「ストリートピアノ」知っていますか?街角に置かれた自由に弾けるピアノなんですが、今、全国で設置が広がっています。4月8日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。
4月8日(月)の午前9時半から、都庁の南展望室がリニューアルオープンします。南展望室は去年から改修中でしたが、このリニューアルに合わせて、ここにも「ストリートピアノ」が置かれるそうです。都庁で担当された元庁舎管理課長、中満正志さんに伺いました。
★都民が提供「都庁おもいでピアノ」
- 中満正志さん
- 「「都庁おもいでピアノ」は都民の方からピアノの寄付を募り、思い出の詰まったピアノを置いて、都庁に訪れる方に自由に弾いていただくもの。弾くかた、聞くかた、それから見ても楽しめるようにして、思い出作りに役立てていただく、そういう趣旨で始めました。ぜひ、弾いていただきたいと思います。」
ストリートピアノといえば、NHK・BSの「駅ピアノ」などで人気ですが、そうした番組も、企画に当たって研究したということでした。
こうした街角にピアノを置いて自由に弾いてもらう「ストリートピアノ」は、2008年にイギリスのアーティストが「Play me, I’m yours」と題して始め、今では世界中に広がっています。
都庁は「おもいでピアノ」と題し、都民から思い出のピアノの寄付を募集。8つのグランドピアノの申し出があり、思い出を聞いて回ったそうですが、「思い出には優劣はつけられない」ということで、最終的には状態の良いピアノを選んだそうです。伺ってみると、楽しい思い出より、辛い思い出も多かったそうで、今回設置されるのは「ご家族が音楽を志し、辛いレッスンに耐えた思い出のピアノ」ということ。大切な家族の思い出を都庁に移して、皆さんの思い出づくりに役立て欲しいということで寄付されたそうです。
また、世界のストリートピアノの中には、そのままのピアノを置くパターンだけではなく、ピアノに装飾して置くものもあり、都庁は装飾派。草間彌生さんの監修で、黄色を基調とした鮮やかなデザインになっていました。
★音楽で言葉を超えた交流を
でも、展望室なら、他にもいろいろな企画が考えられる中で、なぜストリートピアノだったのか?中満さんは、こんな期待をしていました。
- 中満正志さん
- 「南展望室は、外国人の観光客の方が好んで訪れる人気のスポット。そこにピアノを置くことで、外国人の方が積極的に弾いてくれるのではと思います。音楽という言語によらない交流、そいうものも深めて頂ければと思います。」
都庁南展望室の「おもいでピアノ」は、メンテナンスの関係もあり、毎日、午前10時〜12時、午後2時〜4時に演奏時間を限って、無料開放されます。
一方、こうした「ストリートピアノ」は、他の地域にも続々と広がっています。東京では、国立市のJR谷保駅前の商店街「むっさ21富士見台名店街」に1台あって、商店街が開くのを待って弾いていく人がいるほど人気だということ。また、千葉にもJR銚子駅に、地元の作曲家が提供したアップライトが1台あり、毎日20人くらい、腕に覚えのある方だけでなく、学校帰りの高校生や、ご高齢の愛好者などが弾いていくということでした。
★横浜の関内駅の地下街にも
こうしたストリートピアノの中でも人気なのが、横浜の関内駅の「マリナード地下街」にあるアップライト。馬車道と伊勢佐木を結ぶマリナード地下街なので、3つの頭文字をとって「BMIストリートピアノ」という名前がついていますが、とにかく、多くの方が弾いていくそうです。管理する横浜中央地下街株式会社の奥田正則社長に伺いました。
- 奥田正則さん
- 「当初はこんなに多くの方が弾きに来るとは思っていなかったんですが、本当に想定外の多くの方に来ていただき、嬉しく思っています。3月は1日平均60人くらい。一番多かったのが2月23日に103人。小学校に上がる前くらいの小さなお子さんから、80代の方まで様々。すごく上手だった84歳の女性に話を伺うと、その方が小さい頃、ピアノを買う状況でもなく、白い紙に鍵盤の絵を書いて、それで紙の鍵盤に指を置いて練習したそうです。」
このマリナード地下街は、目の前に横浜市の庁舎があってにぎわってきたのですが、その庁舎が移転するということで、話題になるものを探していたそうです。ちょうどその時、近くのホールが改修となり、古いピアノを引き取って始めたら、想定外の大人気。実際、取材した日も、音が途切れることがありませんでした。
★就活で我慢していたピアノも…
取材時、弾いていた方にお話を伺うと・・・
- 「ショパンのノクターンと、ベートーベンの6つの変奏曲を弾きました。幻想即興曲は途中でつまずいて諦めました。6つの変奏曲は、中学生の時、最後の発表会で弾いた曲。それからずっと、ブランクがすごく長いので。普通にOLして結婚して子育て終わって、やっと余裕ができたので、ようやく弾けます」
- 「ハチャトゥリアンのトッカータを弾きました。昔コンクールに出てた時に、自由曲として持っていた持ち曲。ずっとそれを弾き続けていて。就職活動に専念するために、今まで家で弾くことを抑えていて、去年11月からフタもあけなかったんです。きょうは近くに会社説明会があった帰りで、気になって来たんですけど、弾くつもりはなかったのに、周りの人に背中を押されて。今日弾いて、たまに弾くのもいいかなと思いました」
いろいろな事情で離れても、頭の片隅にずっとピアノがあって再開した方。また、ずっと憧れていて、最近やっと練習を始めたという初心者の方など様々。そして、家のピアノではなく、広くて聞いてくれる人がいるところが、ストリートピアノの魅力とのことで、最初の方のように何曲も弾く方もいらっしゃいました。
最後の就活中の女性は、就活中は大好きなピアノを封印していたそうですが、見学していたら、周りの方々から「弾きましょうよ」と声がかかっていました。ピアノを弾く前は硬い表情でしたが、弾いた後はパッと笑顔になって、ピアノのまわりにいた初対面の方々と談笑していました。
★ピアノをきっかけに交流が生まれる
管理する奥田さんによれば、こうした交流も、予想を超えていたそうでした。
- 奥田正則さん
- 「音楽がこんなに人の気持ちを和やかにするんだと教えられました。全く他人同士が来て、いきなり連弾が始まったり、フルートの方が見ず知らずの方とセッションしたり、皆さんすぐ仲良くなるんです。弾いている方と待っている方の間でも、「弾かれますか」と自然に会話が生まれて、また会いましたねと顔見知りになる方もいます。ピアノという一つのツールを使って、コミュニケーションが広がっているのは素晴らしいと思いました。」
実はマリナード地下街のストリートピアノには悩みもあり、維持管理、中でも調律が大変!でもその調律費についても、寄付が出たり、元調律師が手伝ったりと交流が生まれているそうです。