今日は、社会の複雑な問題を【数式】を使って解決しようという研究のお話。先週、筑波大や大阪大の研究グループが、ニホンアマガエルの合唱するような鳴き方の法則性を発見した、と発表しました。ニホンアマガエルはオスが繁殖のために鳴くときに、数十秒単位では鳴くタイミングをずらしているけど、10分単位では一斉に鳴いたり休んだりしていた…という法則。この研究結果については、私は正直言いまして、そうすごいのかが分からなかったのですが・・・。
「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」!!1月15日(火)は、レポーターの近堂かおりが『【数式】を使って社会の問題を解決 カエルの合唱→IoT、感染症予防も!』をテーマに取材をしてきました!
★カエルの合唱の法則が【数式】で分かった!!
このカエルの鳴き方を調べるのに【数式】を使ったというのです。どういうことなのでしょう?筑波大学の助教・合原一究さんにお話をうかがいました。
- 合原一究さん
- 「知りたいのはカエルがどういうふうに工夫して生きているのか。鳴くタイミングをすらすとか一斉に鳴き始めて、鳴き止むといった合唱がどういうメカニズムで生じているだろうというところに興味を持ちました。そのメカニズムに関しては観察しただけだと分からないところがあるので、ぼくなんかは【数式】を使って、カエルが使っているだろうと思われるルールを数式で表して、観察とあわせてある意味カエルの気持ちみたいなものを調べていきたいなと考えています。」
カエルが規則的に鳴いていることは観察すれば気づくことですが、もっと具体的に、カエルがどういうルール(メカニズム・法則)で鳴いているのかというのを突き止めるために数式を使って仮説を立てて、研究したそうです。その数式に当てはめると、カエルの合唱が再現できた!というからすごいですね!(ちなみに、数ぢ機というのは微分方程式だそうです・・・)このように自然や世の中の現象を数式を使って表したものを【数理モデル】とか【計算モデル】といいます。数理モデルは、いわば自然現象に潜む本質的なもの抜き出したもので、それがしばしば私たちの身の回りの問題を解決することに活かされているそうです。
★リュックビジネスマンのみなさん、電車内マナーどうですか?
今回、合原さんがカエルの合唱から導いた数理モデルは、あらゆるモノがネットにつながるIoT(最近よく話題になってます)に応用できるというのですが、これはいったいどういうことなの??合原さんにお聞きしました。
- 合原一究さん
- 「IoTへの応用に関しては、無線(通信機能)とセンサーがついた端末をいっぱい並べておいて情報をいっぺんに集めてくる場合に、個々の端末が同時にデータを送ってしまうとそのデータがぶつかってしまって通信が失敗するという問題が知られています。データ送信のタイミングが同時になってしまっては困る。そういうことを解決するために、カエルが鳴くタイミングをずらす数式を使って、通信の問題が解けるんじゃないかということに注目しました。数式を使って生きもののメカニズムを知る研究はいくつもあって、例えば鳥や魚が群れをつくる仕組みは、自動運転のクルマがうまく車列を形成するためにひょっとしたら使える局面はあるかもしれません。」
IoTというのは、私たちの身の回りの様々なものに、無線(通信機能)やセンサーをつけて、そのデータを利用していくもの。(例えば電気ポットを使ったら、家族に連絡が入る、など)すると、たくさんの端末からいっぺんにデータの送信が行われ、通信エラーのようなことが起こるかもしれないですよね。
それを、カエルが、隣のカエルと重ならないように鳴くルールの数式を応用して、スムーズな通信にする、といった具合だそうです。実は、生きものだけでなく、いろいろな自然現象から数理モデルを作ってそれをいろいろな分野の問題に応用する動きが活発になっているといいます。
★数理モデルで感染症予防!
そんな中、数理モデルを活用して感染症予防に役立てようと取り組んでいる方がいます。北海道大学の西浦博教授。数理モデルを使った感染症対策は、これまでやってきた対策とどう違うのか伺いました。
- 西浦博さん
- 「いま風疹が日本で流行しています。30~50代の男性が流行の中心だということは患者のデータを観察するだけで分かるんですけど、数理モデルがすごいのは、具体的に風疹ワクチンをいまからどれくらいの量を確保してそれを成人男性の何歳の人たちの何%ぐらいに接種すれば流行を止められるということが、明確に示すことができるんです。アメリカやイギリスを中心に先進国では、感染症の数理モデルの専門家グループを国で抱えています。政策として感染症制御するにはいつ何をすればどれくらいの効果があるのかというのを数式で見立てることができるグループがあるんです。」
ここまで具体的なことが分かるなら、ワクチンの確保とか予算の見積もりに有効ですよね。数式を活用した感染症予防は、HIV、ジカ熱、SARS(サーズ)など、病院や地域のレベルでなく国の政策として取り組まれていて、成果もあげている。日本はまだ、数理モデルの研究が国の政策に反映されるところまでは行っておらず、まだまだ【経験と勘】に頼った予防接種になっている。
★インフルエンザ予防も数理モデルで!
先ほどの話にあった風疹の予防接種も、西浦さんが具体的な提案をしても、いまのところ動きはなし。また、いま大流行している季節性のインフルエンザのワクチン接種に関しても、日本はいま高齢者のワクチン接種を予防接種法の対象にしてるのですが、同じ量のワクチンを子供に接種すれば2倍以上も集団感染のリスクが減ることは数式で分かっているそうなのですが・・・・。その点に関して、西浦さんは、こんなお話をしてくださいました。
- 西浦博さん
- 「日本では昔は世界に先駆けてインフルエンザに関して学童の集団接種をやっていたんです。でも1990年代前半でやめてしまって、結果としてインフルエンザによる死亡者が増えてしまったということをやってしまった先進国のひとつとして、悪名高い事例が世界で知られています。一方で、イギリスとかアメリカは日本と真逆の方向に動いていまして、イギリスなどは数理モデルを使って毎年、子供たちに接種をするという政策に5年前から変わりました。それでインフルエンザが劇的に減っているというのがいまの状況です。日本で難しいのは厚生労働省も含め、霞ヶ関ルールでは過去に何らかの誤った政策があってもそれを正面から否定することはなかなか難しいことで、接種した方がいいからやりますという論理が通るものじゃなさそうなんです。」
子供の集団接種をやめてしまったことは誤りだということは科学的にも証明できるけれど、すぐに政策が転換されるのは難しい・・・。なんとも歯がゆい話です。しかし、西浦さんは、ご自分では、『地道に研究のエビデンスを積み重ねていく』、とおっしゃる一方で、『町や地域のコミュニティレベルで、例えばインフルエンザの集団接種を行って、その成功事例をどんどん重ねて、その力で世の中というのは変わっていくのではないかな、と思っています』ともおっしゃっていました。