新型コロナウイルスで、医療体制の強化が課題となっていますが、その医療を支える看護師の育成が、新型コロナの影響でうまくいっていないようなんです。6月18日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。
現場では何が起きているのか?聖路加国際大学の看護学研究科、ウィメンズヘルス助産学・教授の、五十嵐ゆかりさんに伺いました。
★コロナの影響で実習できない
- 聖路加国際大学・看護学研究科 五十嵐ゆかりさん
- 「新型コロナの感染予防の観点から、病院での臨床実習は中止になっている。通常ならカリキュラム上は5月から実習が始まりますが、4月の時点で、9月までの実習の中止を決めました。学部生の実習は多くの人数で実習するので、病院では、その時期は治療に専念していただく必要があったので、私たちもその環境を整えるための協力が必要であると思いました。また、学部生を守ること、それから患者さんやスタッフを守るという観点から、実習の中止が必要であると言う決定をしました。」
看護師を目指す学生は、卒業までに「23単位」分の実習を済ませておかなければ、看護師になるための国家試験を受けることができません。23単位というと、在学期間4年間のうち、のべ半年間は病院に出ていることになるそうなので、結構長い期間を費やします。
ですが、聖路加国際大学では、9月末までの実習を全面ストップ。提携している聖路加国際病院での実習を取りやめる方針です。この状況は他の大学も同様で、受け入れ先の病院から「実習を中止して欲しい」と断られるケースも少なくないようです。
★具体性に欠ける国の指針。ほぼ大学任せ?
そしてこの流れを受けて、国から、実習に関する「ある指針」が出されたんですが、この内容が、教育機関に混乱を招いているようなんです。何が起きているのか、日本看護協会・常任理事、岡島さおりさんにお聞きしました。
- 日本看護協会・常任理事 岡島さおりさん
- 「厚生労働省と文部科学省から、2月28日に事務連絡が発出されています。ここでは、「実習が中止、または実施できない場合は、学内の演習で置き換えても構わない」というような趣旨の事が書かれています。ただ、具体的な内容が示されていないので「どこまで何をどうすればいいのか」ということがわかりにくい内容だったので、私どもから厚生労働省に、範囲や具体例を示して欲しいという要望書を提出した。その対応策は次の通知として出ていないんですが、厚生労働省の方で考えて頂いてるのではないかと期待しているところです。」
国は今回、特例として、学内での「代替実習」を認める通知を、2月と6月に出しています。具体的には、「学生が施設で実習できない場合、学内で代わりとなる授業を受ければ、現場に出なくても、国家試験の受験資格として認める」という内容です。
この「代わりとなる授業」として、厚労省は、オンライン授業や、模擬患者で演習するといった事例を示していますが、具体的にどんなことをやるのかは、事実上、各大学に「お任せ」状態。
例えば、先ほどの聖路加国際大学は、急遽、先生自ら動画を作って、触診の仕方を動画で説明したり、高性能の人形を使って心肺の計測をしたりするそうですが、大学によってばらつきがあるようです。
しかも、緊急事態宣言の解除後、地域によっては条件付きで実習が解禁されたところも出始めているそうです。そうなると、「この地域の看護師は、実習が10回できたけど、この地域の看護師は1回しかできなかった」と言うように、地域差が出てくる可能性もあります。
★病院の経営悪化で医療教育の危機に拍車
この事態を受けて、全国の看護系大学が加盟する団体、一般社団法人・日本看護系大学協議会の副代表の井上智子さんは、こんな警鐘を鳴らしています。
- 一般社団法人 日本看護系大学協議会・副代表 井上智子さん
- 「やるはずだった4年生の実習は、既に6月、7月共にない。今、実は就職試験も平行して受けているが、最後の集大成ができなくなってしまうとことが、本当に学生には気の毒だし申し訳ない。それをどう代替していくか。これが2~3年、もっと長く続くと、後継者の育成に、かなり歪みやしわ寄せが起きるのではないかと心配している。ただ、教育機関の中にいる間の努力では限界があるので、卒業してからも継続的に育てる「卒後研修」とか、次元的に考えていただきたいと切に願います。」
卒業後に行う「卒後研修」は、給料をもらいながら、就職先の医療機関で研修を続ける仕組みです。医師の場合は卒後研修が必修化されていますが、看護師の場合は、各病院の努力義務、つまり現状、やってもやらなくても良いことになっているそうなんです。
今回のコロナ問題で、実習に格差が出る可能性があることから、国家資格を取得し、看護師として就職した後、格差を埋めるために「卒後研修」などでフォローして欲しい、ということでした。
また現在、受診を手控える患者が増えていて、病院の経営が逼迫。看護師の来年度の就活が厳しい状況になっているということも、状況の悪化に拍車をかけています。
「就職後の研修」と、「雇用の安定化」、この2本の柱に予算と人手を割いて欲しいと、井上さんは強く訴えていました。