お買い物で気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、この数ヶ月、全国的にタマネギの値段が上がっています。何がおきているか?「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)の「現場にアタック」でレポーター阿部真澄が『タマネギの価格高騰の原因』を取材しました!
★淡路島産のタマネギの価格が2倍に高騰!?
まずは何がおきているか?タマネギの三大産地の一つ、兵庫県の淡路島農協協同組合の村中辰也さんに伺いました。
- 村中辰也さん
- 「佐賀県産の流通量が減って、全国的に流通している淡路島産のたまねぎの価格が急激に上がりました。淡路島たまねぎのLサイズ=直径9.5センチ前後が10キロあたり1,000円だったものが、今は、2,000円を超えて、約2倍に上がっています。スーパーで値段を見ていても1.5倍になっていると思います。もちろん高値で取引して頂けるのはありがたいのですが、消費者の方が、手の取りやすい単価で流通しているのかどうか、心配です。」
淡路島産のタマネギは、北海道、佐賀に次いで全国3位の生産量です。5月上旬から市場に出回り始めたのですが、農林水産省の調査によりますと、その頃の価格は「1キロ=71円」。それが7月上旬になると「193円」まで値上がりしました。これに伴って、全国のタマネギの平均価格も、5月上旬の「77円」から「159円」まで、大きく値上がりしています。
★タマネギ値上がりの理由は佐賀県で発生した「べと病」
こうしたタマネギ高騰の背景にあるのが、全国2位の佐賀県産のタマネギの流通量が減っているからだということでした。では、何故減ってしまっているのか?生産量全国2位の佐賀県農業技術防除センター 善正二郎さんに伺いました。
- 善正二郎さん
- 「数は同じなのですが、タマネギの1つあたりの大きさが、1まわりから2まわりくらい小さくなってしまったんです。重さが取れていないので、農家の手取りが少なくなるんです。お金が入らないということになるので、農家の方からも「このままではタマネギの栽培が続けられない」という声は聞いています。原因は、タマネギのべと病が葉っぱに発生したことで、それで大きくならなかったんです。実を食べても人体への影響はない。食べても大丈夫。今は、風評被害がないように情報を流して対応しています。」
この「べと病」というのは、葉っぱにカビが生えて黄色く枯れてしまう病気です。葉っぱがダメになると光合成ができなくなるので、タマネギの実自体が小さくなるというもので、実を腐らせたりするものではないのです(ちゃんと食べられるんです!)。ただ、タマネギは個数ではなく重さで売り買いされるので、出荷される個数は同じでも、大きさが小さければそれだけ安くなってしまい、収入が減ってしまいます。小さくなったタマネギは食べても人体に影響は無いのですが、「べと病」という奇妙な名前から誤解され、買い控え=風評被害に繋がるケースもあるそうです。生産者にとっては、「べと病」と「風評被害」の二重苦なのです。
★大雨の影響で「べと病」の感染が拡大中
「べと病」は実は昔からあった病気なのですが、今年は特に感染が拡大しています。べと病を長年研究されている兵庫県立農林水産技術総合センターの西口真嗣さんにお話を伺いました。
- 西口真嗣さん
- 「べと病というのは、名前がその通りでベトベトしている環境で発生するカビによる病害で、毎年ある程度の発生はあるが今年のように多発したことはこの10年ではありませんでした。この10年で一番多い発生です。気象条件、特に2月以降の雨が多かったし、12月の豪雨も影響。この2つが主な要因です。これから先は東日本、北海道だけではなくて関東でも、タマネギの大きな産地は少ないけれど、べと病が出る可能性があります。」
べと病が知られるようになったのは昭和30年代。雨が極端に多く降った年があり、その年もタマネギが小ぶりになってしまったそうです。それ以降、べと病対策として有効な、農薬を使ったり、連作を避けるなどの対策をしてきました。もちろん佐賀でも対策はしていたそうなのですが、去年から今年にかけての大雨の影響で、農薬が流されてしまったことや、雨のためうまく農薬が散布出来ず被害が拡大しているということなのです。
また、淡路島でも、実は全体の30%のタマネギが大雨によりべと病の被害にあっていたそうなのです。もし淡路島で被害が広がっていたら、もっと深刻な状態になっていた可能性もあります。
★「べと病」の対策方法研究中
今後、「べと病」の被害をおさえるために何か打つ手はあるのか?最後に兵庫県立農林水産技術総合センターの西口さんに伺いました。
- 西口真嗣さん
- 「昭和30年代、研究は実際のところ行われていなかったんです。それはべと病の培養ができないのが原因でした。ただ、社会的に問題になるほどの大発生を受けて佐賀県からも連絡があり、我々も佐賀県の情報を収集しました。我々研究者も農家から要望のある病害を中心に研究をするので、そういう意味では、これを機会に、農家の皆さんに情報を知らせるような研究が進むと考えています。」
これまでは気候などに地域差があるという理由から、各都道府県などが独自に研究をして対策を試みて来ていたそうです。ただ、べと病の被害が全国的に深刻さを増していますし、さらに実は問題なく食べられるのに、風評被害という問題も出てきているので、一刻も早くしっかりした対策方法を研究していきたいとおっしゃっていました。
(取材・レポート:阿部真澄)