先週、宇宙飛行士の野口聡一さんが国際宇宙ステーションに到着しました。民間企業が開発して宇宙へ行った宇宙船は、今回が初めて、ですが、別の初めてもあるんです。実は今回、初めてアジの干物が宇宙へ行くことになったのです。そこで・・・。
「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」!!今日11月23日(祝・月)は、『アジの干物、宇宙に行く!』というテーマで取材をしました。
★スペースまるとっとアジ 燻製しお味
初めて宇宙へ行く干物、それが「スペースまるとっとアジ 燻製しお味」という商品。
開発した、株式会社キシモト・取締役専務の岸本賢治さんにお話を伺いました。
- 岸本賢治さん
- 「骨まで食べられる干物「まるとっと」というものの進化形で、宇宙へ持っていけるものですね。これは難しいなんていうもんじゃなかったですね。宇宙基準に合ってないと採用してもらえないもんですから、最低1・5年以上は保存期間がないといかん!というところでものすごい苦労しました。結果的には、2・5年保存期間があるようにできました。えっへへ、これはね、あんまり詳しくは言えないんですけども、まず水分を非常に控えたりとか、高温高圧殺菌装置というものを使いまして・・・ミイラじゃないですよ~。あの~水分飛ばして、ほとんど食感が変わらないように作りました。5年もかかったんですから、なんとか、いいものでないと、かけた意味がないので。」
元々、キシモトでは、骨まで食べられる『まるとっと』という商品がありましたが、これを宇宙バージョンに変えたもの。宇宙では地球上よりも10倍はカルシウムが必要だと聞き、『まるとっと』なら骨を食べない普通の干物の数十倍カルシウムが摂取できるので最適だ、ということでバージョンアップすることにしました。
しかし、宇宙食には、JAXAが定める基準が細かく設定されており、それらすべてをクリアしなければ採用はされない。岸本さんが特に苦労したのが、保存期間の規定。常温で最低1.5年!普通、干物は2~3日しか持たないもの。そこで保存期間を延ばすため、岸本さんは、できうる限り水分を飛ばした。干物の水分をそんなに飛ばしたら、ミイラになってしまうのでは?と思いましたが、とんでもない!地上版とほとんど変わらない食感に仕上がりました。
野口さんよりも先に味見ですよ。(美味しいし、ほんとに骨を感じないんです!燻製の感じがワインなどにも合いそうでした。)クルーのみなさんの評判はどうか?岸本さんも楽しみにしています。(外国の方にも食べやすいように、燻製味で塩分控えめにしました。)
★寝るのが惜しい!開発に没頭の5年間!
5年という歳月をかけてやっと完成した宇宙食のアジの干物、スペースまるとっとアジ。難しくて大変だったのですが、岸本さんにとっては夢のような日々だったそうです。
- 岸本賢治さん
- 「ちょっと宇宙に興味を持ったのは、15歳の時にありましたけれども、頭の中で忘れてなかったんだろうと思うんですね。宇宙が近寄ってきてくれたんですよ。もう夢を見続けているような感じです。まあね、もうほんとに、夜寝るのが時間がもったいないんですよ。二時間くらいしか寝てないんじゃないかと思いますね。朝、うとっとするだけです。あとはずっと、失敗した反省を夜考えて、朝起きたらすぐに検体作りに入って、それから即実験。これを毎日毎日、一年のうちに、二百数十日繰り返してるというのがデータとしてあるので、間違いないですね。それを5年続けました。ですからね、これが出来上がったときには、もうひとしおですよね。ほんとにね、やったぁ~!っていうものの実感ですね。」
寝る間を惜しんで開発した岸本さんでしたが、一年目に痛恨のミス!保存期間、というのは「常温で1.5年」という規定。早速取り掛かり、一年経って経過報告をJAXAにしたところ、「悪いけど岸本さん、これじゃ認められないです」「なんでですか?」「温度が違います」そうなんです!!常温とは、宇宙船内の常温。しかし岸本さんは地球の常温、25度で、せっせと実験をしてしまったのです。
- ●「ホントにもうガックリしてね。もっと早く言ってよね~っていうのもあったですけども、聞かなかったのが悪いんですし、勇み足と言いますか、1.5年の保存期間の実験には、当然1.5年がかかるわけで、いち早くスタートしたのがイカンかったです」
と岸本さん。しかし、めげずに難題を次々にクリアして出来上がった、その喜び!分かりますよね!
★15歳の少年が運んできた宇宙食開発!
15歳の時の宇宙への夢が近づいてきてくれた、と話す岸本さんですが、実は、宇宙食開発のきっかけを運んできたのは、15歳の少年だったんです。
- 岸本賢治さん
- 「骨まで食べられる干物に非常に興味があるので取材させてくれないか、という高校一年生、やっぱりその子も15歳だったですけれども、訪ねてきまして、岸本さんの夢を言って下さいっていうくだりがありまして、「いるのかいないのかわからんけども、夢だよ、宇宙人と地球人が『まるとっと』を食べるっていうシーンが見れたらな~」っていうのを夢としてお話ししたんですが、その高校1年の子が、「こんなことを言いよるおっちゃんがおるんやけど、ええんじゃろか?」とJAXAさんに電話をかけたところ、宇宙食担当の方に繋がって、その干物屋のおっちゃんに会いたいという風なことになって、宇宙食が始まったんです。」
偶然取材に来た高校生に、偶然話した夢の話が、偶然JAXAの人に伝わって、宇宙食担当者が、偶然近々愛媛に行くから、会いませんか?となったそう。まさに、宇宙が近づいてきてくれた、と言う感じですよね。
ちなみに、岸本さんの頭の中には、次なる日本食の宇宙食のアイデアがあり、すでに動き始めているそうです。詳しくはまだ秘密、と言われました。御年80歳の岸本さん、また寝ないで実験の日々かもしれません!すごい!!
宇宙基準をクリアした岸本さんたちは地球の商品にもこの技術を使い、今後は、防災食など、保存期間の長さを活かした商品も取り組んでいくそうです。色々、楽しみですね!