冬の間お困り方も多い「結露」。国立研究開発法人物質・材料研究機構が結露の発生をいち早く予知する「モイスチャーセンサ」というものを開発して、注目を集めています。開発者も予想しなかった分野から反響が寄せられているといいます。
「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」!!今日2月9日(火)は、『結露予知センサーに需要 100ナノの水滴も検知』というテーマで取材しました。
★目に見えない微小な水滴を検知
結露の発生を予知するためには、空気中にある水分(目に見えないごく小さな水滴)を検知することが必要なのですが、従来の湿度計や結露検出器ではそれが不可能だそうです。なぜ湿度計や結露検出器では不可能なのか、そしてモイスチャーセンサはなぜ検知できるのか。モイスチャーセンサを開発した物質・材料研究機構の川喜多仁(かわきた・じん)さんにお聞きしました。
- 川喜多仁さん(電気化学センサグループ グループリーダー)
- 湿度計は高い湿度、100%近くになると原理上、正しい値が出にくいという性質があり、一方、結露検出器は目に見えるような大きな水滴しか検知できないんです。私どもが開発したモイスチャーセンサは目に見えない水の粒をつかまえることができるので、人間の目にはまだ見えないうちに結露が起こっていることがわかります。そういう意味で「予知」ができるということです。
モイスチャーセンサは、100ナノメートル(1万分の1ミリメートル)の水滴を検知できます。人間の目で見ることができる限界が10マイクロメートル(100分の1ミリメートル)で、そのさらに100分の1が100ナノメートル。人間の目はもとより、今までのセンサーでも検知できないほど小さな水滴を検知して、その水滴がどんどん成長して大きくなる速さなどを解析することによって、結露の発生を予知できるということです。また、結露はガラスやアルミなど材質によっても発生状況が違ってくるのですが、このセンサはそれも正確に予想できるそうです。

モイスチャーセンサ
写真提供:物質・材料研究機構、アキューゼ(NIMS発ベンチャー)
★開発者も予想しなかった分野から問い合わせ
結露の発生をいち早く予知できるモイスチャーセンサ、いろいろなところから問い合わせがきています。まず農業。ハウスでトマト、キュウリ、イチゴなどを栽培している農家は、結露を早めに検知して作物の病害を防ぎたいということで関心持っています。

モイスチャーセンサの使用例
写真提供:物質・材料研究機構、アキューゼ(NIMS発ベンチャー)
※2枚とも
また住宅や建築の分野からも、窓ガラスやサッシの結露予測のために導入したいという引き合いがあるといいます。
ものづくりの分野からも、材料や原料の表面が濡れているか乾いてるかによって出来上がりがかなり違ってくるということで、その状態をチェックしたいという声が届いています。また、工場や施設の結露についてもモイスチャーセンサが使えないかと言われているそうです。
さらに、ほかにも川喜多さんが予想しなかった分野から「使ってみたい!」という要望があるそうです。
- 川喜多仁さん
- ものを運ぶ物流、例えばコールドチェーン。冷たいものを運ぶときに結露してしまうと中身の品質によろしくない場合があるので、結露せずに運ばれてきたかどうかをトラッキング(追跡)することに使えないかということです。その発展形が、湿度をコントロールして結露させたくない高価な絵画とか楽器の運搬で、やはり結露しなかったかどうか追跡できないかという問い合わせをいただいています。
ほかにヘルスケアの分野でも、肌や目から蒸散するごく小さな水滴をセンサーで検知することによって、お肌の乾燥やドライアイのチェックも可能だとか。
★様々なセンサやAIとかけあわせて
川喜多さんはこのセンサーを5年前に開発し、実用化に向けて様々なセンサーメーカーに共同研究を呼び掛けたそうですが、当初は「どのくらいニーズがあるの?」と断られたそうです。それが実際にやってみたら、予想もしなかったほど多くの反響。
でも、川喜多さんは「多くの人は、結露するのかしないのかだけが知りたいわけではないんです。むしろその先のことがしりたいのです」と言います。
- 川喜多仁さん
- 結露するかどうかがわかれば嬉しいという人もいらっしゃるんですけれど、農業も含めてかなりの分野は、結露が起こったあとに病害が出るのかとか、結露の影響やその後に起こることが知りたい、予知したいというところに本当のニーズがあります。それに応えるためには、結露のセンサーだけではなくほかのセンサーのデータや環境データとあわせて人工知能に提供するということが求められていて、それがこの先の展開になります。
いま世界のセンサー市場は様々な分野で年々需要が高まっています。センサーの開発者も思いつかなかった需要がこれから新たに生まれてくるかもしれません。