新型コロナウイルス感染をどう防ぐのか、今、様々な技術の開発が進んでいますが、きょうは、、先月発表された、新型コロナウイルスを除去できる新しい技術について、11月3日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。
まずは、この技術を開発したベンチャー企業「カルテック」の染井潤一社長に伺いました。
★「光触媒」でコロナを除菌
- カルテック株式会社・代表取締役社長 染井潤一さん
- 「今回、発表させて頂いた、コロナウイルスの除菌ですけれど、空気中にエアロゾルという、飛沫感染した状態で、光触媒を使った空気清浄機、壁掛けの「W01」っていう商品を実際に動かして、空間からどれだけコロナウイルスが減ったかという試験をしました。結果的には非常に短時間で、検出限界を超えるという所まで除菌できたということは、非常に早い時間で、空間のコロナウイルスが除去できたと思います。光触媒フィルターにウイルスが付いたらどうなるかというと、瞬時に光のエネルギーで、光触媒の表面に化学反応が起こりますので、実はウイルスも瞬時に分解してしまうので、空間のコロナウイルスの除去に非常に効果があった。」
「光触媒」というのは、酸化チタンなどの触媒に、光を当てて、化学反応を起こすことで、表面に接しているウイルスや細菌、においや汚れの元になる有機物を分解する技術です。製品では、空気清浄機の中に光触媒を入れて、機械の中で光を当てることで除菌します。
今回は、およそ一辺が50センチ程度の小さな閉じられた空間にコロナウイルスを漂わせた所、光触媒を20分稼働する事で、検出限界以下まで除菌することができました。一般の部屋とは条件が違いますが、光触媒の清浄機のコロナを除菌する力が高いことは実証できたという事でした。
カルテックがユニークなのは、光触媒の技術力だけでなく、それを変わった形で製品化している点です。空気が壁沿いに循環することから、壁掛け型の清浄機を作ったり、また食事中にマスクを外した時などに使うように、首掛け型の小型清浄機も作ったり、光触媒の技術を身近にするよう、取り組んでいます。
★大手を飛び出しベンチャーを創業
そして実はこの会社、大手メーカー「シャープ」を辞めた人たちが作ったベンチャーなんです。
シャープといえばイオンを使った「プラズマクラスター」が空気清浄機の看板なので、染井さんが光触媒を訴えても採用してもらえず、それならば、とシャープを飛び出し創業。
そして念願かなって光触媒の清浄機を製品化したのですが、実は、その数ヶ月前に、シャープが突然、光触媒の空気清浄機を発表!その時の心境、伺いました。
- カルテック株式会社・代表取締役社長 染井潤一さん
- 「本当に驚きました。「先に出されたな」という危機感のようなものがあったんですけど、「光触媒という単語が大手から出たというのは、我々も今後出しやすいな」という前向きな気持ちで、その発売を見ておりました。光触媒って皆さんご存知ないじゃないですか、単語自身が。プラズマクラスターとかナノイーとかというのは、大手さんが上手く名前を付けられて広がっていった経過がありますので、光触媒という単語も大手がやることで、普及していくという意味ではありがたい。ベンチャーなので、できっこない話なので、それは必要な方法だと思います。」
もちろん悔しかったので、分解して検査したそうですが、中身は「光触媒以外の力も必要なもの」で「私たちの製品は、純粋な光触媒だから別物」と、そこは胸を張っていました。
ただ、話にあったように、先を越されて悔しいけれど、大手が採用してくれるメリットも大きいようです。
というのも、ベンチャーが「光触媒」と叫んでもなかなか届かないし、資金も少なく宣伝もできない。反面、大手によって浸透すると商売しやすくなる、というのは本当のようです。また、あれもこれも開発できないので、今後は大手のエアコンや冷蔵庫などの中に、自社の光触媒を売り込むことも狙っているので、大手が光触媒を認めてくれたのは(強がりでなく)良かったと話していました。
また、実は染井さんのように、大手メーカーを辞めてベンチャーで活躍する方が増えています。
- 元ソニーの方による、ロボット技術を応用した義足を開発するベンチャー「バイオニックM」
- 元三洋電機の方によるベンチャーで水洗いクリーナー「スイトル」が人気の「シリウス」
- さらには、パナソニックを辞めてベンチャーを作ったら、パナソニックがその開発力を絶賛して、子会社にしたケースなどなど・・・
★有用な技術が埋もれてしまう
こうして見ると、日本の技術者にのものづくりが活性化している形ですが、これは明るい話題なのか。最後に、番組でもおなじみ、渋谷和宏さんが、技術者の現状を取材しているというので伺いました。
- ジャーナリスト 渋谷和宏さん
- 「大企業が、その人たちを活かす事ができないって話ですよね。外に出していけば、製品化すれば、成功するような技術とかアイデアとかは、沢山あるんだろうと思います、日本の大企業に。大企業はお金もあるし、広告宣伝だって思い切って出来るわけですよね。そこに踏み込むべきだということを浮き彫りにしたのだと思います。加えて辞めた人たちが何処に行くかというと、韓国のサムスンなどは「日本研究所」というのが横浜にあるんですけど、スカウトの情報収集拠点になっている。接触して「うちに来ませんか」ということをやったりしている。結局、韓国企業や中国企業の競争力を上げてしまうという事があります。」
ベンチャーなどが開業する開業率は、日本はアメリカのおよそ2分の1、フランスのおよそ3分の1だそうで、開業しても開発資金、さらにブランドを定着させる宣伝資金は厳しい。そのはざまで海外企業に流出する才能も多い。行き場を失い派遣技術者となるケースもある。
ベンチャーが輝くのは素晴らしいけれど、その背景にある、大手が才能を活かせない問題も深刻だということでした。