「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」。各地で大雨の被害が大きく心配ですが、今日7月13日月曜日の東京新聞との紙面連動企画は、その大雨による被害に関する話題。7日の「こちら特報部」に掲載された「繰り返される大雨被害 “災害弱者”施設、なぜ危険地域に」という記事に注目しました。
★介護保険のスタートと老人福祉施設の増設
熊本県南部の水害で、特別養護老人ホーム「千寿園」が浸水して、14人のお年寄りが亡くなりました。
実は、福祉施設の浸水被害は、最近の豪雨の度に繰り返されています。
2009年、山口県の特別養護老人ホームが土砂に襲われ7人が死亡、2010年には、鹿児島県のグループホームで犠牲者が出て、2016年には、岩手県岩泉町で川が氾濫し、グループホーム「らんらん」の入所者9人全員が亡くなっています。さらに、去年秋の台風19号でも、老人施設や障がい者施設が浸水して被害が出ています。
なぜ、災害弱者の被害が繰り返されてしまうのか。取材をした、東京新聞・特報部の大野孝志記者にお話を伺いました。
- 大野孝志記者
- 「防災システム研究所の山村所長がおっしゃっていたことなのですが、介護保険が始まったのが2000年です。その2000年前後に開設された施設が最近よく水害被害に遭っていると。国が介護保険が始まるということで、老人福祉施設を増設を促した。市町村もこぞって誘致をしていて、短期間で開設するにはどうしたらいいかということで、川に近い場所であるとか、街の中心から遠い山間部などを金銭的に良い条件であっせんした。そうやってつくったもんですから、結局浸水しやすいところへの立地に繋がった、という理屈です。」
被害に遭いそうな川べりの施設が多いと思ったら、そういう背景があったのですね。
2000年の介護保険スタート時に、老人福祉施設を増やす際、金銭的には良い条件とされながら、災害的には非常に危険な場所をあっせん、その被害が近年続いている、という現実を聞いて、驚きました。(調べてみると、今回の千寿園が設立されたのも2000年でした・・・)
障がい者施設などでは、「地価が下がる」など住民の反対を受けて、建設地の変更を重ねた結果、川に近くて、住民の少ない場所に開設した、という所もあるそうです。
★レッドゾーンに病院や社会福祉施設は造れなくなります、2年後に
国の方針で建てられた施設が直面している危険・・・国はどのような対策をとっているのでしょうか?
岩手県岩泉町の被害の翌年2017年に改正水防法が施行され、浸水想定区域の施設等に、避難計画の作成や訓練が義務付けられました。
準備や訓練はもちろん大切ですが、そもそも施設が危険な場所にあることが問題の根本です。それに対しての国の対応はどうなっているのか、大野さんに聞きました。
- 大野孝志記者
- 「6月、このあいだの国会で『改正都市計画法』が成立しまして、崖崩れや地滑りなどの危険が高い、いわゆる『レッドゾーン』では、原則、病院や社会福祉施設などを作ることを認めなくなります。浸水想定区域の中でも、危険度が高いところは、レッドゾーンと同じ扱いになると。ようやく腰を上げた、というところなんですけども、この法律、最大2年程度の周知期間、まだ2年かかります。規制はまだかかっていませんし、すでに危険な地域にある施設、今回の千寿園もそうなんですけども、費用の一部を国庫から補助して移転を促すと。でも、その補助も、なかなかいろいろ細かい条件がありまして、危険な場所にある施設が無くなるのは、ちょっとまだ、かなり先になるんじゃないか、ということです。」
ようやく、国は腰を上げました。
やはり危険な場所にあるのが問題だということで、改正都市計画法で、今後は作らない、今あるものは移転を促す、となったのですが、最大二年の周知期間を経てからの施行。
いま降り続く雨を見ていると、二年は長いですね。
★自力で歩けないお年寄りの非難を前提にした対策って・・・
最後に、これら一連の取材を受けて、大野さんは、こう問題点を指摘しました。
- 大野孝志記者
- 「都市計画法の改正以前の『訓練しなさい』とか『計画を定めなさい』とか、分かるんですけども、そもそもお年寄りって自力で歩けない人も多いので、自力で歩けないお年寄りの避難を前提にした対策って無理でしょう。夜、少ない人数で寝たきりの車椅子の方を、2階に階段を使って上げるなんて無理だと。だったらどうしたらいいのかといったら、移転することが難しいのであれば、国なり行政なりが助成して、高床式に改築するとか、避難しなくてもいい対策っていうのが急がれるんじゃないかな、って思いましたね。これだけ毎年のように台風とか大雨がありますので、なんとか急いでいただきたいと思います。」
大野さんのお父様も自力で歩けなかったからよく分かる、と。
今回の千寿園も避難計画を作り訓練もしていたが、間に合わなかったのです。
一方、都市計画法が2年かかるなら、今できる対策をということでした。国が慌てて進めた結果の災害という面も強い。周知期間の二年は、法律で義務化するか、という問題。移転先を率先して探す、移転できないなら、水害に合わないよう、タワー型に嵩上げするなど、国が行政に指示して、責任を持って対応してほしいです。
法律の施行を、天候は待ってくれませんからね。
「現場にアタック×東京新聞」
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近堂かおりが「現場にアタック」で取材リポートしました。