IT社会で、今、福祉の現場も大きく変わってきています。そうした中、障害で文字が読めない人に代わって、文字を読んでくれるメガネが、来月にも実用化されるようなんです。
「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からの「現場にアタック」で、6月27日(水)『文字を読んでくれるメガネ“オトングラス”』を近堂かおりがレポートしました。
★オトングラスってどんなメガネなの?
まずはどんなメガネなのか?開発している株式会社オトングラスの淺野義弘さんのお話です。
- オトングラス・淺野義弘さん
- 「オトングラスという名前の、書いてある文字を音声で読み上げてくれるメガネ型のデバイスを開発しています。メガネの脇のボタンを押すと、メガネが捉えた文字、印刷された文字や、看板の文字を、音にして読み上げてくれる機能があります。開発のきっかけは、弊社の代表・島影のお父さんが失読症という、目は見えているけど、文字を読んでも意味にならない、うまく読んでいくことができないという病気になり、それを助けることができないかと開発が始まったのがきっかけです。」
この『オトングラス』は、メガネと本体がケーブルでつながった機器です。本体は分厚いスマホくらいのサイズで、メガネには、目の間、鼻の上の部分に小さなレンズがあって、つるにあるボタンを押すと文字を撮影し、それがインターネットに送られて、音声に翻訳、人工音声が読み上げてくれる、という仕組みです。

これがオトングラスです!
オトングラス、というユニークな名前は、『おとうさん=オトン』のメガネ、という意味。文字が読めなくなる失読症のおとうさんを助けるために始めた、というお話でした。
★文字は見えるのに、読めない?
実は、目が見えるのに文字が読めないという方は、意外に多いそうです。失読症のほかにも、『ディスレクシア(識字障害・読み書き障害)』という障害もその1つで、脳の一部機能に問題があって、文字は見えるのに、それを、音声・言葉に変換できず、読むことができないそうです。日本では、100〜200万人、アメリカでは、4千万人もいて、俳優のトム・クルーズさんや、スピルバーグ監督などもこの障害を告白しています。
オトングラスは、視覚障害の方だけでなく、失読症、そしてこのディスレクシアの方々にも、注目されています。
★オトングラスを試してみました!
では、どうやって使うのか、どんな風に読んでくれるのか、私も体験させていただきました。室内だったので『我輩は猫である』の冒頭部分を”読んで”みました。

つるにあるボタンを押して、読み込みます。
しかし、残念ながら、私は苦戦・・・。開発者の淺野さんは、一発で『我輩は猫である』を朗読成功!

