新型コロナウイルス感染対策として特定エリアの混雑情報をリアルタイムで配信するサービスを導入する自治体や企業が増えています。ある場所にカメラやセンサーを設置してAIで人出を解析して通知する仕組みで、元々はカフェやレストランの空席情報サービスとして広がったものです。これを災害時の避難所の「密」を避けるために導入する自治体が増えているという話を以前このコーナーで取り上げました(『災害時はリアルタイムが鍵。情報の宝庫「つぶやき」を活かせ!』2020年10月15日放送)。そしていま避難所のほかにも混雑情報サービスの導入が急増している場所があります。
「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」!!今日1月26日(火)は、『トイレは意外な密エリア 混雑情報サービスの導入が急増』というテーマで取材しました。
★トイレの安全・安心に導入急増
ここにきて混雑情報サービスの導入が急増している場所というのはオフィスビルなどの「トイレ」。どうしてなのか? 混雑情報配信サービスを展開している株式会社バカン(本社・東京都千代田区)の代表取締役・河野剛進(かわの・たかのぶ)さんにその背景をお聞きしました。
- 河野剛進さん
- いまトイレ環境はどうしても衛生リスクが高くなりがちだと思うんです。飛沫が散ったりというのもありますし、そこで行列を作ってしまったり、中でぎゅうぎゅうになるようなケースが起こってくると、どうしてもリスクが高まります。それなら清掃の回数を増やそうというときに、このサービスを使うことでトイレの利用頻度やどのフロアがよく使われているのかが分かったり、利用者を回遊させることによって一か所にかたまるのを減らそうということで、いまトイレに関しても多数問い合わせをいただいている状況になってます。
オフィスビルなどのトイレは意外な密エリアなんですね。どこのトイレが空いているか、あるいは混んでいるのかをスマートフォンやサイネージ(電子看板)で一目でわかるように知らせるサービスは、とても便利だということでコロナ以前から商業施設に導入が広がっていました。それがいまこのコロナ禍の中で、利便性以上に「安全・安心」を求めて導入するオフィスビルや企業が増えているんですね。
★個室に30分こもる人も珍しくない
河野さんは、混雑情報を伝えて利用者を分散させるだけではトイレの「密」は避けきれないと言います。どうしても密になりやすい原因、それは個室にありました。
- 河野剛進さん
- トイレのサービスに関しては、行く前にどこが空いているかがわかることに加えて、トイレの中の人の滞在時間を抑制していく機能もあります。個室の長時間滞在を防止することによって、ある程度リスクが高い場所にあまり長くいなくてもすむような仕組みにしたり、そもそも行列ができづらいような行動をとったり迂回させたりということができるようになる。そこに関する関心も非常にいま高まってるように感じています。
いまのトイレはとても快適な空間になって滞在しやすくなっているので、個室でスマホを取り出してSNSやメールを見ているうちにいつの間にか長居してしまうケースが少なくないようです。河野さんたちがあるオフィスビルで調査したところ、個室の平均利用時間は男性で6分ほどでしたが、30分以上利用する人も珍しくないそうです。みなさんのオフィスにもいつ見ても使われている個室はありませんか? そうなると利用者を分散させても順番待ちの人はなくせずに密になってしまいますし、長時間個室にこもっていることも衛生リスクが高まりますね。
★個室内にも混雑情報を通知したら・・・
ではどうすれば個室の長時間滞在を減らせるか。ひとつ考えられるのは、一定時間が経過するごとにアラームなどで知らせる方法。実はあるところがそのような実験をしたところ、初めの1ヵ月は効果があったものの、それ以降は効果が薄れてしまいました。利用するみなさんが次第にアラーム音を気に留めなくなってしまうのです(目覚まし時計と同じですね)。そこで河野さんは、混雑情報をうまく利用して個室の長時間滞在を解消する手を考えたんです。
- 河野剛進さん
- 個室でスマホを見ているうちに滞在時間が15分、30分と結構長くなっているケースがあるんですけど、実は個室の中にいるとそれがよくわからなくなってしまうんです。そこで個室の中にタブレットを入れて滞在時間を教えてあげる。それとあわせて、同じエリアの個室数がどれぐらい空いているのか、それとも全部埋まっているのかという情報も同時に配信されるんです。それを見ると「周囲が混んでいるならそろそろ出てあげよう」という優しい気持ちになるんです。まあノックされるよりは自分から出てあげたほうがいいことをしたぞという気持ちになると思うので、そういう気持ちを利用して回転率を上げつつ、それが長時間利用の抑制にもつながって、その結果リスクを全体的に下げていくことにつながります。
混雑情報というものはトイレの外にいる人に知らせるものですが、これをトイレの中にいる人にも見えるようにしたんです。個室内の壁に設置されたタブレットの画面にはトイレの混み具合の情報と、その人が個室に入ってからの滞在時間が表示されます。「トイレの待ち状況 混雑」「個室滞在時間15分」と表示されているのを見たら「ほかの人を待たせちゃいけない」と思いますよね。
河野さんたちの実証実験では、あるオフィスビルに混雑情報表示用のタブレットをトイレに設置したところ、30分以上個室が利用される回数がマイナス64%と半分以上減少したそうです(1エリアあたりの1日平均で、2.5回から0.9回の減少)。また、20分以上の利用はマイナス43%、15分以上もマイナス29%と、長時間滞在を抑える効果がはっきり見られたのです。
人間はひとに言われていつも素直にその通りにするとは限りません。むしろ理屈でいくら説明しても人の行動はなかなか変えられないものです。そうであるなら、人が自然と行動を変えるような「仕掛け」をつくることが大事なのです。「ソーシャルディスタンスを保ちましょう」という貼り紙をしなくても、床に一定間隔をあけて目印となるテープを貼っておくと自然とそこに人が並ぶ・・・それと同じような仕掛けとして、混雑情報を利用したんですね。