ここ最近スギ花粉の飛散が多く、花粉症の方にとっては辛い時期ですが、今日は「花粉の化石」研究の最前線を取り上げます。
TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で中村友美ディレクターが取材報告しました。
★過去の気候変動を花粉の化石から解明
花粉の化石を研究するとどんなことが分かるのか?立命館大学古気候学研究センター長の中川毅さんに伺いました。
- 立命館大学古気候学研究センター長・中川毅さん
- 「例えば杉はかなりの大量の花粉を空気中にばら撒き、最終的に湖や海の底にたまります。花粉を作る物質は自然界でもかなり分解されにくい物質で、今判明している古いものですと3億年以上昔の物が、そのまま残っていたりして、その当時生えていた植物を元に昔の環境を知ることができる。今多くの人が関心を持っている「気候変動」、特に地球温暖化があると思うんですけれども、過去の地球で一体どういう変化が実際に起こってきたのか、例えば花粉などの情報をもとに過去に起こった気候変動を復元していくことが必要になってくるんです。」
中川さん達の研究では、福井県にある今からおよそ15万年前の地層を調べてみると、スギの花粉が多い時期とブナの花粉が多い時期が一定のサイクルで繰り返されていることが分かりました。スギの多い時期は温暖期、ブナが増えるのは寒冷期への過渡期と考えられるそうです。
このように過去の気候変動を解明することで、今後どんな気候変動が潜在的に起こり得るのか、その手掛かりを手に入れようとしています。
その研究を行う上で花粉はとても優秀で、まず花粉が、とても頑丈なカプセルのようなもので覆われているため数億年前の物でも化石としてしっかり残っていること。さらに、同じ植物でも葉っぱの化石、木の幹の化石が見つかるのはレアケースですが、花粉はとにかく数が多いので見つけやすいという点も大きなメリットです。
★新たな技術で研究の効率化に成功
中川さん達の研究チームは今年1月、花粉の研究をする上で役立つ新たな技術の開発に成功したと、発表しました。
- 立命館大学古気候学研究センター長・中川毅さん
- 「本当に小さな直径数十ミクロンしかないような花粉を全部で100万粒くらい混じりけのない状態で拾ってこなければいけないんですけども、従来は非常に困難というか安定的に実現する技術がありませんでした。今回私達がセルソーターという元々生物学の研究のために細胞をより分けるのに使う装置を堆積物に応用しまして、その中から花粉の粒子を非常に高い純度で抽出することに成功したんです。」

化石花粉の放射性炭素年代を測定する「POLARIS」
これまでは何週間、何か月と顕微鏡を覗きながら、泥の粒の中から一粒一粒花粉を拾い上げる作業をしていた人もいたそうです。
それが今回、数時間で一気に100万粒を集める技術の開発に成功。さらにこの装置では、花粉から放出されている炭素の割合を調べることで、植物がいつの時代に生えていたものか分かり、地層の年代を調べる手がかりになります。
この技術を応用すると、例えば歴史上その土地で起きたとされる自然災害についてより正確な時期を調べることもできます。
★花粉の解析が防災分野にも役立つ!?
この新たな技術について中川さん達は行政や産業界からも希望があれば有償で提供し、防災分野などで活用してもらいたいとしています。
- 立命館大学古気候学研究センター長・中川毅さん
- 「例えば三陸の津波。東日本大震災ほどの巨大なものは千年以上前だったかもしれませんが、十分災害をもたらす規模のものは100年弱の間隔で起こってきたわけですね。そういう知識を蓄積することによって、今日本あるいは世界のどの地域にどういう潜在的なリスクがありそうかということの見積もりに直接繋がっていくと思います。防災計画に必要な社会資本の投入をどういう優先順位でやっていくかとか、どのような規模にしていくかということの、ある程度の見積もりの材料にはなっていくと思います。」
花粉を通じて災害が起きた時期がより正確に分かれば、防災計画を立てる上でのヒントとなります。実際に中川さんの所にそういった防災関係の問い合わせも来ているということです。