グローバル時代の【はだいろ】とは?
テニス全豪オープンで優勝した大坂なおみ選手の肌が白く描かれた広告が批判を浴びる、というニュースがありました。大坂選手が、いわゆる「はだいろ」で描かれていて、国際感覚がない事態となってしまいましたが、一方で、この「はだいろ」についての考え方は、教育の現場では、ずいぶん前から進化が始まっていたようです。
2月6日(水)放送「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)内の「現場にアタック」で近堂かおりキャスターが取材報告しました。
★【はだいろ】やめました!
まずは、いま「はだいろ」はどうなっているのか? ぺんてる株式会社広報課の田島宏さんのお話です。
- 田島宏さん
- 「「はだいろ」という名前はないですね。いつからかというと1999年9月の生産分から、ぺんてるの場合は切り替えています。教育の場から肌の色というのを画一的に決めるのは教育的にどうなのか、という声が上がりまして、子供達が本来持っている表現に対する自由な発想とか、そういったものを活かすために名前を変えようということになりまして、ぺんてるでは「ペールオレンジ」という名称に、絵の具、クレヨン、色鉛筆、すべて変えています。ほぼ同時期に、他社様も名称を変えていますね。」
今は、「はだいろ」と言わないんですね。昔は、肌の色だから「はだいろ」と疑問も持たずに呼んでいましたが、今は、日本国内も国際化が進んで、いろんな肌の色の方がいます。また、学校教育も、自由な想像力を伸ばす授業に変わっています。そうしたことを受けて、肌の色を1色に限定することにつながりがちな「はだいろ」という名称をやめる動きが、1999年から広がったそうです。
ぺんてるでは、他社に先駆けて【ペールオレンジ=薄いオレンジ】に変更、サクラクレパスなどは、和風に【うすだいだい】と名前を変えたそうです。
実際にスタジオにぺんてるのくれよんと、サクラクレパスのクレパスを見てみると・・・確かに「はだいろ」と書いていません!!
★ペールオレンジ?うすだいだい?
でも、どうせ変えるなら、業界で統一した方が混乱がないのに、と思ったので、そのあたり、ぺんてるの田島さんに伺いました。
- 田島宏さん
- 「そうですね、そこが企画を統一するということにならなかったんですね。なぜか、当時。ぺんてるが割と先行してペールオレンジという名称をつけたわけなんですけど、他社さんが追従したかというとそうではなくて、別の名前で同じものが呼ばれているというのが事実としてあります。海外での呼び名がペールオレンジで、ぺんてるの場合、割と海外のシェアが強いんですよ。ですので、海外の呼び名をそのまま日本に持ってきたというのが事実だと思います。」
国際的に知られている「ペールオレンジ」は国際基準みたいでいいですし、一方の「うすだいだい」も日本人になじみやすい和名でいいですよね。ちなみに、教育現場では、呼び方が分かれていることに不便はないようで、統一してくれ、という声は出ていないそうです!(よかった!)
★こどもは新しい呼び名を知っている?
では、変更から20年、子供には「ペールオレンジ」や「うすだいだい」という名前は浸透しているのでしょうか?街で、ペールオレンジのクレヨンを見せながら、聞いてみました。『この色、何色?』
- ●「中2です、はだいろ、絶対はだいろ。(となりのあなたは?)私も中2です、うすだいだい(他の人は?)うすだいだい!」
- ●「6年生です、はだいろです、うすだいだいという人もいるけど、うすだいだいと言ったら、絵の具の橙色に水をいっぱい薄めた時の色じゃないですか(学校でみんなはなんて呼んでる?)わからない」
- ●「娘=6年生です。うすだいだいいろ。(では、授業中、先生は何と呼ぶ?)娘=はだいろです。(お母さんは?)母=肌色だと思いました。」
- ●「娘=小学4年生です、ベージュじゃないんですか?(はだいろというのは聞いた事ある?)娘=聞いた事あるけど、あんまり使わない。(お母さんは?)母=それは肌色と・・・でも多分、人物画の時はこれで塗ってるでしょ?娘=それで塗ってるよ。」
お母さん方はみなさん「はだいろ」でしたね。でも、子供たちは「うすだいだい」とか「ペールオレンジ」という名前が、ちゃんと浸透していました。
★名前は変わっても「肌の色」は昔のまま?
ただ、こどもたちの声の中では、『学校では先生が肌色と呼ぶ』とか『人の顔を描くときはこれで塗る』という話がでてきました。そこで、元小学校の図画工作の先生で、現在は、NPO法人『市民の芸術活動推進委員会』理事長の鈴石弘之さんに、学校の様子を伺いました。
- 鈴石弘之さん
- 「あんまり現実的には変わらなかったね。一般的に先生方は、名前は変わっても、この、昔のはだいろ、今のペールオレンジがあるから、同じ色が全国的に塗られるわけだよね、顔の色は、肌色、今のペールオレンジでね。この色を使うだろうね、あるんだから。そういう概念が強いな。大人が作った概念だけどね。」
鈴石さんも『肌色という名前をやめたのは素晴らしい』とおっしゃっていましたが、現実的には、それだけでは変われていないと。問題は「はだいろ」という名前ではなく、「肌の色はこの色」という固定的な概念。そこは、名前を変えることだけでは、なかなか変わらない現実があったようでした。
★自分の肌の色を作ろう!
では、「肌の色」について、どんな指導ができるのか?鈴石さんはこんな授業を行ったそうです。
- 鈴石弘之さん
- 「私は、昔、授業をした時に、一般的なはだいろを子供達に使わせないで、自分の肌の色を作りましょうという指導をした事があるんですね。それは、茶色とオレンジ、白、黄色、この4色を混ぜると、いわゆるはだいろに近い色になるんです。それで、自分で作った色を手の甲に塗ってみて、なるべく自分の肌の色に近い色を作って、顔や手を塗りましょう、という指導をした事があるんですね。一人一人全部違う肌の色ができるんです。大事なのは、特に人間の肌の色については、黒人の方もいるし、白人の方もいるし、みんな肌の色が違うわけでしょ。やっぱりそのことを考えて指導するべきだよね。」
授業の中で、肌の色はいろいろある、と考える機会を、ということです。「はだいろ」と呼ばないことで、「肌の色」を混ぜて作ることが増えるといいですよね!
ちなみに、ドイツのLYRA(リラ)社やFILA(フィラ)社からは、さまざまな肌の色12色を集めた、肌の色だけの色鉛筆【スキントーン】というのも出ています。
画材店によると、学校の先生が多く買い求めているそうで、授業もこれからどんどん変わっていくかもしれませんね。