食品の味など品質を数字で証明する「美味しさの見える化」という取り組みが広がっています。7月27日(火)TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」の「現場にアタック」のコーナーで、田中ひとみが取材報告しました。
。まずは、この春から「見える化」をビジネスにした会社、ドットサイエンス株式会社の小澤 亮さんのお話。
★食用バラの香りを見える化
- ドットサイエンス株式会社 小澤 亮さん
- 「神奈川県の横田園芸の食用バラの分析をした。分析結果としては、一般流通する食用バラと比較して「香り高さが約3840倍」というデータが出ました。いろんな星付きレストランのシェフにこのバラを案内したところ、「3840倍、何それ!」みたいな話になって、サンプルを送って欲しいという風になった。そういったことを積み重ねた結果、相場よりも約35倍の価格設定で、星付きレストランを中心にこれまでよりも販路の数も5倍以上に広がっている。」
神奈川県平塚市にある、横田園芸の食用バラ。そもそもバラは、強い香りを放つと、天敵の虫も呼び寄せるので、「香りの弱いバラを、農薬を使って育てる」というのが一般的だそうですが、横田園芸は、「香りの強いバラを、無農薬で育てる」ことに拘ってきたバラ園です。
そんな中、今回「通常のバラよりも3840倍の香り」という分析結果を武器に、価格を1輪700円に。食用バラの相場が1輪、約20円と考える相当と高いが、これに目を付けた高級レストランのシェフの間で人気に火が付き、長年伸び悩んでいた売り上げは、3倍にアップ。
分析を行ったドットサイエンスは、この分析を「成分解析ブランディング」として1件10万円から請け負っていて、ほかにも、干物の臭みや、原木しいたけの旨味、雪下ネギ、甘酒など、これまで、およそ30種類の製品の依頼を受けて、予想以上の反響ということでした。
★マグロの美味しさを科学的に解明
一方、食用バラの香りが強くても、それがいい匂いなのか、美味しいのかは、人によって異なります。そこで、成分の解析だけでなく、人の感覚もプラスして、美味しさを判断しようという研究も始まっています。静岡県にある東海大学・海洋学部の大学院生、水野 加寿樹(みずの・かずき)さんのお話。
- 東海大学・海洋学部 水野 加寿樹さん(大学院生)
- 「マグロの美味しさを「見える化」する研究。マグロの美味しさを伝える時、いっぱい食べてる人って、すごい語ってくるじゃないですか。ただ、共感しづらい部分もある。美味しい・美味しくないという嗜好性の違いもあるし、脂っこいと思うものもあれば、むしろ水っぽいという人もいる。そこで、脂質やタンパク質などの「理化学分析」を併合することで、客観的な可視化ができるんじゃないか。(マグロは)もう数え切れないぐらい食べました、多分、半分、僕の肉、マグロでできてます。」
水野さんのグループは、「うまいマグロの指標」を作ろうと研究を続けています。対象は、大学にほど近い、清水港で水揚げされたメバチマグロ。
これをどう評価していくのか。
まず、専用の機材を使って「脂質」「水分」「硬さ」など約20項目の、科学的な分析を行います。ただ、これだけだと美味しいかどうか、わからないので、水野さんたちは、漁業関係者など魚のプロを集め、「味」「色」「香り」などの約30項目を、人の感覚でも評価していく。(生臭い、磯の香りがする、水っぽいなど、あえて主観で評価)。
この「主観的な感想」と、「客観的なデータ」、2つの軸でメバチマグロを分析することで、目利きのプロでなくても、一目でメバチマグロの味が分かる指標を作ることを目指していて、将来的には、「今日は脂の乗ったマグロにしよう」「淡白なマグロでカルパッチョを作ろう」という風に、果物の糖度や牛肉の等級のような基準を作って、好みに合わせて選べるようにしたいと言うことでした。
★技術に見合った価格設定につなげたい
このように、美味しさを数字で「見える化」する取り組みが広がっていますが、冒頭、食用バラを解析したドットサイエンスの小澤さんは、「これまでのように、良いものを黙々と作り続けるだけではダメだ」と、危機感を感じている生産者が増えていると、実感していました。
- ドットサイエンス株式会社 小澤 亮さん
- 「これまで、既存の流通に乗せると、自分の努力が価格に反映されづらかった。そうすると、安く大量に作る技術を持ってる人の方が、売り上げが上がってしまう。品質に向かって努力をしてる人たちは、安く買い叩かれてしまうと廃業するしかない。同じ椎茸で国産だけど、旨みが150倍の方って、試してみたくなる。でもその情報がないと、ただ高いだけで試さない。やはり、良いものを作る人にとっては、チャンスが広がると思う。」
今回のコロナでは、飲食店を中心に卸をしていた生産者も困っていて、一般の消費者にも魅力をアピールしないと、やっていけない時代になっている。
東海大学も、知名度がなかなか上がらない「清水マグロ」をどうすれば広められるか、という相談を地元の漁業関係者から持ちかけられたことがきっかけだったということで、魅力をどう伝えていくか、伝え方に悩んでいる生産者の姿が見えてきました。
こうして「見える化」した数字が、どれだけ信ぴょう性を獲得していくかが課題になりそうですが、それによっては、商品えらびの新しいモノサシになるかもしれません。