今年は全国的に“ある虫”が大発生して、農作物に被害が出るなど、農林水産省が注意報を発令しています。何が起きているのか?9月17日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。
一体、何が起きているのか、アース製薬株式会社の経営戦略部・油野秀敏さんに聞きました。
★「カメムシ注意報」発令中!
- アース製薬株式会社・経営戦略部 油野秀敏さん
- 「今年は虫ケア用品の売り上げが好調で、市場全体で120%と前年に対して大きく伸びている。その中で局所的に増え方が多かったのが、カメムシ用のカメムシコロリという商品。この売り上げが例年の150%で、市場全体よりも更に大きく伸びている。6月以降、発生が広がってきた時期から売り上げが伸びている。大量発生は様々な要因があるが、一つは去年の冬が暖冬だったので、越冬して初夏に卵を産む成虫数が非常に多かった。洗濯物を干しているとカメムシが集まってきて、洗濯物にカメムシがついて匂いが付いて困ったり、家の暖かいところを求めて家の中にカメムシが入ってきたりする。」
「カメムシコロリ」は、かけて素早く退治。スプレーをかけた瞬間にカメムシの動きを止めて、嫌な匂いを出す前に撃退できるこの殺虫剤が、売れているそうなんです。
農林水産省が出しているカメムシ大発生の注意報は、北は岩手県から南は沖縄県と、現在までに27府県が発令。対して、去年は1年間で10の都府県が、一昨年は18の県が発令していることを考えると、この時点で27というのは、やはりは特に多い数字となっています。
そして暖冬の他にも、餌となるスギやヒノキの果実が多かったことも、大量発生の一因と考えられているそうですが、そもそも、今年は虫全般が住みやすい環境で、気温も高すぎず低すぎず、梅雨の時期に雨がしっかり降って、梅雨明けしてからもしっかり晴れたことで、生育に適した環境になってしまっているようです。
★カメムシで全滅の梨園も!柿は?
さらに、カメムシこんなところでも悪さをしています。岐阜県で柿農園を営む、「さのっち農園」の佐野伸弥さんのお話。
- 「さのっち農園」佐野伸弥さん(岐阜県本巣郡)
- 「僕が見たのは5月下旬頃。柿のヘタの上にくっついて水分を吸ってる。カメムシの気持ちになったことないので分からないけど、ここに美味しいものがあるよって「集合フェロモン」を出して呼んじゃうので、呼ぶ前に防除するのが一番。だから一匹でも入るとたくさん来る。僕が指導している園地でも、山手の方だと一個の果実に10、20個も刺されている果実もあったし、酷いところはほぼ全滅。マジかって感じ。カメムシに刺されると規格が落ちる。1個300〜500円になるような柿が、10〜20円になるのはちょっと勘弁してほしい。」
カメムシの中でも「果樹カメムシ類」に分類されるカメムシは、柿のほか、りんご、桃、ブドウ、梨なども大好物で、実際、同じ岐阜県の梨農園では、例年の2割の出荷量に落ち込んでしまった所もあるそうです。
佐野さんによると、カメムシは長い針のような口を果物に突き刺して水分を吸い取るので、果肉の中身がスカスカに。スポンジ状に変形して、表面にへこみができて、結果、果物の等級が下がる、最悪の場合は廃棄というケースも…。
「水が飲みたいなら水道で飲んで!」と嘆いていましたが、実は岐阜県では去年もカメムシの被害が大きかったようで、佐野さんもやられたそうです。それを教訓に、今年は薬剤の種類や散布の方法、タイミングなどを綿密に計画し、なるべく少ない回数で効率よく農薬散布できるよう工夫。
★温暖化で変わるかつての定説が使えない!
さらに、被害を最小限に食い止めようと、全国の柿農家との情報交換も行っていて、カメムシに振り回されたこの数ヶ月をこんなふうに振り返っていました。
- 「さのっち農園」佐野伸弥さん(岐阜県本巣郡)
- 「通帳のお金をかき集めて買わなきゃいけないぐらい薬剤買ってるので、薬剤代がバカにならない。これだけカメムシに振り回されるのも困った。最近の農業界では、今までの定説はきかないと言われてきている。去年も、定説通り行くと、10月になると動かなくなるから大丈夫だよって話をしてたが、去年暖かかったのでカメムシの量はすごかった。収穫は11月から始まって来るが、油断できない状況が続いてますね。カメムシに刺されて出荷できる柿がない農家も多いと思うので、それが大多数締めると希少価値がついて単価が上がるかもしれないが、これ以上広がらなければいい。」
佐野さんは、他の農園の駆除も担当していて、1回の散布でかかる費用は、10〜20万円。例年はトータルで70万円程かかっていた薬剤費が、今年はぜんぶで120万円と、カメムシのために50万円余計に経費がかかっています。
気候変動の影響もあって、定説が定説でなくなっている…。岐阜の柿農家は高齢化で少なくなっているそうなので、収穫までの期間、今後もカメムシ対策を徹底したいということでした。