ここ数年、カフェやコンビニなどで抹茶商品がどんどん増えていて、国内外ともに抹茶ブームが到来しているようです。その一方で、なぜかお茶の本場、宇治が悩んでいるということ・・6月4日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。
まずは、抹茶ブームの最先端について。先週の金曜日から、御茶ノ水のレストランで抹茶に特化した企画が始まったということでお話を聞いてきました。「RESTAURANT1899OCHANOMIZU」の山口沙織さんのお話です。
★緑の飲み物。正体は「抹茶ビール」
- RESTAURANT1899OCHANOMIZU 山口沙織さん
- 「6月1日から抹茶ビアガーデンをオープンしました。お茶ビール6種を含む全10種のビールと、抹茶ワインが飲み放題のイベント。一番人気は抹茶ビール。抹茶人気です。もともとうちのレストランは日本茶をテーマにしたレストランで、抹茶は料理にも合いますし健康効果も高いので多く使っています。」
このお店では、抹茶に特化したビアガーデンが開催中。一番人気の「抹茶ビール」は、うまく抹茶がまざるようにオリジナルの製法で作られていて、抹茶の苦味とまろやかさがマッチして飲みやすく、女性に人気なんだそうです。また、ビールだけでなく、10種類のお茶料理も用意されていて、抹茶レバーペーストや、抹茶ケーキ、ランチには「抹茶味噌の鯛茶漬け」などもあるという、まさに抹茶づくしの企画です。
★「MATCHA」は世界共通語
では、この抹茶ブームはいつから始まったのか。東京都・茶協同組合理事長の君野信太郎さんに聞きました。
- 東京都・茶協同組合理事長 君野信太郎さん
- 「ここ5年くらいの盛り上がりがけっこう大きいと思います。国内については、いろいろな使われ方がされていて、ソフトクリームとかケーキとかお菓子にも使われるようになってきた。昔は日本料理の中に専門家が使うことがあったが、最近は一般の方が抹茶を使った料理を工夫している。それに、外国の方も抹茶を買っている。中華圏、ヨーロッパ、アメリカ。世界的に日本茶の中で抹茶がひとつのブランド化してブームになっていて、それに呼応して日本の中でも増えてきたということだと思います。」
海外での抹茶人気はすごく、日本に来た中国人も、抹茶を使ったクッキーやチョコレートなどのお菓子を爆買いしているそうです。そのブームが日本でも盛り上がり、どんどんと抹茶商品が登場しています。
★“加工用”抹茶ブームで、お点前用の抹茶は蚊帳の外
ところが、あまりの抹茶ブームに困っているのが、抹茶の本場、京都の宇治市。何が起きているのか?ご自身でも100年以上続く茶園を営んでいる、宇治市茶生産組合の福井景一さんのお話です。
- 宇治市茶生産組合 福井景一さん
- 「我々が昔から作っている伝統的な抹茶は、飲む抹茶として使われている、お点前用のもの。最近のブーム、スイーツとかに使われている抹茶は、我々の伝統的な作り方を簡略化して簡単に作られたもの。ブームで売れているのは簡単に作られた『加工用抹茶』で、飛躍的に需要が増えている。我々の伝統的な抹茶も、加工用の抹茶も、ひとくくりにされているので、ちょっと違うやろというのが僕らにはある。」
抹茶ブームで、京都でも加工用抹茶を作る茶園が増えているんですが、宇治市では90%以上が、お手前用の抹茶を作っています。今でも500年以上続く製法で作っていて、本格的な高級抹茶を栽培しています。例えば、光合成で渋さが増してしまうのを防ぐため、2ヶ月ほどお茶の葉っぱに光に当てないよう棚を作ったり、機械を使わずにすべて手作業で収穫したりと、手間隙かけて育てています。1日の収穫量は、30人がかりで400キロほどしか摘めません。一方、加工用抹茶は、日光遮断用の棚は作らず覆いを直接かぶせるのみ(期間は2週間ほど)。収穫は機械で大量に刈り取って、一人で1日1トン以上収穫できるということです。
このようにかける手間がぜんぜん違うため、宇治抹茶が40グラムで2500円なのに対し、加工用抹茶は1キロで3000円。当然、販売価格もケタひとつ違ってきます。これを同じ「抹茶」として扱われるのはどうなのか、というのが、福井さんをはじめとした宇治市の茶園農家の主張です。
★宇治抹茶の基準を明確に!登録商標を申請中
そしてこれは、抹茶ブームが起きなければ起こらなかった事態だそうで、ついに宇治市の団体が動き出しました。
- 宇治市茶生産組合 福井景一さん
- 「加工用の抹茶というのは、15年くらい前までは存在しなかったタイプのお茶。お抹茶を飲む方の裾野が広がるのは良いことだが、基準をハッキリさせたいということで、『地域団体商標』を取ろうと思いました。一番いいお茶の基準を提示するために、登録商標という形で基準を示してみようと思いました。」
加工用の抹茶は今まで存在していなかったタイプのお茶。宇治市の団体は、「これは宇治市の伝統的な製法で作られた抹茶です」と言える基準を作ろうと、今年3月に地域団体商標の申請をしました。申請の結果が出るまで半年ほどかかり、今年の秋くらいに結果がわかるということです。認められれば、「このマークは地域の名物の証です」とわかるマークが商品につくようになるかもしれません。