今日はマスクとコミュニケーションに関するお話。いま、神奈川県の南足柄市役所で、名刺大の笑顔の写真を胸元につけて、マスク姿で業務をする、という取り組みが行われている、と聞きました。そこで・・・。「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」!!
今日10月19日(月)は、『マスクの下は笑顔です!大人には名案ですが・・・』というテーマで取材をしました。
★顔写真でマスクの下の顔を見せています
そこで、南足柄市 総務課長・矢野幸男さんに、早速、お話を伺いました。
- 矢野幸男さん
- 「いま職員は全員マスクを着用していますけれども、顔が分からないということで、話しにくさは感じているようですね。そこで、顔の見えるコミュニとケーションを図りましょうということで取り組みを始めました。あの、やってよかったな、と思ってます。写真つけて、これで解決できる!っていうわけではないですけれども、助けのひとつになるというんですかね、少し役に立てている、という風に考えてます。これはですね、本当は会心の笑顔っていうんですかね、そういうのがいいのかもしれないんですけど、市役所はいろんなお仕事がありまして、中には非常に深刻なお話、ご相談に来られる方がいます。そういう職場はそれなりに考えたものにしましょう、ということでやってます。」
利用する市民に顔が見えるようにした、ということなんです。市内にある富士フィルムの工場で行っていたこの「マスクの下は笑顔です」という取り組みを、矢野さん達が聞きつけて、これはいい!と採用。市の職員全員と市内を走る伊豆箱根鉄道と一緒に、今年の7月から始めました。
ちなみに、この工場は全国で使われる、インスタントカメラ「チェキ」のフィルムを作る工場!!というわけで、名刺大の写真というのはチェキのサイズです!
窓口の性質によって「満面の笑み」から「モナリザのような微笑」まで、笑顔の段階?具合?も配慮しました。全職員ということで、顔写真を嫌がる人や気に入るまで撮り直したい人もいて(この気持ちは分かりますよ!笑)、大変だった矢野さんですが、市民の反応は上々。声をかけられることが増え、「話しかけやすくなった」という感想も届いています。
★口元の表情は重要!大賛成です!
それにしても、笑顔の写真一枚で、そんなに変わるものなのでしょうか?マスクとコミュニケーションに詳しい先生に聞いてみました。東大名誉教授で、日本顔学会理事の原島博先生のお話です。
- 原島博さん
- 「いま市役所で行われている試み、非常に大切なことだと思っていて、大賛成です、実は。おそらく市民の方は、安心して相談できると思います。マスクをしてると相手がいったいどんな人か分からないわけですよね。そういうときに、一種の信頼関係を結ぶという意味で、こういうマスクの時代だからこそ、写真であっても顔を見せるということは重要だと思っています。特に顔の下半分、口元を隠すというのがマスクなわけですよね。やっぱり表情を自由に作れるのは目よりも口元ですからね、目ももちろん大切ですが、相手との表情コミュニケーションという観点では、口元は非常に大切ですよね。」
南足柄の取り組みに大賛成!と原島先生。表情コミュニケーションにおいては、表情を自由に作れる口元がとても大事だから、そこが見えるのは大切なポイント。特に笑顔の写真であることはとてもいい!と。確かに、『目元だけで笑っているかを判別するのと、口元だけで判別するのと・・・』と考えてみると、口元の表情の大切さを実感します。
原島先生は、ネット上などの顔を隠したコミュニケーションを「匿名」をもじって『匿顔』と名付けていますが、マスク必須の生活様式になった現在は、いわば現実世界も「匿顔のコミュニケーション社会」となってきているのです。だからこそ、写真ででも、しっかりと顔を見せることは信頼関係を結ぶ手立てになる、ということでした。
南足柄市の矢野さんは、今後この取り組みを市内全域にもっと広げていければ、と話していましたが、原島先生も大賛成でした。
★大人には名案なんです!しかし・・・
ただし、ひとつ気を付けてほしい点がある、と原島先生はおっしゃいます。
- 原島博さん
- 「じゃあ、学校でも、という、そういう話もあるかもしれませんけれども、僕はそれはそれはちょっと違うと思うんですよね。知らない方と信頼関係を結ぶ時には顔写真というものが重要なんですけれども、学校でということでは、その人がどういう人かはもう知っているわけですよね。そういう時にはむしろ心のコミュニケーション。コミュニケーションというのは色々なレベルがあるんですよ。役所で社会的なコミュニケーションをする場合と。子供達で一番大切なのは、相手の気持ちに立って共感するという心のコミュニケーション能力を養うことなんです。そういう能力を養うときに表情のコミュニケーションが出来なくなっているということは、かなり危ないと思います。例えば、子供たちが3か月コミュニケーションが何もできないということになったら、それは大人でいうと、その数倍の時間に相当するわけですよね、マスクが日常的になるということは、子供たちにとってすごい怖いことだと思っています。」
大人には名案なのです!!でも、子供達にはちょっと違う。学校での子供達同士や子供と先生とのやり取りで、子供はそのコミュニケーションを通して様々な物事を学び、養っていきます。それは大人同士の市役所などでのコミュニケーションとは違うのです。成長の過程での、いわばトレーニングとしてのコミュニケーションにおいては、やはり写真ではなく、生の表情がどうしても不可欠だ、ということなのです。
しかし、子供達から、それを奪う時間が増え、長引いているのが現状。原島先生はもちろんマスクがいけない、と言っているわけではありません。しかし、マスクが日常的になることを非常に心配していました。感染対策と、子供のコミュニケーション能力を育むこと、その両立の工夫を新しく考えていかなければいけませんね。

近堂かおりが「現場にアタック」で取材リポートしました。