先週、政府と福島県等は、2030年度までに、福島県内で、電力のすべてを再生可能エネルギーで賄う工業団地を複数、整備することを決定しました。水素と再生可能エネルギーを最大限に活用した都市モデルということですが、水素カーもなかなか一般的にはならなそうですし、水素を上手に使うのは意外と難しそう、というのが正直な印象です。そこで調べてみると、その参考になりそうな取り組みがありました。
「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」!!今日2月15日(月)は、『川崎市の再生可能エネルギー100%のホテルにアタック!』というテーマで取材しました。
★水素の”地産地消”です!
一足早く、水素の活用に取り組んでいる、世界初の「水素発電ホテル」に取材しました。そのホテルは川崎臨海部にある、川崎キングスカイフロント東急REIホテル。どのように水素を活用しているのか、ホテルの管理部門の金古紗織さんのお話。
- 金古紗織さん
- 「世界初と言われる所以が二つあるんですけれども、使用済みのプラスチックを使った水素、ということ、それから水素自体をパイプラインで直接供給しているという点で世界初と言われています。通常ですと、水素を液化してトレーラーなどで運搬するんですけれども、京浜工業地帯という立地を活かしまして、地下に埋まっているパイプラインで直接供給をしています。運ぶ際にも、トレーラー使いませんので、CO2は出ません。川崎市にある昭和電工さんの水素製造設備から、だいたい5キロにわたるパイプラインを通って当社まで運んで来ていただいています。はい、地産地消ですね。」
環境省の実証事業で、同じ地域にある昭和電工が、プラスチックごみから水素を作り、ホテルが使う、という実験に取り組んでいます。ホテルも、歯ブラシやくしなどのアメニティでプラごみがでますからね。それも活かせます。
しかも、京浜工業地帯という地の利を活かし、元々あったパイプラインを使い、直接ホテルに水素が届く。だから輸送の際のCO2も出さない!
届いた水素は、ホテルの敷地内の燃料電池に貯蓄され、熱エネルギーと電気エネルギーに変えられて、ホテルの照明や給湯、ほかにも、ロビーに設置された植物工場でのレタスの水耕栽培へと活用しています。
近くで作って直接届けて近くで使う。これは、地産地消だからできること、ですよね。
★食べ残しを電気に!!
ただ水素で賄えているのは電力の30%。残りの70%はどうなっているのか、再び、金古さんのお話です。
- 金古紗織さん
- 「導入当初は、ホテルの30%だけを水素で賄うということだったんですが、残りの70%についても、実は昨年から食品廃棄物由来の再生可能エネルギーを活用することによって、100%CO2フリーを達成しています。ホテルの抱える問題として、食べ残し、食品廃棄物っていうのがひとつの大きな課題ではあったので、それをリサイクルして再生可能エネルギーに変えることによって、プラスチック以外の問題も同時に解決できるということで、取り組みを始めました。さすがに残りの7割全ては担えなかったんですが、足りない分に関しては、再生可能エネルギーを購入するということによって、100%CO2フリーを達成しています。一年間で、CO2の削減量が、だいたい「杉の木の1万4300本分」という風に言われておりまして、ちょっと桁数がすごいので、想像がつかないかもしれないんですが、これくらいの効果は出ています。」
水素の活用は環境省の実証事業ですが、それとは別に、ホテル独自にもっと再生可能エネルギーを活用できないか、と考えて思いついたのが食べ残し。
食品廃棄物を集め、ご近所の横浜市鶴見区のJバイオリサイクルという会社に提供。微生物でメタン発酵させ、そのメタンガスを燃料に発電して、それを買い戻す。
ホテルから出たごみから作られた再生可能エネルギーを購入して、活用という循環型の仕組みになっている。
そして、足りない分は、これまたご近所の横浜市鶴見区の発電会社アーバンエナジーから、再生可能エネルギー買う。
これで、100%再生可能エネルギーホテルに!ついに100%達成です。
これによって、杉の木1万4300本が吸収するCO2と同じ量が削減できました。効果抜群!
★地域で協力することで達成できる!
しかし、水素の活用については、現在は環境省から補助金が出ている実証事業。これは期間限定ということなので、その期間が終わったら、どうするのか?直球で聞いてみました。
- 金古紗織さん
- 「やはりあの、こういった環境に配慮するという取組みには、ある程度のコストはつきものでして、通常の電気よりは、多少負担が出てしまいますね。そうですね、当ホテルは泊まるだけでエコっていうのを目指しているので、多少費用の負担はありますけれども、その後も実証事業が継続に至らなかったとしても、水素を購入するという形で、今後もこの活動は続けていきたいと、今のところは検討しています。正直、全てにおいて、いろんな企業さんがいて成り立っている仕組みではあるので、みんなそれぞれの得意分野を持ち寄って、協力してやっているので、協力をすることで達成できるというところも、合わせて発信していきたいな、と思っています。」
通常電気よりもコストがかかるのも現実。しかし、”泊まるだけでエコ”なホテルを目指すため、継続していきたい、と検討しています。
すぐ近くに水素を製造することができる企業がある。それをCO2を出さずに運ぶことができる。バイオエネルギーの会社もある。そしてそれぞれが協力する。そういった地産地消を叶える環境があって、ホテルの100%再生可能エネルギーが達成できているのです。
先週、政府と福島県などが決めた再生可能エネルギーだけで作る工業団地というのはかなり規模が大きいですが、この京浜工業地帯のように、各社が得意分野で連携できるかどうかが、成功の鍵、といえそうです。
日本には工業地帯、と呼ばれるところは多くある。そういう水素活用に向いている場所から変わっていくと、日本の脱炭素は進むかもしれません。