、同時に横浜市としては、汚泥の運搬や、処理に対し、役所がどう関わるか、現地の条例はどうするかなど、自治体としての経験も伝えていきたいと話していました。
田中ひとみが「現場にアタック」でリポートしました!