先月、日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会の3団体が、新型コロナの影響で全国の「3分の2」の病院が赤字に転落しているという衝撃の調査結果を発表しました。そこできょうは、病院の経営悪化の実態について、7月9日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。
病院の中には、医師を一方的に解雇したり、ボーナスゼロで看護師が大量に離職するケースも出てきているようです。今、病院で何が起きているのか。練馬区にある東京保険生活協同組合「大泉生協病院」の院長・齋藤文洋さんに、まずは患者数がどう推移しているのか伺いました。
★「受診控え」で病院経営が危機
- 「大泉生協病院」院長・齋藤文洋さん
- 「一番減ったのは4月、緊急事態宣言が出てピークになった頃。去年の4月の外来の患者は4949人、今年の4月は3523人。大体7割5分くらいで相当数が減ってる。厳しい。小さい病院やクリニックは外来の収益が結構大きいので、8割を割るとやってないに近い。予約の人は高齢者が多く、コロナが怖いので、電話で再診してFAXで処方箋を発行したりする。あと普段だとちょっと心配だから来る人、ちょっと血圧高いから来る人たちも、恐怖が先だって受診を控える。一番危ない病院には当然行かない・近づかない、皆さんの素直な行動。診療報酬の基本的な仕組みは薄利多売。患者一人当たりの収益が少ないが、数を見ることで収入を得て経営しているので、当然、数が減ればガクンと収入が減る。」
![森本毅郎スタンバイ!](http://static.tbsradio.jp/wp-content/uploads/2020/07/1d56085bc9c7a4dc94e04b0687d7a1dc-600x249.png)
練馬区で94床を有する一般病院「大泉生協病院」
4月の患者数は、昨年比「3割減」。5月は「2〜3割の減少」、6月に入ってからも回復せず、一時期はすっかり暇だったということです。その理由としては勿論、人々の恐怖心もあるんですが、ほかにも、様々な理由が病院の経営を圧迫していることがわかりました。
一つは、3・4月にあるはずだった健康診断の全面中止です。春は企業の健康診断の時期だが、今年はナシ。こちらの病院ではタクシードライバーの100名単位の健診が予定されていたそうですが、その全てが中止。健康診断は多い時期だと収益の1割近くを占めるそうなので、検診ゼロは、かなりの痛手だそうです。
★発熱外来は収入少なく支出が大きい
ただ、この大泉生協病院の場合は、「発熱外来」を新たに今年3月から設置しています。コロナが疑わしい人も受診できる発熱外来は、どの程度 診療報酬の助けになっているのか、聞いてみました。
- 「大泉生協病院」院長・齋藤文洋さん
- 「診療報酬の助けには、それほどなってない。なぜなら発熱外来は手間暇がかかる。特に高齢者だと本当にコロナの可能性がないか、血液検査やCTをする必要がある。普通だと検査の翌日に結果を伝えたりするが、今回はその日に全ての結論を出す、PCRをやるか判断しなければいけない。採血、CT、問診、診察。一人に20〜30分、場合によっては1時間かかるので、数を診なければ収益が上がらない診療報酬の中で、数を少なくしっかり診なきゃいけないので、診療報酬の点数は少ない。効率度外視。ここまで悪くなるとは思わず始めたので、やってみて、やばい!一歩間違えると病院潰れるじゃないかと、いわゆる「ビビりました」ってヤツですね。」
発熱外来は診察も大変、そしてスタッフの人数的にも大変。というのも発熱外来は、点滴の処置などで看護スタッフを多めに配置しておかなければならず、普通の外来だと、医者1人+看護師1人で30人位の患者を診ますが、発熱外来は医者2人+看護師3人=計5人で、じっくり15人を診ます。そこに防護服などの感染予防の経費も乗って来るので、一般的に大変と言われている小児科と比べても極端に手が掛かるそうです。
大泉生協病院に限っては、地域の組合員と医療従事者が協力して運営する「生協」の病院なので、何とか乗り切っているそうですが、私立の病院は頼る先がないので、結果的に、医者のリストラに踏み切らざるを得ないところもあるようです…。
★入院手当ても的外れ。もっと現場を見て欲しい!
ちなみに、“コロナ疑い”の患者を「発熱外来」で診た場合、一人300点(3000円)が、「トリアージ加算」という名目で上乗せされます。この制度が国によって臨時的に設けられたそうですが、人件費を考えると全然足りない!と齋藤さんは憤っていました。
ただ、こちらの病院ではコロナの入院患者も受けています。入院患者については、安倍総理が「診療報酬を倍にする」と言っていたので、その分はどうなっているのか?齋藤さんに伺いました。
- 「大泉生協病院」院長・齋藤文洋さん
- 「入院自体は重症者の人の診療報酬を3倍にした。凄いと思うじゃないですか。でも、東京都で重傷者のピークは110人くらい。いま感染者数は6000人を超えていて、その内の8割は軽症。その方の診療報酬は上がっていないので、診療報酬が上がった恩恵は、ほとんどの病院が得ていない。安倍さんは現場がどういう風に動き、どういう風に患者を診ているのか、あまり理解されていない。色んなことを政府や東京が言ってるが、アベノマスクも含めタイムリーじゃない。病院の中には第二波の時にはコロナ診ない所もある。収益は落ちる、具体的な対策はない、潰れるだけだからもう診ないと。コロナの診療をきっちりやるための下支えをして欲しい、それが行政の役割だと思う。」
政府は、「重症」と「中等症」の患者に対して診療報酬を3倍に引き上げましたが、ほとんどの患者が軽症なので、いくら引き上げても意味を為しません(都内の重傷者は今は8人と小池都知事が言っていた)。
ですので早急に、小・中規模、大規模の病院など様々な角度から、政府は実態を把握し、適切な支援を打って欲しいと仰っていました。
現在、新型コロナウイルスの感染者が増えて来ていますが、政府は「医療はひっ迫していない」の一点張り。しかし現場からは苦しい声が出ています。第二波への備えという観点からも対策が必要そうです。
![田中ひとみ](http://static.tbsradio.jp/wp-content/uploads/2016/09/sump_tanakahitomi-400x400.jpg)
田中ひとみが「現場にアタック」でリポートしました!