秋のフルーツの代表選手ナシといえば、”二十世紀”や”幸水”がおなじみですが、最近、新しい品種が開発されたというのです。その名も”なるみ”。なにやら夢のナシ!だ、という話もあるとか・・・。
そこで!「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」!!9月26日(火)は、レポーター近堂かおりが『農家が夢にまで見た”ナシ”!どこまで広がるか?』をテーマに取材しました!
★”なるみ”いったいどんなナシ?
いったいどんなナシなのか、品種改良を手がけた方にお聞きしました。茨城県つくば市にある研究機関・農研機構のナシ・クリ育種ユニットの齋藤寿広さんのお話です。
- 齋藤寿広さん
- 「日本梨は自分の花粉では実がつかないという特性を持っていまして、これが非常に労力的に大変だという問題があるんですけども、これをせずにすむ品種を育成したいということで取り組んできて、元々は「二十世紀」という品種の枝変わり(突然変異)で「おさ二十世紀」という品種が見つかりまして、その遺伝子を使って品種改良を進めてきたということです。全国の苗木屋さんで苗の販売が始まったという段階です。」
自分と同じ品種の花粉では上手く受粉しないという果実は結構多いのです。そこで、ミツバチを使って別の品種の花粉を授粉させたりするわけですが、ナシの場合、ミツバチがあんまりナシの花を好まないのだそう。それで人間が、広い果樹園のナシに授粉しなければならない・・・。その手間をなくした画期的なナシ、それが、齋藤さんたちが2015年に開発した『なるみ』。
★人工授粉なし。夢にみたナシ!
・・・ということは、この品種改良は、どちらかというと生産農家のほうにインパクトがあるでしょうか?そのあたりのことを直接お聞きしてみました。『人工授粉がいらないナシというのはどうなのか?』
千葉の市川市で200年続く農家で、ナシ栽培はおじいさんの代から60年という『梨屋 与左ヱ門』の田中総吉さんのお話です。
- 田中総吉さん
- 「ナシの授粉は4月にあるんですが、ただ花粉をつけるだけじゃなくて、授粉をする花粉を自分たちで採取しなくちゃいけないんです。2週間ぐらいなんですけど、ものすごく労力がかかるし、本当に滅入ってくるというか、『ああまたこの時期が来る。いや~桜が咲いちゃったよ~』みたいな感じですね。なので、人工授粉のいらない品種が出たというのは、本当に生産者にとってはありがたいことですね。私はまだ20年ぐらいしかやってないですが、私の父なんかは本当に『夢に見た』、そんな感覚を持っていると思いますね。」
桜の便りを聞いて滅入っちゃうぐらい、大変な作業なんですね!!ですからもう、夢のようなナシだそうです。人工授粉しなくても、生る実=『なるみ』。ではこの”なるみ”は、はたしてどこまで広がるのか。ナシは、その時代、その時代で絶対王者が、長年トップに君臨し続けて、シェアをなかなか譲らないという歴史があります。今のナシ界(?)の勢力図はどうなっているのか、再び田中総吉さんにお聞きしました。
★今のナシ界(?)の勢力図!!
- 田中総吉さん
- 「”幸水””豊水””新高”、ナシといえばこの3つ、と昔から言われている品種なんですが、幸水は今でも圧倒的に大人気。甘くてシャリシャリ感が強い。その次に豊水、甘みの中に酸味があって果物の”通”の方に特に好まれています。その次に”あきづき”という品種が出てくるんですが、最近はこのあきづきがとにかく人気が高いです。上品な甘さなんです。すごく口の中にさわやかな甘さが残る感じ。なによりも肉質が良い。食べた時にシャリ感がものすごくきめが細かくて、しかも中秋の名月の満月のように、きれいなまん丸というような、とにかく形がきれいなナシなんです。見て喜ばれ、食べて喜ばれ、特に女性の方に人気が高いですね。」
作付面積では、”幸水”が全体の40%。圧倒的。その次が”豊水”で25%。この2つの品種だけでシェア6割以上。今の大相撲でいえば白鵬と日馬富士。次が”新高”で9%。”二十世紀”は戦後から1980年代まで、昭和の大横綱。今は7%。
逆に、まだシェアは少ないけど今いちばん勢いがあるのが”あきづき”。2000年入ってから開発された品種で、今急速に人気が伸びている。実はほかにも、”あきづき”のような新興勢力=新しい品種のナシが出てきている、という状況。
★”なるみ”の番付はどうなる?
そんなな中で、”なるみ”は番付上位にあがっていけるのか。梨屋 与左ヱ門の田中総吉さんはそのあたりについて、こうおっしゃっています。
- 田中総吉さん
- 「我々にとっては最高の品種かもしれないですけど、お客様はものすごくいろんなものを召し上がっているので、やはり細かい部分の味にも反応して下さるので、やっぱり味やナシの食味はいちばん重要になってくるかなと思います。」
そこはやはり冷静。では、その一番重要になってくる”なるみ”のお味はどうなのでしょうか?まだこれから世の中に出回ろうかという品種なので、そこは開発者の農研機構・齋藤寿広さんにお聞きしました。
- 齋藤寿広さん
- 「”豊水”の酸味がないタイプという感じになりますかね。”豊水”が酸っぱいと感じる方なら”なるみ”のほうがいいと言ってもらえるかもしれないですね。やわらかさは一緒ぐらい。逆に、酸味がないだけに、物足りないという人が結構いるということになりますね。」
今は新しい品種にチャレンジする農家のみなさんが、苗を育てているところ。今後、花を咲かせて、実らせて、それがある程度の量になって初めて、私たちの手元に出回るようになる。早ければ5年。10年かかるかもしれません・・・!その時の消費者の反応が、”なるみ”の出世を決めるということになります。生産農家の方が『夢に見たナシ』。桃栗3年…といいますから気長に待ちましょうか…。