オトングラス開発者の浅野さん
読んで欲しい部分が、カメラのレンズの中に納まっているか、が大事なのですがそのコツをつかんでしまえばうまく使えそうでした。
ただ、最近ではあまり使われない”とんと見当がつかぬ”が”と・んと見当がつかぬ”となってしまいました。読書などの用途でも使うことを考えると、まだまだ、こうした言葉を覚えさせるなど改良の余地はありますが、手軽な機器だな、と思いました。
ちなみに私が苦戦したもうひとつの要因は、私の顔には、メガネが大きくて、ぐらついたため、うまく文章を捕らえられなかったから。今は試作機でワンサイズですが、サイズ調整できるようにすれば、多くの人が使えますよね!
★実際のディスレクシアの方の感想は?
実際、文字が読めないディスレクシアの方の反応はどうなのか。モニターとして開発に関わっているディスレクシアのNPO「EDGE」の藤堂栄子さんのお話です。
- EDGE・藤堂栄子さん
- 「今あるもので、印刷されたものを読み取って音声に変えるというのは簡単にできます。メガネというのは移動性が良くて、外に出た時に、ちょっと情報を知りたいな、といった時に使えるんです。例えば、普段、私たちが普段、一番、困るのは電車で、どこ方向に行くのかという表示が読み取れないんです。それがこうしたメガネで読めれば、多分、ストレスが10分の1になるのでは。いつも、ものすごくドキドキしながら生きているので、早く製品化してほしいです。」
失読症やディスレクシアの大変さは、本人でないと、なかなかわかりにくいのですが、「文字が見えるけど、読めない」というのは、言葉がわからない外国にいるような感じに似ているようです。確かに・・・文字であることは分かるけど、意味は分かりませんものね・・・。
そうした状況で、駅などの交通表記、お店の看板や、飲食店ではメニューを読んでくれるのでしたら、心強いです。
特にメガネ型というのがいいようで、スマホのアプリのように、いちいち取り出して、という煩わしさもなく、移動性が保たれるので、そこも好評なようでした。
★ディスレクシアの子供にも!
それから、藤堂さんは、学校での利用にも期待を寄せていました。
ディスレクシアの子供は、障害が理解されず、「勉強を怠けているだけ」と思われ、先生から「もっと頑張って」と言われてしまうことも多いそうです。
教科書に書かれている内容を理解することが勉強なのに、その手前の「読み」のところでつまづいてしまうのはもったいない。オトングラスがあれば・・・ということでした。
★早く製品化してください!!
というわけで、ディスレクシアの藤堂さんは「早く製品化して」と仰っていましたが、ただ、淺野さんからは、意外な話が出てきました。
- オトングラス・淺野義弘さん
- 「正直な所を申し上げると、今は、視覚障害者の方を対象にした調整に進んでいて、ディスレクシアに適切な機能ってなんだろうという検討が行えていないんですね。」
淺野さんたちは、全国で体験会などを開いて、利用者の声を開発に生かしているそうですが、そうした中で、全盲などの視覚障害者の方から「使いたい」という声が多く寄せられているそうです。そこで現在は、ディスレクシアや失読症の方ではなく、視覚障害者の方の声に耳を傾けて、視覚障害者の生活用品になるように、開発をしているということでした。
★福祉機器と補助金と・・・。
ただ、ディスレクシアの方とは、障害が違うのでニーズも違います。例えば、ディスレクシアの方は、文字が見えるので、読みたいときだけボタンを押して使えればいいのですが、視覚障害者の方は、文字があるかどうかもわからないので、自然と文字を認識したら読んでもらいたい。だけどそうなると、操作も複雑になるし、ディスレクシアの方にとっては、無駄に複雑になるだけ、ということにもなりそうです。
藤堂さんは、開発会社代表の島影さんたちに『初志貫徹、まずディスレクシア用を』というお話をしたそうですが・・・。
- EDGE・藤堂栄子さん
- 「島影さん曰く、まず福祉機器として認められることで、多くの視覚障害を持った方が手に入れることができる。それによって数が増えれば、一つ一つの価格が下がる。まず福祉機器として行き渡らせて、量が出てくれば、ディスレクシア向けにも、簡単に出せるようになる、という話でした。福祉機器は歴史があって、車椅子とか、目に見える障害に対する、目に見えるソリューション。そのあたりの感覚が難しい。私たちが使うものは、どうしても、福祉機器としては認められない・・」
オトングラスは、まだ量産できないので、オーダーメイドで1つ30万円くらい。それが視覚障害者の福祉機器となれば、補助が出て、障害者が1割負担ほどで買うこともできます。だからまず視覚障害者用として開発を進め、福祉機器を目指すということでした。
その活動自体は、実を結びつつあるようで、実際に、7月から、兵庫県豊岡市で福祉機器としての補助が始まる予定になっています。
★オトングラスでわかったのは・・・
視覚障害者用の福祉機器として補助を得る・・・確かに、戦略としてはアリなのかなと思えますが、本当は、ディスレクシアの障害への理解が広がって、こちらも補助対象になるのが、理想なんですけどね・・・。
やはりまだまだディスレクシアへの理解が広がっていないのが、この問題を難しくしているようです。お話を伺った、藤堂さんも、淺野さんも、オトングラスが広がることで、ディスレクシアへの理解が広がればと、オトングラスに実用面だけでなく、啓発面でも活躍を期待していました。
【オトングラスは、現在、下記の場所で常設、体験できます】
東京都高田馬場:日本点字図書館内「わくわく用具ショップ」
東京都西早稲田:日本盲人会連合内「用具購買所」
兵庫県神戸市: 神戸アイセンター内「ビジョンパーク」

近堂かおりが「現場にアタック」で取材リポートしました。