今回は「高齢化と世代交代」のお話。といっても、私たち人間ではなくて、早咲きの桜『河津桜』の話です。静岡県・伊豆半島の河津町(かわづちょう)では、河津川の両岸にずっと続く河津桜に毎年大勢の観光客が集まりますが、桜の高齢化と世代交代が大きな課題になっている、というのです。そこで・・・。
「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」!!1月30日(火)は、レポーター近堂かおりが『河津桜も〝高齢化〟 川沿い800本の世代交代どうする?』をテーマに取材してきました。
★川沿いの桜並木。抜群の景観!なのですが・・・
まずは河津町観光協会の会長・峰静雄さんのお話です。
- 峰静雄さん
- 「河津桜は、河口から上流4㎞にわたって合計800本程度植えられています。川から離れていないので景観的には見栄えがすると思います。去年の実績で93万6000人。2000年ごろには120万人を超えたことがございます。やっぱり花のない時期にこれだけ咲いているところはほかにないと思いますので。ただ、土手に植えられているのはあまり好ましくないというのが国交省の方針で、どういうふうに残していくべきなのか、またどういうふうに改修していくべきなのかというのは、今後考えていかなければいけない。」
河津川の堤防の両岸に植えられている800本ほどの河津桜がだんだんと高齢化。そうなると、そう遠くない将来、植え替えの必要が出てくるのですが、ここで法律が問題になってくるのです。
★同じ場所には植え替えできない!?
1998年に改正河川法が施行され、植え替えができなくなったそうなのです。
河津町産業振興課の島崎和広さんのお話です。
- 島崎和広さん
- 「河川区域内における植栽に関する基準」というものが出ていまして、堤防になっているところは植栽ができないよということになっているんです。木の根が入って堤防を弱体化させてはいけないよということです。いま植えられている桜がもし年を取って寿命がきて枯れたり、何らかの理由で倒れたりしたとき、次のものを同じところに植えることは当然、法律違反ですので、できないですよということです。」
法律では、川の堤防に木を植えてはいけないというふうになっている。河川区域といのは、片方の堤防の端からもう片方の堤防の端までの間なのですが、そこに植樹することは禁止されました。というのは、堤防に植えた木が倒れると堤防がもろくなって危険ですし、倒れた木が障害になって川の水があふれる危険も。治水対策として決められた。河津町の河津桜はこの法律ができる前にすでに植えられたものなので、いま強制的に撤去する必要はないのですが、この先、もし植え替える場合には、いまの場所には植えられない、ということなのです。
★河津桜はどのくらい高齢なの?
では、河津の桜の高齢化はどのくらい進んでいるのか。この桜は河津で1本の新種の桜の苗木=原木が発見されたのが始まりという。その歴史を、河津町観光協会の前会長・坪井弘司さんに伺いました。
- 坪井弘司さん
- 「もう原木は60年経ってますよね。この原木は非常にいい花が咲くから実験的に挿し木をして、増やしていったんですよ。その木が大きくなってきたから土手に植えようということで、若い衆を中心にそれを植えていったのが始まりです。もう40年ぐらい前のことです。」
原木は60年、堤防の並木は40年ぐらい。これは高齢なのでしょうか??新種で発見され、まだ研究が進んではいないため、河津桜の寿命は、いまのところよくわかっていないそうなのですが、ソメイヨシノの寿命が50年ぐらいといわれていますから、結構、高齢かもしれません。いまは河津町や観光協会が桜の維持・管理をしているんですが、堤防の桜はいずれ移さなければならない。
★河津桜といえば両岸の桜のトンネル!
いまの河津の風景は変わるのでしょうか。河津桜というと、やはり河津の川の両岸を覆う光景を思い浮かべる方は多いようです。
- 60代の女性
- 「川に沿って咲いていて絵になりますよね。水に映るのがすてきですよね。絵になる風景だと思います。」
- 70代の男性
- 「こういう風景をだいたいテレビで放映しますよね、河津桜はね。桜本体というよりも、こういう風景ごと紹介されるじゃないですか。」
- 70代の女性
- 「こういうカーブがあるこの感じをテレビでよく見ますよね。インプットされてますよね、私の中にも。」
これだけ河津桜の印象が浸透していると、堤防からまったく別の場所には植え替えづらいという思いも町の人たちにはあるでしょうし、毎年2月からの1ヵ月間で100万人近い観光客が訪れる”河津桜まつり”のメイン会場でもありますから、桜の場所が変わったら観光にどう影響するか…。
★河津桜まつりは伊豆全体に大きな経済効果!!
いまや河津桜の経済効果は、河津町だけの問題ではなくなってしまった。そこがさらに悩ましいのです。河津町観光協会の会長・峰静雄さんのお話です。
- 峰静雄さん
- 「やはりメインとしては川にどれだけあるかというのが、河津桜の本来の姿かなと思います。このまつりが下火になってしまえば伊豆全体に与える経済効果はすごく大きいものです。何年か前の話では300億円といわれてましたので。河津の桜まつりでいちばん儲かっているところは河津じゃなくて、宿泊のほとんどはお隣りの東伊豆とか稲取、熱川、下田、修善寺、伊東、熱海とか大型施設があるところのほうが河津にお泊りになるお客様より多いですから。全部なくなることはないと思いますが、下火になるときは一挙に下火になるので。」
一本の原木から挿し木で増やして、堤防に植え始めたのが昭和50年代。それから平成に入って1991年から桜まつりを始めて、初めは観光客は3000人。露店はわずか3店しか出してくれなかった。それが2年後に1万人、5年後に10万人、8年後には100万人が訪れるようになって、いまや静岡県全体を支える観光資源になりました。川の治水対策と観光対策。これをどう折り合いをつけるか、いま観光協会と河津町と静岡県はいっしょになっていいアイデアを検討しているところだそうです。