きのう「全国の自殺者の数が、7月を境に増加している」という発表が、厚生労働省の関連団体からありました。7月以降、特に女性の自殺者が大幅に増加しているそうですが、つらい悩みを抱えている方、不安のある方は、ひとりで抱え込まず、身近な窓口に電話相談を、と呼び掛けています。
きょうはそうした相談窓口の代表的な一つ「いのちの電話」について、10月22日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。
「いのちの電話」では、いま何が起きているのか?まずは、コロナ以降、どんな相談が増えているのか、「東京多摩いのちの電話」の事務局長、小原 彰子(おばら・あきこ)さんのお話。
★コロナ関連の相談も増えている「いのちの電話」
- 「東京多摩いのちの電話」事務局長 小原 彰子さん
- 「コロナで仕事が出来なくなった、辞めなければいけなかったり、(自粛生活で)家庭にいてストレスが溜まるという相談もある。「先の見えない不安」を、皆さん感じている。それと、やはりこのところ著名な方の自死が続いているので、動揺して落ち着かない方はいると思う。ほとんど休む暇なく、(受話器を)置いたらすぐに電話が鳴る状態なので、やはり、引っ切りなしにかかってきている。気持ちや不安を聞きながらそれを共有し、その方の気持ちが軽くなったり、自分で何とかしようという気持ちが芽生えてくるのを、一緒に時間を過ごしながらお手伝いするのが重要。長い方だと、何時間という単位になることもあります。」
コロナ以前から、人生悩んでいる、精神疾患で不安な気持ちが続いている、仕事・対人関係の悩みなどが多いそうですが、現在はそれに加えて、コロナ関連の相談も加わって、電話が鳴り続けるそうです。
そもそも「いのちの電話」は、50年ほど前に発足した組織。電話を受ける拠点として、全国に50の事務局があり、ボランティアが交代で相談にあたっています。そしてとにかく悩んでいる方の声にしっかり耳を傾けて、長い場合は、何時間もかけて、気持ちが落ち着くまで寄り添うという相談拠点になっています。
ただ、各事務局は資金の確保が非常に厳しく、電話回線に限りがあり一度に受けられる本数が非常に少ない…。東京多摩でも、小規模な事務所の中で、相談員同士のソーシャルディスタンスも保ちながら電話対応にあたっていて、鳴り止む瞬間がない状況が続いているそうで雨。
★相談員が足りない!
そうした中で、今、さらに問題となっているのが「相談員が不足している」こと。何が起きているのか?全国のいのちの電話を統括する、「日本いのちの電話連盟」の理事、清水 康雄(しみず・やすお)さんに聞きました。
- 「日本いのちの電話連盟」理事 清水 康雄さん
- 「相談員になる方が、若い人たちが相当減っている。昔はご主人が働いて、奥さんは家庭にいる時代があったが、今は共稼ぎの時代なので、ボランティアをやる余裕がないのが、今の日本の実態。相談員になるためには、1年半~2年かけて自費で勉強し、試験に合格したら相談員になれる。1年半の研修の間に、途中で一回、向き不向きの判断をしている。(電話を)かけて来くる方の事を考えると、「何、この人?」っていう風になったら、「いのちの電話」そのものに問題が起きてくる。ですからやはり、相手に寄り添える方を相談員に認めていくことが大切。」
フルタイムで働く人には厳しい条件となってしまいます。
また、この「人手不足」に加えて「高齢化」も深刻で、平均年齢は60代のところも…。体力的な問題もありますし、相談の質の維持のため、一定の上限を定めている事業所もあるので、このままだと減る一方となってしまいます。
また、相談員は誰でもいいわけではなく、しっかり相談者に寄り添えるよう、研修を行って育成します。向いてないなという場合には、別のお仕事を手伝ってもらうこともあるそうです。相談員は増やしたいけど、相談者のためを考えると簡単には増やせない、そんなジレンマが見えてきました。
★「いのちの電話」は3種類
それでも、自殺のニュースの際に、必ずと言っていいほど紹介されるのが、この「いのちの電話」。その度に回線が集中し、ますます繋がりにくい状況が起きているようです。そんな中、連盟にはこんな電話が来るんだそうです。
- 「日本いのちの電話連盟」理事 清水 康雄さん
- 「連盟にも、フリーダイヤルがなかなか繋がらないと文句を言ってくる人がいる。「いのちの電話は国からお金を貰ってやってるんでしょ、なぜそれが繋がらない。テレビに電話番号出してるのに、繋がらないとは何事だ」とお叱りを受けることがある。我々は、「フリーダイヤルの電話代だけは国から頂いているが、それ以外は全てがボランティアで、寄付を集めてやってる」と言うと、知らなかった、本来それは国が出すべきじゃないかと、クレームをかけてきてくれながら、こちらを理解してくれる方も結構おられた。」
いのちの電話の運営費は寄付で賄っていますが、その寄付自体も相談員さん自身が寄付している事も。相談員の善意に頼り過ぎている構造も、大きな課題と言えそうです。
清水理事によれば、「いのちの電話」には、3種類の電話があるそうです。
①全国の空いているどこかにつながる「無料のフリーダイヤル」
0120・783・556
(毎日午後4時〜午後9時まで。
毎月10日は午前8時〜翌午前8時)
②近場の空いているどこかにつながる「有料のナビダイヤル」
0570・783・556
(午前10時〜午後10時まで。)
③特定の相談所への「直通ダイヤル」の3つがあります。
全国の「いのちの電話」直通ダイヤルは以下URLから。
https://www.inochinodenwa.org/lifeline.php
フリーダイヤルでダメなら、他で試して欲しいということでした。
また、ドキッとしたのは、「自殺者の数が、もっと増えるかもしれない」という小原さんの予感です。東日本大震災の後もそうだったようですが、混乱が落ち着いた後に、増える傾向があるということ。これからますます、支える仕組みが大切になってくるようです。
そういうことを考えると、ボランティアの善意だけではなく、国など公的な支援、それこそ「公助」が足りないと感じました。
★放送では「東京多摩いのちの電話」で、「65歳定年」で、また「不適性のため辞めていただいたケース」があるととれる表現でお伝えしましたが、「東京多摩いのちの電話」の定年は「70歳」で、その後も話し合いにより延長の道があります。「65歳」は現在の募集の上限年齢でした。また「東京多摩いのちの電話」では、「不適性のためやめていただいたケース」は、ほとんどないということです。