先月10月31日の早朝に、東京都の上野動物園でゾウの赤ちゃんが誕生しました。去年の9月に妊娠が分かり、それから22ヶ月の妊娠期間を経て無事出産。産まれた赤ちゃんはオス。体高は100センチ!体重は120・5キロ。ゾウは赤ちゃんも大きいんですね!
「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」!!今日11月9日(月)は、『上野動物園でゾウの赤ちゃん誕生!これからの動物園への一歩!』というテーマで取材をしました。
★132年で初めてのゾウの赤ちゃんです!
実はゾウの赤ちゃん誕生!というニュースは、とーっても珍しいのだそうです。上野動物園・飼育展示課長の冨田恭正さんにお話を伺いました。
- 冨田恭正さん
- 「ちゃんと生きて産まれてきたのは初めてです。上野動物園って1882年に開園しているんですけれども、その数年後にはアジアゾウが入っていて、132年が経過したというところですね、アジアゾウを飼育して。それで初めてです。日本の動物園全体でもですね、繁殖できるようになってきたのはここ最近のことで、そのうち皆んなが必ずしも育っているわけではないんですよね。これからもちろん私たち細心の注意で飼育をしていきますけれども、仮にうまく育ったとしても、まだ一桁ですね。ゾウ自身が大きい動物で、群を作って暮らしていて、群れ社会の中で子育てをしていくと。なのでそれ相応の施設、上野動物園も、平成16年ごろだったと思いますけれども、リニューアルしてですね、十分な繁殖ができるようなスペースを作って、取り組んできたというところですね。」
ただ、オスとメスを飼ってればいい、というわけではないんです。充分な繁殖ができるスペースを確保するため、ゾウの放飼場をリニューアル。ゾウはメス同士の群れを作って暮らし、オスはつかず離れずの距離にいる。基本的には、そういう群れ社会の中で生活し、子育てをしていくそうなのです。
だから、本来のゾウの生活、ゾウらしい生活ができる環境を整えた、ということです。繁殖行動を促す技術も必要だが、それだけではうまくいかないところが、ゾウが社会性の高い動物、というところかなと思います、と冨田さん。
★動物園それぞれの「コレクションプラン」?
とはいえ、それぞれの動物に、その動物らしい生活のできる施設、というのは大変なことです。限られた園内で、スペースもそれぞれの都合がありますから、簡単な話ではありません。
ただ国際的には「飼育の体制がないなら飼うべきではない」というのが主流になってきているそうなのです。動物園ライターの森由民さんのお話。
- 森由民さん
- 「国際的にもそういう状況でなければゾウは飼うべきではないという時代になってきていまして、日本は遅ればせながらではあるんですけども、最近は、とにかく群れが作れるような状況なら作りましょうと。逆に中には群れで飼う施設作れないから、今のこのおばあちゃんのゾウが世を去ったらそこで終わりにしましょうって決断をしている動物園もあったり。札幌市の円山動物園などは、ゾウやホッキョクグマなどについては施設を拡大してきちんとやっていくよという方向にすると同時に、何種類かの動物はもうやめますっていう「飼育断念種」っていうのを、同時にリニューアルプランとして発表してますね。「コレクションプラン」っていう言葉がありますが、今まで色んな動物いる方が華やかでいいよねっていう雰囲気だったのを、絞り込んで、その絞り込んだ動物についてはきちんと飼いましょう、方針のはっきりした展示をしましょう、繁殖して世代を繋ぎましょうっていうふうになってきています。」
環境問題などの影響で、多くの動物が絶滅の危機にさらされている現代、動物園の飼育、展示方法も時代と共に変わってきているんですね。動物園での飼育下で動物を守り、増やしていく必要があるからです。
だから、たくさんの種類の動物を飼うのがいい、ではなくて、ちゃんと飼うことが大切。札幌市の円山動物園では、今いる固体は大切に飼うけれども、それら亡き後はもう飼いません、という動物を35種決めて、今後園内の動物の種類を減らしていく計画を発表しています。ほかの動物園もこういった計画を公表しています。
一つの動物園でたくさんの動物を見ることができるのは、見る方としては楽しいことですから、寂しい気もします。
でも、それぞれの動物園が種類を絞り込んで、得意な動物の繁殖・飼育環境がちゃんと整うと、例えばゾウを、そうした施設同士で貸し借りして、繁殖のペアを作れる。今までは、施設のいい、繁殖がうまくいった動物園のペアの子孫ばかりが増えて、数は増えているけれど、その次の世代が作れない、ということになってしまう心配があった。しかし、国内で動物たちを移動できれば、幅広い交配に期待できるようになります。
★国際的に信用される動物園へ!
動物園の環境が変わる中で生まれた上野動物園のゾウの赤ちゃん、これには大きな意味があると、森さんはおっしゃっていました。
- 森由民さん
- 「ホッキョクグマなんかは、ゾウと同じでかなり厳しい基準があるんで、国際的に飼育基準っていうのは。で、その飼育基準を満たした施設を造ろうという動きも進んでます。そうすれば、海外からも「日本の動物園、あそことあそこは、健全な施設があるから、ホッキョクグマ送ってもいいよね」っていう形で、ホッキョクグマを海外から貰うこともできたりっていう可能性が開けていくわけですよね。ゾウも同じです。国際的にも信用されるっていうのが中長期的な目標。他の例えばアジアの国々とかでも、欧米とのネットワークを築きながら動物園どんどん良くなってきてるんで、そういう意味では世界的にそう動いてるんだよ、だからこそ今回、上野でゾウが産まれたというのは、ようやく日本もちゃんとできるんだよって言えそうになってきたなっていう思いです。」
動物飼育の国際的な基準が厳しくなっている一方、逆にそれを満たして評価されれば、国際的な動物の交流に道が開ける。それは、安定的な繁殖に繋がっていくネットワークを手に入れられる、ということですからね。
森さんは「大上段に構える必要はないんですが」と言いつつ、「今回産まれた上野動物園のゾウが元気に育っていくということは、日本の動物園が良くなっていると、世界に向かって言えるとと思います」と。
上野動物園の冨田さんは、「まあ、本当の一歩ですね。まだまだ、このゾウを健康に育てていくという大きなミッションがありますから。」とおっしゃっていました。
しかし、飼育環境を改善してゾウらしい生活を作ることで繁殖に成功したということは、やっぱりこれは大きな一歩では!?と取材をした私は思いました!
動物を「檻に入れる」という時代から、「本来の環境を作る」時代に。人間も動物も環境というものは大きな問題であることは同じ。赤ちゃんが生まれたという小さいニュースから、世界の変化が見えてきますね。