今年もっとも問題となった現場の1つ、それは「豊洲新市場と築地市場」。以前も、「築地市場で移転前の最後のまつり!その一方で浮かび上がる場内と場外の温度差」というテーマで取材しましたが、今日はその後の話。築地市場の豊洲への移転延期で影響を受けた人たちの“今”について、「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)12月13日の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材しました。
★新施設「築地魚河岸」は順調・・ではなかった!?
豊洲新市場への移転が進まない一方で、先月、築地の場外に「築地魚河岸」という場外施設がオープンしました。移転の構図ですが、豊洲に移転するのは場内(青)のみで、場外市場(赤)は残ります。
※新たな施設「築地魚河岸」は、下記マップの“築地新市場”部分です。
この築地魚河岸、取材してみると新たな問題が浮上していたようです。当初の予定と違って、ひとつの業者が、築地場内で商売を続けながら、すぐ近くの築地魚河岸でもお店を切り盛りするという、二重経営になってしまっているそうなんです。築地魚河岸事業協議会の楠本栄治さんに伺いました。
- 築地魚河岸事業協議会 楠本栄治さん
- 「築地魚河岸自体は、築地市場が豊洲に移転することが決まった時点で、中央区が、築地場内の業者を誘致する目的で造られました。今まで通りの築地の賑わいを保とうという趣旨ですが、築地の場内がいままで通りあるので、すぐ近くに築地場内と築地魚河岸とお店が2つあるということです。そういう意味は当初の想定とは違っている。」
そもそも築地魚河岸は、豊洲移転後も、築地の賑わいを残すべく中央区が造った新施設。築地場内の業者が、豊洲に移るだけでなく、ここにも出店してもらおうと、誘致をしていました。ところが、豊洲への移転が遅れていることで新たな問題が勃発。築地魚河岸に入っている業者は、すぐ近くの場内でもお店を構えたまま出店しており、言わば自分でお客を食い合っているという状況となっているそうです。
★オープン1か月で早くも撤退した業者も!
しかも、取材をしていると、驚きの事実が発覚。この築地魚河岸を巡って、オープンから1か月も経たず、すでに撤退しているお店がありました。早々に魚河岸をたたんで、場内の営業一本に絞ったという業者の社長を直撃しました。
- 魚河岸をたたんで場内に絞った業者の社長
- Q.2重の経営は辛いですか?
「やっぱり2重だと、こっち(築地場内)がやっていたら、あそこ(築地魚河岸)は行かないもん、お客さんは。全然、あそこ(築地魚河岸)は無理。全店赤字、うちも同じく。」
- Q.築地魚河岸にお店を出すのは最初とまどいました?
「もちろんダメだっていうのはわかっていたけど、お付き合いというか。もちろん商人というのはスケベ根性あるからさ。だっていなくなったことが条件で出したからさ。皆しょうがなくお付き合いで出したんで、区役所もそれ承知だから家賃を3か月間は免除するということで出てくださいということで、じゃあ免除してもらえるならということで皆さん出た。そしたら、免除しても追いつかない程ダメだった。うちも出したけど2000万円損しちゃったよ。」
この社長は、築地市場の老舗業者で、築地市場に長年お世話になってきたこともあり、その付き合いもあって築地魚河岸に出店したということでしたが、豊洲移転が延期されたいま、場内のお店は残ったまま。そうなると、飲食店などの大口の顧客は、今まで通り場内に買い付けにきます。一方の築地魚河岸に来る方は小口のお客さんが多く、儲からない。そのため、このままでは借金が膨らむばかりということで撤退を決断したという経緯でした。
★場内、築地魚河岸、さらに場外。3施設で混乱!
場内と、場外の新施設「築地魚河岸」がお客さんを食い合っているだけではありません。実は、ここには「元々の場外」もそのまま残っているんです。この三つ巴状態、元々の場外でお店を営む同業他社はどう思っているのでしょうか。
- 場外でお店を営む同業他社
- 「うちマグロ屋さんで、あっち(築地魚河岸)でもマグロ売っているんですけど、あっち(築地魚河岸)はスーパー感覚で、そんなに築地としての魅力がないと思っているんですね。だから、あそこが中途半端になっているって部分で、売れていないと思うんですね。だから中後半端なのでかわいそう。場内があるから、あそこが宙ぶらりんになっちゃってる。あそこに負けるって言うのはないと思います。」
撤退を決めた社長が嘆いていた「売れない」という言葉を言い当てるかのように、哀れんでいました。また、築地魚河岸はスーパー感覚と言っていましたが、マグロがパックに入ってきれいに並んでいたのを見ると、確かに豪快さはなく、「場外っぽくない」ような感じでした。
★移転延期で大混乱。それでもまだ移転したくない!
ここまで、いろいろ問題をお伝えしましたが、すべては豊洲への移転が延期になったことが発端です。では、業者のみなさんは一日も早い移転を望んでいるのか?築地魚河岸で貝等を扱う渡辺商店の渡辺幸雄代表にお聞きすると、こんな声が聞かれました。
- 築地魚河岸で貝等を扱う渡辺商店 渡辺幸雄代表
- 「振り回されてますからね。豊洲に対してはもうお金も払ってるんで、払ってるだけで入ってくるのはいつなんだよっていうね。まあ安全が確保されてないと、やっぱり我々は行けないですよね。いま東京都との信頼関係って薄いじゃないですか、正直。そう言っているけど、本当にそうなのかよって。100%OKなら行きますけど、疑わしいところが1点でもあれば行けないですよね。やっぱり消費者の皆さんがよしって思わなければ、我々は行っても売れないです。」
渡辺さんが言っていたのは、一番は、「消費者がよし」と思わないと、豊洲移転は意味がないということでした。つまり、「少しでも早く移転したい」ではなく「少しでも早く、安全を確保して」ということのようです。
では、こうした業者の叫びに東京都は応えられるのか?東京都に豊洲移転の見通しについて問い合わせたところ、下記の文書で回答をいただきました。
豊洲市場への移転に向けたスケジュールにつきましては、現在、専門家会議、市場問題プロジェクトチームなどによる安全性等の検証を審議、評価していただいているところです。
その後、これら会議の検証結果の必要な対策に関して、環境アセスメントの変更の手続を経たうえで、安全性が確保されるという結論が得られた段階で総合的な判断を行う予定です。最終的には、必要な対策工事を実施し、都としての安全性の確保と業務の適正かつ健全な運営を確保したうえで、農林水産省への認可手続きを行うこととになります。こうしたステップをしっかりと踏むことにより、早ければ、1年後の冬から再来年の春までには、移転に向けた環境が整う見通しです。なお、実際の移転時期につきましては、業界団体の皆様と調整の上、決定していく予定です。
(取材・レポート:田中ひとみ)