いま、後継者不足の影響で中小企業の廃業が深刻化しています。経済産業省によると、2025年までの10年間で経営者が70歳を超える中小企業・小規模事業者は245万人に達し、その半数が後継者が未定と言われています。そんな中、昨年、若手後継者を支援する団体 一般社団法人「ベンチャー型事業承継」が誕生しました。跡取り息子・跡取り娘たちを支援するこの動きについて、6月3日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。
まずは新しい取り組みとは、どんなものなのか?一般社団法人「ベンチャー型事業承継」の奥村真也さんに聞きました。
★「アトツギ」で新事業を立ち上げる!
- 一般社団法人「ベンチャー型事業承継」事務局長 奥村真也さん
- 「「ベンチャー型事業承継」とは、若い後継ぎが先代から受け継いだ有形・無形の資産を活用をして、新しい事業を展開したり、業態を転換しながら新しいチャレンジをしていくことです。親族から家業を継ぐ若い人が対象。一つはオンラインサロンの運営、もう一つは、イベントの運営を行なっています。」
親の商売をそのまま引き継ぐのではなく、“ベンチャー企業”という意識で新しい事業にチャレンジしていくことを、「ベンチャー型事業承継」と定義しているそうです。「廃業企業のおよそ半分が黒字廃業」というデータもあるようですが、この状況を打破しようと開設されたのが、一般社団法人「ベンチャー型事業承継」が運営するコミュニティサイト『アトツギ』です。
『アトツギ』には34歳未満の跡取り息子・娘が入会でき、オンライン上で全国の若手アトツギと交流できます(月会費1,000円)。また、不定期で開かれるイベントでは、新規事業をアトツギたちと議論するキャンプや、先輩アトツギによるワークショップなどが行われています。
★家業について親と話をしない?
一方、後継ぎ不足の要因はこんなところにあるようです。父親が福祉用具を取り扱う会社を経営している、32歳の若手アトツギ、テクノツール株式会社・取締役の島田真太郎さんのお話です。
- テクノツール株式会社・取締役 島田真太郎さん
- 「就職活動をするときに、将来的な選択肢の一つとしてぼんやりと(会社を継ぐことを)考えていた。ただ、父とは何も話したことはなく、或る日突然入りたいと伝えたらかなり驚かれた。おそらく自分の代で終わらせようとしていたので、息子があとを継ぐことに「少し考えさせてくれ」と。後継ぎって周りに少ないので、相談できる仲間がいるのは、非常にありがたいですね。」
小規模の会社であればあるほど、親は子供に会社を継がせるのを申し訳なく思ったり、子供の方も別の会社に就職し家を離れ、じっくりと話す機会が持てないまま会社の清算をするケースが多いようです。コミュニティサイト『アトツギ』には家業を継ぐ意思がなくても入会できるので、同じ立場の人と悩みや経験をシェアするために利用している人もいるそうです。
★先代の「資産」をどう生かすか
そんな若手アトツギをサポートする先輩アトツギに、家業を継ぐことの面白さを聞きました。DIY工具のオンラインショップを運営している、株式会社大都・代表取締役の山田岳人さんです。
- 株式会社大都・代表取締役 山田岳人さん
- 「全然興味がなかったんですね、工具とか、塗料とか。起業する人って自分のやりたいビジネスで起業するけど、後継者はそれがない。自分が好きとか嫌いとかじゃなくて、今あるビジネスから始めてください、という条件が一つ。さらに、起業は自分の組織を最初から作るが、後継者はいまある組織で戦いなさい、というのがもう一つ。今ある資産をうまく活かすのが、ベンチャー型事業承継の面白いところだと思います。」
山田さんは、元々卸問屋だった事業をホームセンターへの直接販売・インターネット販売に切り替えることで、赤字続きの会社を立て直した実績があります。元々いた従業員の理解を得るのは難しかったそうですが、この決断があったからこそ、いまも会社を続けていられると話していました(山田さんはこの経験を生かし、講師として若手アトツギにアドバイスをしている)。
★後継者不足は“地域ぐるみ”で解決
最後に山田さんは、後継者を育てていくことの重要性について話してくれました。
- 株式会社大都・代表取締役 山田岳人さん
- 「日本の90数パーセントは中小企業で、それぞれに必ず「後継ぎ問題」が発生する。ここがしっかり活性化すると、日本の経済が活性化されると信じている。20〜30年でビジネスは変わっていく。会社っていうのは後継者が変えていく、それが役割だと思っている。そこをしっかりやっていかないと、会社は生き残れない。」
実際に、栃木県や奈良県などの全国の自治体や、地域と密接な繋がりのある南海電鉄(大阪府)などが、地域ぐるみで「アトツギ」への支援を進めています。後継者不足は、日本経済にとっても喫緊の課題。今後はさらに、若い後継者の育成に注目が集まりそうです。