冬が近づき、そろそろインフルエンザのワクチン接種が始まる頃。流行の前に、ワクチン接種を済ませておきたいところですが、今シーズンは、ワクチンが足りないかもしれない、という異変が起きています。どうしてそんなことに?そして対策は?10月30日(月)の松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で解説しました。
★着実に患者増
インフルエンザの患者が、着実に増え始めています。しかも立ち上がりが早く、国立感染症研究所によると、先月上旬から東京や大阪で、学級閉鎖などが報告され、去年の同じ時期に比べる2倍以上のペースで患者が出始めました。先月上旬から今月15日までで、全国の学級閉鎖は「73」となっています。
★去年比、100万本以上不足
そうした中、今シーズンは、ワクチンが不足しそうだという、見通しが出ています。前のシーズン、日本国内で使われたインフルエンザワクチンの数は、2642万本でした。一方、今シーズンのワクチン製造数は、それより114万本少なく2528万本。予約が取りにくかったり、接種自体を取りやめる医療機関も出てきているようです。
★ワクチンの決め方
インフルエンザには、いくつかの株と言われる、ウイルスのタイプがありますが、その中から、次のシーズンはこれが流行りそうだと予測し、4種類のタイプを選びます。予測は、国立感染症研究所などが、WHO=世界保健機関が発表する推奨のワクチン株や国内外の流行などを分析して行います。その予測の決定を待って、製薬会社が4種類の混合ワクチンを作るわけです。
★オーストラリアでの流行
今シーズンは、4つのうちの1つで、いつもと違う「AH3亜型」が流行りそうだという、予測が出てきました。というのも南半球オーストラリアで、半年程前からそのタイプのウイルスが流行しました。20万人近くの人がかかり、例年の6倍近い死亡者が出たので、「AH3亜型」のタイプのウイルスに対応可能なワクチンを作ろうとした。しかし、鶏の卵でウイルスを増やす、というワクチン製造工程の中で、うまく、ウイルスが増えず、必要な本数を量産できないことが判明。結局、7月半ばに、昨シーズンと同じタイプのワクチンを作る方針を決定しました。
★決定時期のズレで間に合わない
ここで問題なのは、「決定時期」と、「昨シーズンと同じワクチン」だということです。まず、どのウイルスのタイプに対応したワクチンを作るかを「決定時期」についてですが、例年は5月くらいですから、今回7月半ばということは、2か月ほど遅れたわけです。この遅れのおかげで、肝心の流行のピークに、間に合わない事態に。インフルエンザが流行し始めるのは、だいたい12月の後半からで、ピークは1月~2月。一方、ワクチン接種をして、効果が表れるまで、2週間から1か月は、かかります。ですから、本来は、11月中旬くらいまでには、ワクチン接種を終えたい所・・・しかし、去年と同じようなワクチンの供給体制が整うのは、12月の3週目くらい。一部は出荷時期が遅れ、1月ごろ、医療機関に届く見込みのものも。
★結局去年と同じワクチン
そして、「昨シーズンと同じワクチン」、というのも心配な点です。つまりオーストラリアで流行した「AH3亜型」には対応していない、ワクチンです。実は、このワクチンは、オーストラリアでも、予防接種に使われていました。ところが、「AH3亜型」に対応していなかったため、オーストラリアでは、そのインフルエンザが流行してしまったのです。そう考えると、日本でこのワクチンを打っても、やはりオーストラリアのように「AH3亜型」が流行してしまう可能性は否定できないように思えてしまいます。一応、厚労省は、それでもある程度有効なワクチンだとデータを示して説明していますが「AH3亜型」が流行した場合どうすべきか、医療現場からも心配の声がでています。
★13歳以上は1回接種
完璧ではないですが、リスクを下げるために、予防接種はうっておいたほうがいいでしょう。国が推奨するのは、13歳以上の1回接種の徹底です。生後6か月から13歳未満の子供は、1か月以上の間隔を空けて、2回の摂取が基本です。インフルエンザワクチンは任意の摂取ですから、13歳以上の人でも、2回接種したい、と希望する人も中にはいますが、今年はワクチン不足も心配されるので、子供のために、13歳以上の人は、1回接種にしておいたほうがいいかもしれません。
★子供・お年寄りは重症化を避けて!
ワクチン接種の重要なポイントとして、重症化を防ぐ、という事があります。子供は免疫がついておらず感染しやすく、インフルエンザ脳症など重症化することも。一方お年寄りも、人生で様々なウイルスに出会っていて感染防御力は高いと言われますが、一たび発症すれば、肺炎など重症化しやすい。ですから、特に子供や年寄りなどは、早めに医師と相談してほしいところです。
★ワクチン不足は集団に危険
ワクチンの効果は、ワクチンを打った人の、重症化などリスクを下げるだけではありません。接種した人が多ければ多い程、インフルエンザは流行りにくい、とも言われています。そういった面からも、今回のワクチン不足は、集団を危険にさらすことになりかねません。
★予防は?
健康な成人の人でも、油断は禁物で、例年以上に、自分で自分の身を守る必要があります。すでにワクチン不足で、すぐにワクチン接種ができないケースも出てきています。大事なのは、常温の流水で小まめに、手洗いをすることです。指の間や、手の甲、手首まできちんと洗って、その後、清潔なタオルでふき取りましょう。

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