生態系に悪影響があり駆除対象になっている魚をどう活かすのか。最近、さまざまな工夫が広がっているので、取材しました。「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」!!今日5月31日(月)は、『駆除対象の魚、広がる活かし方。』というテーマでリポートしました。
★食用の副産物、皮を革に活かします!
まず一つ目が、いま、釣るのにいい季節と言われるブラックバス。駆除したブラックバスを料理して出すお店は増えていて、「身」は活かされているのですが、食べても残るのが皮。そこで、捨てられている皮を活かそうと、なめして、ブラックバス革のお財布を作った人がいます。
兵庫県姫路市の「有限会社 新喜皮革」。創業70年、普段は馬革を作っている会社の専務取締役で、革製品会社「コードバン」の社長でもある、新田芳希さんのお話です。
- 新田芳希さん
- 「私が魚釣りがすごい好きで、毎週のように琵琶湖にブラックバスを釣りに行ってるんですけども、琵琶湖のブラックバスは、食用にもされてるんですけども、皮っていうのが食べられないんでね、ブラックバスの皮は、やっぱり臭いがあるんで。ま、捨てるのはもったいないということで、何か利用できないかな、ということでやり始めました。やっぱり臭いですよね、魚の臭いが最後までついてると、やっぱり製品になってもねえ、イヤじゃないですか。最初は生臭い革が出来てきたんで、だいたい一年くらいかけて、もう何度も繰り返してやりましたね。生きてた時のブラックバスの色ですね、再現したものは、ホントにそのまんまですよね。うろこ模様が残ってる、特徴のある革になってます。やっぱり釣りが好きな人っていうのは、すごい興味持たれて、もう興奮ですよね(笑)、めちゃくちゃ喜んで貰ってます。」
基本は生きているブラックバスのまんま、の色つやの商品。あとは、オレンジや黄色に染めたもの、琵琶湖の水草で染めたもの、の4色あります。
ブラックバスの革、と言わないと、だいたいの人は「ヘビ革ですか?」と言うそうですが、確かにヘビ革っぽい!これが、釣り好きには大好評!生産が間に合わず、待ってもらう時もあるとか。(財布・小銭入れ・キーケースなどの小物。価格は2万円後半が中心です。)
食用の副産物として、漁協で出た皮を仕入れていますが、今までは使いみちがほとんどなく、捨てられていたもの。これで皮が活かせるので、少しは貢献出来ているかな、駆除対象の魚ですから、獲れなくなるまでは作り続けます!ということでした。
★「ニザダイ」を寿司ネタに!悩んで格闘してついに完成!
続いては「ニザダイ」という魚。
こちらは、回転ずしの「くら寿司」が、寿司ネタにできないかと、取り組みました。まず、ニザダイとはどんな魚なのか、なぜ駆除の対象なのか?「くら寿司」広報担当の辻明宏さんに聞きました。
- 辻明宏さん
- 「ニザダイに関しては、磯にある海藻を食べ尽くしてしまって、生態系を壊すと言われているんです。そういう問題があるので駆除にしないといけない、けど、海藻をたくさん食べる魚なので、海藻の発酵臭みたいなのが、身自体に臭いがついているという部分が、かなりネックになっていたみたいで、ずーっと色々、悩んで格闘してきた魚ではあるんですよね。私は食べました。これは、タイって言ってるけどタイの味じゃなくて、カンパチとか、脂の乗って、身がしっかりしてるような、そんな食感だったり味わいでしたね。すごい美味しいんで、もしかしたらタイよりも美味しいっていう人もいると思います。」
ニザダイは、西日本でよく上がる魚で、特に夏場、磯臭いにおいがあり、クセがあったのです。それが、美味しい寿司ネタになりました!
実はこれ、神奈川県の水産技術センターが、「海藻を食べ尽くす割に身がスカスカなウニに、キャベツを与えたら身もぎっしりで美味しくなった」という報道をくら寿司の担当者が見て、同じ磯の海藻を食べるニザダイもキャベツを食べさせたらいけるかも!と実験して商品化に漕ぎつけました!
この夏、全国のくら寿司で食べられます。
そして、くら寿司がニザダイの商品化に取り組んだのにはもう1つ理由があるんです。くら寿司は、漁師さんの収入を守るため、定置網に関しては、どんな魚がかかっても一定額で買い取る「一船買い」で漁師さんと契約しています。だから、あがった魚はもれなく商品としていきたい、という思いもあるのです。
★欲しい魚だけ買う、ではなく、獲れた魚をどう売るか?
身自体に臭いがあるニザダイは、なかなか手強い相手でしたが、温暖化の影響で、このニザダイがかなり網にかかってくるそうですから、この商品化は強いですよね!
現在は、ニザダイのように臭いがある上、背中に毒針もある別の駆除対象の魚にチャレンジ中のくら寿司。駆除対象の魚を活かして商品化する、ということについて、こんな風におっしゃっています。
- 辻明宏さん
- 「日本には200種類以上の魚が水揚げされるらしいんですね、各地で。で、メインで消費されるものって、実はそのうちの10%あるかないかくらい、と言われているんで。いま、世界中での魚食の消費だったりとか、漁師さんの後継者問題とかで、魚が高くなってくる中で、今だからこそ、自分たちの日本の近海にある資源っていうのを、いかに有効活用していけるか、というところが魚食の未来にもつながるんじゃないかな、と思ってます。魚を食べ続けるには漁師さん、絶対必要なので、ただ単に欲しい魚だけを買うんじゃなくて、獲れた魚をどう売るか?っていう考え方っていうのを、我々は取り組んでいきたいな、と思っています。」
実は辻さんが入社した20年前、くら寿司が商品化したのが、今では一般的な「ビントロ(ビンチョウマグロ)」。当時は、ツナ缶などに使われており、一般には生で消費されていなかったのですが、大手のくら寿司が商品化することで、一般的に流通する魚種となった。
同様に、駆除対象の魚を商品とすることで、他の水産業者も扱うようになれば、もっと流通する可能性もあり、ニザダイが「値の付く魚」になっていける。
環境を守るため、魚食文化を守るため、漁師さんを守るため、駆除対象の魚を活かす工夫を続けるということです。